別れ
~第二十三章~別れ
「綺麗…。」
エリナさんの口から言葉が零れ落ちる。
俺が取りだしたのは『鎚・聖者の慈悲』
鎚、つまりメイスの事だが武器の類の割に精錬された美しさが有り、どこか神々しくさえある。
しかし特筆するのはその特殊能力!
『回復魔法強化』!!
「小ヒール!!」
俺は鎚・聖者の慈悲を片手に小ヒールを唱える…。
少しでもいい!少しでもいいから回復量を増やして時間を稼いでくれ!!
俺は小ヒールを唱えると時間を図る…。
3…、4…、5…、6分…。と、6分を少し過ぎると子供達が苦しみ始める…。
単純に回復量は2倍に増えたと言う事なのだろうか…。
と言う事は、あと約24分がタイムリミット…、間に合うだろうか!?
時間は無情に流れる…、6分、12分、18分。
その度に俺は小ヒールを掛け直す。
あと一回分…。この6分間が生死の分かれ目だ。
が、その時!奥の部屋からシスターが飛び出して来た。
確かマリエラと呼ばれていたシスターだ。手には乳鉢を持っている。
「で、出来ました!出来ましたよ!!く、薬!!」
エリナさんを含め数人のシスターがマリエラの元へと集まり乳鉢に入った薬を三等分して各子供達の元へと駆け寄る。
「さあ、これを飲んで。」
エリナさんは一人の子供を抱き起して器に入った薬を口元へと持って行く。
子供達は衰弱しているのか上手く飲む事が出来ない、俺は最後の小ヒールを子供達に掛ける。
少量の体力を取り戻した子供達は薬をゴクリと飲み込む事が出来た。
それを見ていたシスターや司祭様、村の人々達、そして何より親御さん達は一様に安堵の吐息を漏らす。
すると途端に子供達の顔に生気が戻り、呼吸も整いつつある。
「もう、大丈夫でしょう。命の危険は去りました。」
司祭様が子供の無事を確認する。
村人達から歓声が上がる、親御さん達はシスターや司祭様にお礼を言っている。
エリナさんが横に来て頭を下げる。
「ユウシさん。子供達を助けてくれて本当に有難う御座います。危うく、尊い命を失う所でした。」
「あ、頭を上げてください。エリナさん。俺はただ自分に出来る事をしただけ何ですから。」
エリナさんとやり取りをしていると、お礼を言って回っていた親御さん達が挨拶をしに来た。
「旅のお方。ウチの子供を助けてくれて有難う。ヤンチャな坊主だが、俺達夫婦の変え難い宝だったんだ。本当に有難う。」
涙ながらに手を握られてお礼を言われてしまった。少し照れ臭い…。
「旅人さん、それでお礼の方なんだが…。」
そういえば薬針を取ってきたらお礼を…と言う話だっけ。
「あんな話をしておきながら実は大した貯えは無いんだ…。すまない…。かくなる上は俺を奴隷として町で売って出た金を報酬とする事で納得しては貰えないでしょうか?」
父親と思しき男が深く頭を下げる。
奴隷として売ってくれ…って、出来る訳無い!
心配そうに夫を見つめる奥さんと目が合う。ニッコリと微笑み返す。
「大丈夫です。その必要はありません。お礼ならば、司祭様より回復魔法の小ヒールを受け取っていますから十分ですよ。」
他にも魔物の素材を回収しているので、それだけでも十分過ぎる位だ、その上で、子供達から父親を奪うのは可愛そうだ。
「い、いえ!?しかし!危険を冒してまで魔物の巣まで薬針を取りに行ってくれたのです。
それ位の事をしなければ恩をお返しできません!」
「必要ありません!」
しっかりと強めに否定しておく、でないと本当に身売りに行きそうなのだ…。
「その分、しっかりと子供達に愛情を注いで育ててあげて下さい。」
そう言い放ち、返しの句を聞かない様に教会の外へとそそくさと退避する。
外に出る時にエリナさんも一緒に付いて来た。
「良かったのですか?内容は如何あれ、胸を張ってお礼を受け取るだけの事をユウシさんは行いましたよ?」
「良いのですよ。元々、子供達を見捨てられず、助けに出たのは俺の意志でしたしね。他の誰かに褒められる為にやった事ではありませんから。ハッキリ言って自己満足ですよ。」
そう、自己満足の為だ。
子供達を見殺しにして夢見が悪くなっては堪らないからだ…。きっと…。
「ユウシさんは優しいですね…。」
そういうとエリナさんは微笑む。
微笑むエリナさんに少しドキッとする…。今のは不意打ちだった…。
胸のドキドキを抑え込み平静を装う。
「あ、あの…。エ、エリナさ…。」
「ユウシ殿~!!」
突然、遠くから呼ばれ言葉が途切れる。
声の聞こえた方を見るとディアスが手を振って此方にやって来る。
「ユウシ殿!探しましたよ!此処に居たのですか!?」
どうやらディアスは俺を探していた様だ。
そういえばキラービー退治に行く事をディアスに言ってなかった…。
随分と探させてしまった様だ。
俺はキラービー退治に行っていた事、子供達が助かった事をディアスに説明する。
「何と、その様な事が…。子供達の無事は先ほど村の人が話していた事をお聞きしました。」
しかし、それはそれとして、大事な商品をサイドバッグに入れたまま危険な事をしないでくれと少し怒られてしまった。確かに、外で俺が行方不明になったらディアスは荷物の回収が出来ないのだから心配もするだろう。ちょっと反省…。
「しかし、ユウシ殿がキラービーを追い払ってくれたお陰で草原を通行出来る様になったそうです。先程村の人が言っていました。早速で申し訳ありませんが、急ぎレミアムの街へと出立したいのですが?」
「分りました。すぐに準備します。」
と、言うとエリナさんに袖を掴まれている事に気が付いた。
「あ、あの、ユウシさん…。もう、出発してしまうのですか?」
上目使い気味に、潤んだ瞳で見つめられる。後ろ髪を引かれる思いだ…。
「はい。これから、レミアムの街へと出発しなければ行けません。」
「そうですか…。寂しくなります…。」
「また、エリナさんに会いに来ても良いですか?」
そう言うとエリナさんは潤んだ瞳でのまま笑顔をくれた。
「はい!また逢える日を楽しみにしていますね。」
「はい。また、会いましょう。」
俺はエリナさんと再会を約束してからディアスと共にサリオン村を後にした。
UPしました。




