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ハロウィン・レルムの奇妙な二人  作者:
第一章 少女は吸血鬼の花嫁となる
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異空間

「う……」


 瑠璃は唐突に目覚めた。


「何、これ、どういうこと……」

 ゆっくりと体を起こしながら、いったい自分はどうしたのだろうと記憶を探る。

 確か、急に体が重くなって……。

 そのまま意識を失ったはずだが、ここはベッドの上だろうか。にしては床のような硬さだが……?


 ずきずきと痛む頭を何度か降って、瑠璃は目を開く。

 瞬間、絶句した。


「……は?」

 たっぷり十秒後に、一文字だけ言葉を発することができた。

 瑠璃の現状理解能力は半端ではないが、しかしこの状態は一体どう理解すればいいというのだろう。

 何も見えなかった。

 すなわち、暗闇。


 自分の体すら見えない暗闇の中、瑠璃はとりあえず二回ほど深呼吸した。

 落ち着きなさい、瑠璃。

 自分に言い聞かせて、いったん両手で目を覆う。

 ひんやりとした感覚に、なんとか落ち着くことができた。


 人間は、五感のどれかを強制的に奪われるとパニック状態に陥る、ということを瑠璃はとっくのとうに知っている。自分がそんな状態になるのはまっぴらごめんだった。

 とりあえず呼吸を落ち着けて、すっと手を外す。

「……」

 やっぱりというかなんというか、そこに光はなかった。


 こうなると人間、失明したのではないかと疑うのだが、瑠璃はその仮説に関しては真っ向から否定することができた。

 なぜなら。

「ああもう、ここまで何も聞こえないと逆に耳が痛いじゃないのよ」

 自分の声以外の物音が、全く何も聞こえないのである。

 普通、そこに人間がいる限り(正しく言えば瑠璃以外は人間ではないが)、物音一つしないというのは全員が動きを完全に止めていないと無理だ。そんな状態だとは到底思えない。


 そして根本的な理由として、ここはベッドでも何でもないのだ。この硬さは、絶対にベッドではない。

 王妃である瑠璃が倒れたのだからしかるべき対応をされるはずなのに、ここはまるでそんな対応がなされていない。

 いえ、私が倒れた時はベッドに寝かされるべきなのだ、なんて自己中心な考えではないけれども……。

 にしても、この対応はないだろう。……それに。


「やっぱり、何も音がしないわね……」

 試しに瑠璃は自分が座り込んでいる床をぺちぺちと叩いてみたのだが、何故かその音すらしない。これは絶対に現実世界ではありえないだろう。

 ……と、するならば。

「不可能な可能性を一つ一つ潰していって最後に残った可能性は、どんなに信じられそうになくても真実である、か……」

 その名言は瑠璃が長年不思議に思っていたものだった。

 「信じられそうにない」ということはその可能性を不可能だと言えるだけの根拠があるのではないか、もしくはほかの可能性があるのではないか、と……。


 いえ、ここで理論を展開している場合じゃないわね。

 きっぱりと頭の考えを打ち消す。

 瑠璃が言いたいのはつまりただ一つ。

 ここは瑠璃の元いた世界でも「十月三十一日の国ハロウィン・レルム」でもない別の場所--------全く新しい(・・・・・)もう一つの世界(・・・・・・・)なのだということだけである。


 先の名言に基づけば、これは「信じられそうにない可能性」なのだ。すべてが暗闇によって構成された世界など、信じられるわけがない。しかし実際問題、可能性はそれしか存在しないのだ。とすれば、ここはそういう世界(・・・・・・)なのだろう。

 ていうかそれで説明がついちゃうのよね。

 ならもうそれでいいような気がする、と、瑠璃らしからぬ投げやりな考えが頭に浮かぶ。この暗闇に実は結構気が滅入めいっているのかもしれない。


「ともかく、この世界のこと云々はどうでもいいわ。まあ、夢オチだっていう可能性も否定はできないけど、夢って感じじゃないのよね。ザ・異世界、みたいな……」

 むしろ『十月三十一日の国ハロウィン・レルム』よりもよっぽど異世界っぽい。何しろ何も分からないのだから。

「恐怖の種類は様々だけど、案外何も分からないっていう恐怖が一番怖いのかもしれないわね」

 そんなことを呟いて、瑠璃はやっと立ち上がり、何も分からない世界を歩み始めた。

 

 失明するのは怖い。が、異世界はもう体験してしまっている。ので、異世界というカテゴリ自体はそれほど怖くはないのだが……。


「これ、どうやったらレインのいる世界に戻れるのかしら」


 最大の問題は、それだった。




 ちなみに、「レインのいる世界」が自分の帰る世界だと考えているという事実には、瑠璃はまだ気づいていない。




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