森ドワーフ
~第九章~森ドワーフ
夢を見ている。夢を見ているのが分る。ああ、これは夢だ。
怖い男達に追いかけられる夢。
その上、崖から落下するとは、夢とは言え性質が悪い…。
体が痛い、変な所で寝てしまったかな?目蓋が重く開けるのが辛い。
ああ、起きてバイトに行かないと…。遅刻したら店長に怒られる…。
重たい目蓋をそっと開く。
「…?あれ…?ここはどこ?」
目を覚ました俺の瞳に映るのは見慣れた自室の天井では無く、見知らぬ部屋の天井だった。
俺は何故かベッドに寝ている。
服は脱がされ、代わりに体には包帯が巻かれていた。
「そうだ。思い出した。襲われて森の中を逃げ回って…。そう、崖から落下したんだ。」
あの20メートルは有ろうかという崖から落ちてよく助かった物だ。
我ながら運が良かった。
しかし今の俺の状況は一体どうなっているのだろうか?
あれから捕まってしまったのだろうか?しかし治療をしているという事は少なくとも追って来た男達では無いのだろうか?
そんな事を考えていると、部屋に背の低い、40代位の女性が入って来た。
「おや?起きたみたいだねぇ。体の調子はどうだい?痛い所は無いかい?」
「あっ?は、はい。まだ少し痛みますが、大丈夫です。」
俺は上半身をベッドから起こしながら返事をしようとするが、『そのままで』と女性に手で諭され再び横になる。
「今、温かいスープ、持って来てあげるからねぇ。」
女性はそういうと部屋を出て行った。
入れ違いに今度は髭がモッサリとした背の低い男が入って来た。
「オウ、お前さん目が覚めたかい。どうだ?体は平気かい?」
「はい。まだ少し痛みますが、大丈夫です。」
もう一度上体を起こしお礼を言う。
「そうか!そりゃ良かった!!」
と髭男はガハハッと豪快に笑っていると、お盆にスープを載せて女性が戻ってくる。
「お前さん、河のほとりで倒れてたのをウチのカカァが見つけてな、俺がここまで運んだんだ。」
「そうだったんですか。ありがとうございます。おかげで助かりました。俺、大鳥 勇士と言います。えーっと…。」
「俺か?俺の名はドラン、カカァの方は…。」
「マヌサよ。さあ、スープを持って来たから温かい内に食べなさいな。」
「ありがとう。いただきます。」
お礼を言い、スープを口にする。うまい!
思えば一日碌な物を食した記憶が無い。
スープの程よい塩加減の為か、あっという間に空の皿になってしまった。
それを見ていた夫妻はスープを食べる俺を見て始終にこやかだった。
「ご馳走様でした。」
結局スープを三杯ほどお代わりしてしまった。
食べ終える俺を見て、ドランさんは口を開いた。
「で、ユウシ、お前さん何であんな所に倒れてたんだ?」
俺はドランさん夫妻に森で、顔に大きな傷を持つ男が率いる集団に追いかけ回された事を話した。
「そうか、大変だったな…。ユウシ、お前さんを襲った連中はこの森の奥に住み着いている山賊の集団だろう。顔に大きな傷って言うと…。バンスって言う奴の率いるバンス山賊団だろう。」
山賊の様だ。と、思っていたがどうやら本当に山賊だった様だ。
「バンス山賊団が縄張りにしているのは此処よりずっと上流の方だ。ここまで流されてくれば奴らも追っては来ないだろうよ。今はゆっくり体を休めときな。それじゃ、俺は仕事に戻るとするか。」
そういってドランは部屋を出て行った。
食器を片づけてマヌサが服を抱えて戻ってくる。
「ユウシちゃん、これ旦那のお古だけど着てみてちょうだいな。」
マヌサが持って来た服を着てみた。
麻か何かで編まれた様な飾り気の無い服、いわゆる『布の服』だが少し丈が短い様だ。
「あらあら、流石に旦那のサイズじゃ小さいわね。他を仕立て直してあげるから今はそれで我慢してちょうだい。ユウシちゃんが着ていた、あの変わった服は洗って干してるからチョット我慢してちょうだい。」
変わった服か…。Tシャツにジーンスも此方の人達には変わった格好に見えるようだ。
そういえば山賊のバンスとかいう奴にも、変な格好と言われたっけ…。
着る服1つにも気を付けた方が良さそうだ。
ありがたく好意を受けておこう。
マヌサに礼を言い、サイドバッグを腰に巻き付け、外に出てみる。
外に出てみるとドランが斧を磨いていた。
「オウ、ユウシ!もう起きて大丈夫か?」
「はい。少し体を動かしたかったので。ドランさんは何をしていたんですか?」
「ああ、斧の手入れをな、これから森へ木を伐りに行くんだ。」
「木を伐りにですか?」
「ああ。俺は木こりだからな。俺もカカァも森に暮らす森ドワーフだからな。」
ドラン夫妻はドワーフだったのか…。だから背が低かったのか。
「よし!準備出来た。じゃあ、俺は森へ行ってくるよ。夕方には帰るからユウシは、あんまり無理せんようにしときな。」
ドランはそういうと、森へと行ってしまった。
まだ、ヒロインが出てこない…。




