ギルド
~二十八章~ギルド
扉をくぐると、中からワッと喧騒が広がる。
ギルドの中は渾沌としている。
食事をする者、酒を飲む者、掲示版を睨んでいる者など、様々だ。
俺は奥のカウンターへと進み、受付と思われるお姉さんへと話しかける。
「すいません、冒険者ギルドに登録したいんですけど?」
「はい、ご登録ですね。何方かの紹介状は御座いますか?」
「あ、えっと、これです…。」
サイドバッグからディアスに貰った紹介状を渡す。
受付のお姉さんは紹介状を一読すると…。
「し、少々お待ちください!」
と言って奥へと入って行った。
暫くしてお姉さんが戻ってきて、奥の部屋に通された。
部屋に入ると、一人の爺さんが椅子に座って紹介状を読んでいた。
俺が部屋に来た事に気が付くと紹介状を机に置き、こちらに向き直した。
「ようこそ、冒険者ギルドへ!若い奴が入るのは嬉しいよ。歓迎する。儂はこのギルドを仕切るギルドマスター、ヨーゼフだ。」
「えっと、大鳥 勇士です。」
「紹介状を読ませて貰ったよ。あのディアス・トレーからの紹介状とはね…。中々に驚いたよ。」
ディアスさん実は結構な大物なのか?
「で、登録は可能なんでしょうか?」
「ああ、何も問題はねぇよ。登録の説明なんかは、レベッカがしてくれる。」
そう言うとさっきの受付のお姉さんがスッと前に出て来る。
「クエスト斡旋の窓口をしております、レベッカと申します。」
「ご丁寧にどうも、大鳥 勇士です。」
ペコリとレベッカさんと会釈を交わす。
「それでは登録を致しますので、受付カウンターへお越しくださいませ。」
レベッカさんに促されギルドマスター部屋を後にする。
出て行く時にヨーゼフさんに呼び止められる。
「ああ、そうそう、小僧!一つ言っておくぞ!冒険者ギルドは基本的には自由に活動してくれて構わねえが、問題を起こした時は、自分で解決するって事だけ覚えておいてくれ。」
「責任は自分で持て、って事ですね。」
「そういう事だ。魔物の討伐に行って、命を落としてもギルドは責任を持たないって事だ。」
「分りました。重々、気を付けます。」
ギルマスから基本理念のレクチャーを受け部屋を後にする。
受付カウンターに戻った俺は登録をする為、レベッカさんに説明を受ける。
「では、まず此方の用紙に必要事項を記入して下さい。」
此処で俺はふと気が付く。
ヤバい、この世界の文字を俺は知らない…。
流石に平仮名が使えるとは思えないのだが…。
「この世界に来て、書物を眺めるなんて、した事無いからな…。」
小声で呟く俺を見たレベッカさんが提案をしてくれた。
「良ければ代筆を致しましょうか?」
「す、すいません。お願いしても良いですか…。」
「ええ、構いませんよ。読み書きが出来ない方でも登録出来る様に代筆はサービスとなっていますから。」
「読み書き出来ない人は多いのですか?」
「そうですね。貴族様や上級市民の方の様に学ぶ機会が有れば別ですが、そうでない人達は教会で学ぶ位しか機会が有りませんから…。必然的に読み書きが出来る人達は少なくなるのです。」
「そうなんですね。教会か…。」
俺も機会が有れば学んでみようか…。
「では、登録に必要な事柄を質問して行きますね。」
その後レベッカさんから、登録に必要な氏名や年齢、などを聞かれ答えて行く。
「次にオオトリさんの職業は、何ですか?」
質問の内容に言葉が詰まる。
俺の職業は盗賊…。
声高らかに名乗れる職業では無いのだが…。
「えっと…。その欄は空欄じゃ駄目何ですか?」
「そうですね。パーティーを組む時の指標の様な物に成りますから、ギルドでは必須の記入項目に成っております。」
これは誤魔化しが効かないか?
回りに聞こえない様に小声でレベッカさんに伝える。
「えっと…。盗賊です。」
「盗賊ですね。」
レベッカさんは何食わぬ顔で盗賊と記入して行く。
あれ?普通は盗賊と聞いたら、衛兵辺りを呼んで、突き出されても可笑しく無いのでは?
気になった俺はレベッカさんに尋ねる。
「レベッカさん…。俺、盗賊何ですが、衛兵とか呼ばなくても良いのですか?」
「え?はい?何か問題でも…?」
レベッカさんはそれが何か?とでも言いたげに首を傾げる。
こっちが首を傾げたいよ!俺、盗賊だよ!?
困惑する俺を見て、レベッカさんはポンと手を叩く。
「ああ。オオトリさんは賞罰の話をしているのですね。」
賞罰って何?
それと盗賊と何の関係が?
「オオトリさんは自分の職業が盗賊だから捕まるのではと気にしているのですね。」
「はい…。そうです。」
俺の気持ちを代弁してくれて、ありがとう…。
「大丈夫ですよ。職業が盗賊だからと言って罪を犯していない人は裁けませんから。」
「えっと、つまり?」
俺はもう少し詳しく説明してくれる様にお願いする。
「職業はいわば、その人の資質の様な物です。生まれた時に教会などで授かるそうです。成長と共に資質に応じた特技を覚えると言われますね。なので多くの人は授かった資質を大切にしてその道へと進む事が多いそうです。もちろん、盗賊の様に犯罪者寄りの能力を授かった場合は、あえて無視してみる人も多いですね。なので、職業が盗賊と言っても実際に犯罪を行わない限りは問題は有りませんよ。」
「なるほど、一安心です。」
この世界では盗賊と声高らかに名乗っても問題ない様だ。
あれ?じゃあ、盗賊と山賊の違いって何だろう?
「あの、すいません。山賊ってどういう存在なんですか?」
「山賊ですか?まず、山賊と言う職業は有りません。基本的に山賊を名乗る人達は犯罪を犯し罪を償わずに逃亡を続けている人達です。そんな人達は、ギルドなどの施設を使用出来ませんから、食うに困って追い剥ぎなどを致します。その様な人達は賞金が掛けられたり、定期的に騎士隊が討伐していますね。」
「罪を償わずにですか…。」
「罪の具合にも寄りますが、出頭して、罰金又は数日間の拘留、もしくは騎士隊からの依頼完遂などで、罪を消す事も出来るのですけどね…。」
なるほど、とにかく犯罪を行わなければ良いと言う事だ。
うん!気を付けよう!!
衛兵の集団に追いかけ回されたくない!!
しかし、ここに来て初めてチュートリアルっぽい説明を聞いた気がする。
ホント、この世界…、ゲームなのか異世界なのか良く分からないんだよな…。
「では、以上で質問事項の終了です。ギルドカードの発行を致しますので、少々お待ちください。その間にギルドのシステムを説明させていただきますね。」
受付嬢レベッカの講義は続く。
UPしました。
ブックマーク数が100件を超えました。
まだまだ、これから頑張ります。




