馬車横転
~第百五十二章~ 馬車横転
二台の馬車がゾンビの群れの中を強引に駆け抜ける。
「どんどん撒け!馬車に近寄らせるな!」
先頭の馬車に取り付けられたノズルから勢い良く聖水が放水されると一時的ではあるが、アンデット達が近づけない道が出来上がるので、その間を縫う様に馬車を走らせるのであった。
これは出発前に効率的に聖水が撒けない物かと考えていた時に水鉄砲の様な物が有ったら便利だなぁ、と考えた物をマルルに形にして貰ったのだ。
『腕用ポンプ』と言ってシーソーの様に交互に取っ手を押さえてポンプを動かし放水する道具だ。
俺もそれ程詳しい訳では無いので簡単な仕組みしか説明出来なかったが、マルルは見事この短時間で腕用ポンプを形にしてくれた。
「オラオラッ、成仏しやがれですぅ!」
本来ならば二人掛かりで使用するべき手押しポンプを片手で操作しながら、もう片手で伸びたホースを持ちつつ辺りのアンデット相手に聖水を散水する。
「WWWooo……」
聖水を浴びたアンデットは片っ端から白い煙を上げて灰の塊の様に成って崩れて行く。
凄い効き目だ。やはり聖水作成のLVを上げておいて正解だった。のだが……
「いやっほぅ~、くたばりやがれですぅ!」
……聖水を撒いて辺りのアンデット相手に無双をするマルルのテンションが若干高いのは気のせいだろうか?
「こういうのもトリガーハッピーって言うのかな……。」
そんなマルルの聖水無双を横目に俺は御者席から魔法弓による攻撃を行う。
先程から何十、何百というアンデッドを屠っている為かLVUPを告げるメッセージ画面が先程から数度現れては消えて行く。
LVが上がって嬉しくは有るが、確認は後回しだ。
兎に角、今はこの場を凌ぎ切るのが先だ。
「ユウシさん、そろそろ聖水が切れそうです。お水の補充をお願いします。」
「分かった、今行く。ペロ、イナズマを頼む。」
そうしてペロと場所を交代して馬車の荷台へと向かう。
まあ、以心伝心のスキルが有るお陰で別に御者席に誰かが居なければいけないと言う事は無い。イナズマは頭が良いから自分で判断して走ってくれるしね。
ただ、今回はゾンビの群れの中を走るとあってイナズマの身を守ってあげなければいけない。
最初、ペロは護衛の人達から借りた予備の弓矢を使わせてもらっていたのだが、余り上手くは扱えない様だった、だからと言って剣で迎え撃つにはリーチに問題が有ったので代わりにマジックサイドバックから取り出した槍『聖騎士の斧槍』を貸している。
ペロは疾走するイナズマの背に器用に立つと近づくアンデットを片っ端から払い飛ばして行く。
イナズマはペロに任せておけば問題は無いであろう。
「ディアスさん達の馬車は付いて来ているか?」
荷台に戻ると後方の確認を担当しているエリナに状況を聞く。
「はいっ!ピッタリ後ろに張り付いて来ています。」
「良しっ、あと少しで村を走り抜けられる筈だ。この調子で進も(ガッシャーン!!)うっ!?」
後方で大きな破壊音が響く……。
「何だ、今の音は?」
破壊音は後方を走る馬車から聞こえた様だが……。
「ああっ!?大変……、後ろの馬車が横転しましたっ!!」
何だって!?
