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ハロウィン・レルムの奇妙な二人  作者:
第一章 少女は吸血鬼の花嫁となる
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魔族の微笑み

「初めまして、桜峰瑠璃様。私の名前はキョウヤといいます。以後、お見知りおきを」

 柔らかな微笑みを浮かべて瑠璃の寝ているベッドの横に膝をついた青年は、困惑している瑠璃の手の甲に軽く触れるだけのキスをした。

「聡明で気が強くレイン様に説教をすることができる奥様でよかったです。非常に安心いたしました」

 その微笑みに瑠璃は首を傾げた。


「褒められてるのかどうか微妙だと思うのだけれど」

「これは失敬。もちろん褒めているのですよ、私は。レイン様の傍若無人で自己中心的な性格を人間の奥様が受け入れてくださるのかどうか、私は心配して夜も眠れない日々だったのです。あ、私は魔族なので夜に眠るタイプなのですよ、はい」


 すらすらと決まっていたかのような口上で話すキョウヤ。なんだか世渡りが上手そうね、と思いながら、今までの会話で不思議に思ったことを聞いてみる。レインは何故か、自分の悪口を目の前で言われても黙り込んだままだった。


「魔族、っていうのはどんな種族なのかしら。それとあなたは何故ここに?」

「ああ、すみません、何も説明をしていなくて。私の種族である魔族は、そうですね……一言で言えば魔法を使える種族です。奥様の世界でたとえると魔法使いに近いですね」

 それを聞いて瑠璃は困ったように眉を寄せた。


「別に私のいた世界には魔法使いがいたというわけではないのだけど……というか、その奥様っていう呼び方はやめてもらえるかしら。これでも一応まだ十五なのよ。普通に名前で呼んでくれればいいから」

 その言葉にレインの眉が片方ピクリと跳ねる。しかし瑠璃はそれに気づかない。


 それを聞いたキョウヤは一瞬きょとんとして、すぐに楽しそうな微笑みを口元に浮かべた。

「それでは遠慮なく、瑠璃様、と呼ばせていただきます」

「……っおい」

 こらえかねたようにレインが声をかけた。


 二人の視線が突き刺さる。

 キョウヤはにやにやとした顔で、瑠璃は怪訝そうな顔でレインを見る。


「あのな、別に瑠璃のことを名前で呼ぶのは構わないが……いややっぱり構うのだが……」

「……どっちなのです?」

「……っ! ……っあのな、とにかく、これ見よがしに瑠璃のことを名前で呼ぶのはやめろ、虫唾が走る」

 苦々しげな顔でそう吐き捨てたレインを、キョウヤは興味深そうに見つめた。


「言うようになりましたねえ、まあ、これはレイン様のいうことにも一理ありますかねえ……瑠璃様、そういうことですので、申し訳ないのですが奥様と呼ぶようにさせていただいてもよろしいでしょうか」

 瑠璃にはまだよく分からなかったが、二人の態度からして何かのやり取りがあったことはさすがに分かったので、首を傾げながらもうなずいた。


「よかったです。では、話の続きをいたしましょう。まだ魔族の説明が十分ではなかったですね。この国に住む者たちは睡眠を必要としない者たちも多いですが、私たち魔族は睡眠を必要とするのです。まあ寝る時間は人それぞれですが。一日のうち一時間でも眠れれば問題ないのでほとんど嗜好品みたいになってますね」

「へえ、そうなの。じゃあ聞くけど、ぶっ続けで徹夜をできるのって……」

「ああ、それは大体一ヶ月ぐらいが限界ですね」


 結構できるのね、と思いつつ、一番聞きたかったことを質問した。

「ごめんなさい、話は飛ぶのだけど」

「かまいませんよ」


 キョウヤが軽くうなずいたのを見て、瑠璃は少し迷ってから口を開いた。

「……私、今まで一体どういう状態だったのかしら」


 瞬間、空気が変わった。キョウヤの顔からすっと笑みが消え、レインが困惑顔でこちらを見つめている。

 え、なに、この緊迫した感じは。

 そんなことを思って二人の姿を交互に見つめていると、レインがためらいがちに聞いてきた。


「おい、聞くが……人間っていうのは、大体一度に何時間ぐらい寝るものなんだ?」

 その質問になんだか嫌な予感を覚える。それでも瑠璃は律儀に答えた。

「……大体、七、八時間ってところかしら。私もそれくらいよ。たまに五時間ぐらいになっちゃうけど」

 それを聞いた二人は顔を見合わせる。

 沈黙が落ちた。


 ……何?


 神妙な顔をしたキョウヤが口を開く。

「あのですね、奥様。奥様は今が何時だとお思いですか?」

 瑠璃の中の仮説が、ほぼ実証される質問だった。


「……妥当に考えれば、昼過ぎってところかしら。けど、もしかして……」

「はい。奥様の案じていることはほぼ当たっているでしょうね」

 キョウヤは困ったように眉を下げた。


「今は奥様が倒れられた日の次の日の朝です。奥様は丸々一日、眠っておいででした」

 一瞬の静寂ののち、静かな部屋に、瑠璃の疲れたような溜息が響いた。



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