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ハロウィン・レルムの奇妙な二人  作者:
第一章 少女は吸血鬼の花嫁となる
17/21

眠った記憶

「これ、方向感覚狂うわね……」

 瑠璃はいまだに暗闇から抜け出せないまま、結構な時間をそこで過ごしていた。

 だんだんと歩みが遅くなっている。

 もうどれくらい歩いたのか分からないが、そろそろ手が疲れてきた。

 万が一何か障害物があった時のために片手を前に出しながらの歩行である。そりゃあ疲れる。


「定期的に独り言言わないと耳もおかしくなりそうね……」

 前に出す手を交換しながら呟いた。

 まったく不便な世界である。


「はあ、もう無理、やめたわ」

 そう言って座り込む。力を抜くと、足がジーンと痺れたようになった。結構足も酷使していたらしい。

 帰る時にはどうなっていることやら。

 末端神経からじわじわと追いつめるこの世界は、全くなんて意地の悪い性格をしているのだろうと辟易した。すでに視神経も無いに等しい。


「ああもう、イラつくわね……」

 最早恐怖なんてすっぽりどこにかにおいてきてしまったような感覚で、瑠璃はその場に寝そべった。

 ほぼヤケクソのつもりだった。

 

「え?」


 そこに、光があった。

 そんなに大きいわけでもない光なのに、目がくらむようにまぶしい。

 それはそうだろう、ずっと暗闇の中にいたのだから。

 だが、上にあるのだったら絶対気づくはずなのに、なぜこうも気づかなかったのだろう。


 試しに上半身だけを起こして下を向いてみた。

 ものの見事に光は消えた。

 上を見る。

 光があった。


 下を見る、光はない。上を見る、確かにある。

 下を見る、ない。上を見る、ある。

 下、ない。上、ある。

 下、上、ない、ある。

 ない、ある、ない、ある、ない、ある、ない、ある、ない、ある、ない、ある。


 疲れた。


「何やってんのかしら、私」

 馬鹿らしくなって、瑠璃はばったりとその場に倒れこんだ。

 長い黒髪がぱらりと散らばる。

 

「本当に悪趣味な世界ね、まったく」

 上を見ればすぐ気付く仕様になっていたのだ。それに気づかなっただけで、結構な時間と体力を消費した。

「私に何か恨みでもあるのかしら、ここ」

 そこまで悪いことをした覚えは全くないのだがーーーーーーーー。


 と、そのとき。

 ずいいい、と光が突然近づいてきた。


「!?」

 驚いて半身を起こす。が、なぜか首は動かせなかった。無理矢理首を上に向けたまま体を起こしたことになるので、思った以上の負荷がかかり、ずきりと首が痛む。

 顔をしかめても首は一向に動かない。

 光が襲ってくるという状況に、何故だか恐怖が募る。


 まるで天使が死神の鎌を持っているようなーーーーーーーー。

「っ!」

 息をのんで体を動かそうとするが、今度は全身が縛りつけられたように動かない。

 金縛り?

 冗談じゃない、あんな得体の知れないものに飲み込まれるなどごめんだ。


 しかしその精神に反して、肉体は全くピクリとも動かない。

「なん、なの!」

 声の限りに叫んだ瞬間、辺りが真っ白な光で埋め尽くされた。



 ✡✡✡



 光が消えたとき、そこに瑠璃はいなかった。

 静寂が、闇が、ただ存在するのみとなった。

 

 しかし。


「面白い人……」


 ぽつりと響く声と共に、そこに現れた少女。

 少しウェーブした長い金髪に、薄桃色の瞳。

 白いワンピースから除く白い手には、不思議な文様。

 その全てが、金の光を薄くまとっている。


 と、その髪の毛が、何かにくんっと引っ張られた。

 後ろには、目が真っ赤に充血した子供がいた。

 その泣きはらした目を見て、少女は薄く微笑む。


「大丈夫よ、行きなさい」


 それでも子供は髪を引っ張り続ける。


「……ああ、そうだったわね」


 彼女はおもむろに自分の髪に手をかざした。

 一陣の風が吹き、少女の髪がひと房、すっぱりと切れる。


「持っていきなさい」


 子供は満足げに微笑むと、キラキラと輝く金髪を持って駆けだした。

 その姿は瞬く間に闇に消える。


「--------さて」


 呟き、少女は瑠璃がさっきまでいたところに立った。

 

「本当、面白い人ね……」


 その言葉とともに、少女の姿は揺らぎ、ふっと消えた。



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