荷台で聖水の準備をしていたエリナがいち早く破壊音の正体に気が付き知らせてくれる。
「イナズマ、馬車を停めて……いや、方向転換して倒れた馬車に向ってくれ。助けに向う。」
「ウ、ウンッ、ワカッタ。」
「マルル、横転した馬車の周囲に聖水を散布。ペロはこの馬車に近づくゾンビを倒してくれ。」
「了解しました。」
「お任せですぅ。」
「馬車には怪我で動けない人が居るかも知れない、俺とエリナはその救助だ。」
「はい。」
イナズマが横転した馬車に辿り着くと、ディアス達は馬車から這い出しており、迫るゾンビ相手に武器を構えていた。
「マルル、聖水だ。」
俺の掛け声と共に聖水がゾンビの群れに向って放水される。
聖水を頭から被ったゾンビは物言わぬ灰塵へと姿を変える。
「ディアスさん、大丈夫ですか?」
「ユウシ殿!?戻って来てくれたのですか!?」
「当たり前じゃないですか。見捨ててなんて行けませんよ。それで怪我はしていませんか?」
「ええ、幸い軽く体を打った程度です。動く分には問題有りません。」
「それは良かった。……馬車は立て直せそうですか?」
「無理です……申し訳ありません、馬車が石に乗り上げた衝撃で車軸が折れてしまった様でこれ以上は身動きが取れません。」
「ならば此方の馬車に乗り移って下さい。急いでこの場所から離れましょう。」
「分かりました。」
ディアスはそう言うと護衛の人達と共に急いで馬車へと乗り込んだ。
そうしている内にゾンビの群れが馬車を取り囲み始めた。
「良し、皆乗り込んだな?離脱するぞ。マルル、聖水でゾンビの群れに風穴を開けてくれ。」
「お任せですぅ!オラオラ、道を開けやがれですぅ……うっ?あれ?あれ!?」
腕用ポンプを上げ下げするが、力無くシュコシュコと音が響くだけで水が出てこない……。
「ユ、ユウ!聖水が切れましたっ!!」
しまった!
さっき聖水の補給が出来無かったから……。
俺はギリッと奥歯を噛み締める。
アンデッドの群れは俺達を完全に取り囲むと、ジリジリとでは有るが徐々にその包囲網を狭めて来るのだった。
「ユウシさん、結界を張りましょう!」
「分かった。だが、ギリギリまではアンデッドの数を少しでも減らしておくぞ。エリナは俺が合図したらすぐに結界を張れる様に準備をしていてくれ。他の皆は馬車から離れすぎない様にアンデッドを迎撃だ。」
其処からは皆、獅子奮迅の健闘を見せた。
ペロは渡して置いた聖騎士の斧槍を器用に振り回すとアンデッドを次々と薙ぎ払う。
まるで何処かの無双ゲームでも見ている気分だ。
マルルは腕用ポンプが取り付けられていた馬車から降りると、地面に転がっている適当な岩を拾い上げ、アンデッドの群れへと思い切り投げ付ける。
ゴースト等には効果は無いが、群れの大部分を構成するゾンビには効果抜群だ。
言葉じゃ言い表せない位、スプラッタな状況が更にスプラッタな事に成っている。
ディアスさんの連れて来た護衛の皆さんも結構腕が立つ様で迫るゾンビ達を次々と切り捨てて行く。
それでも聖銀加工されて居ない装備なので、ゴースト等の物理攻撃が効かない魔物は俺が魔法弓でフォローを入れながら戦うが、やはり戦いは数が物を言う。
少しずつ俺達は戦いの場を狭めて行く事と成ってしまった。
「ここ等が限界か……。エリナ、頼む。」
「――――結界!」
エリナの結界が発動して光の輪が俺達を取り囲む。
と同時にアンデッド達が俺達目掛けて殺到する。
「A゛A゛A゛A゛A゛aaaaa!」
「UUUUUuuuuu……」
「A゛A゛A゛aaaaa――」
取り囲んだアンデッドがバチバチッと音を立てて結界を叩く。
「(これ……、そう長くは持たないんじゃ無いだろうか?)」
流石にこれだけの質量で結界に迫られれば強固な結界でも持たない気がする。
四方八方を取り囲まれて、ちょっとした……いや、正真正銘これは地獄絵図だ。
「ユウシさん……、その……、手を握って貰えますか?」
そう呟くとエリナは俺に杖を持って居ない反対の手、左手を差し出して来た。
差し出された左手は震えていた。
俺はすぐさまエリナの手を取ると、強く握り絞めた。
「……御主人様?わ、私も手を握っていても良いですか?」
ペロもオズオズと手を出して来たので此方も強く握り返してやった。
「ボクは……、抱き付いてますぅ。」
マルルはそう言うとヒシッと俺の腰に抱き付いて来た。
皆の温もりが直に伝わって来るのが分かる……。
「(皆、ごめん……。ここに来て正直、打開策が思い付かない。)」
結界に揺らぎが生まれ始めた……。もう駄目だ……。アンデッド達が雪崩れ込んで来る。
諦め掛けたまさにその時……誰かの声が響き渡る。
「結界の強度を上げろっ!!」
「えっ!?」
次の瞬間、炎の渦がアンデッドごと俺達を飲み込んだ。
評価&感想お待ちしてます。
「Dead・Monster!」
「桃太郎寓話伝」も連載中です。
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