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ハロウィン・レルムの奇妙な二人  作者:
第一章 少女は吸血鬼の花嫁となる
14/21

 翌日、城中でーーーーーーーーいや、国中で、瑠璃のことは噂になっていた。


 ……『女装伯爵を足蹴りの風圧だけで吹っ飛ばした』という噂に。




  ✡✡✡✡✡




 広々とした城の廊下を、瑠璃は怒涛の勢いで全力疾走していた。


 冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃない!!!


 着慣れていないはずのドレスなどものともしない勢いで疾風を巻き起こす。

 その瞳には人間らしからぬ狂気じみた光が宿っていて、半径五十メートル以内にいた人々は皆、そのオーラを感じ取って一目散に逃げたとか、何とか。

 しかしそんなことは瑠璃にとってはどうでもよく、廊下のどこにも人が見当たらなくても気にせず走り続けていた。むしろ、障害物がなくて楽ね、と思っていた。


 目的の部屋にあっという間に辿り着き、瑠璃はノックもせずにその扉を開け放った。

「レイン!!!!!」

 呼ばれた人物は相当鈍いのか、ドアの向こうから気配を感じることはなかったらしい。ゆったりとモーニングティーを飲んでいたらしく、紅茶のカップを手にしたままフリーズしている。


 瑠璃の何かがブチリと切れた。

 ツカツカと執務机まで歩み寄り、驚いて固まっているらしいレインの目の前で、その机をバン!と叩いた。乗っていたものがすべて、等しく五センチほど浮いた。

「何紅茶なんてたしなんでんのよこの吸血野郎が!」

 噛みつくような勢いで叫ぶと、レインは目を白黒させた。


「な、何怒ってるんだ、瑠璃」

 その言動に再び瑠璃は激昂する。

「なに、ですってえ!?」

 言うなり、左手に持っていた紙の束を机にたたきつけた。


「これ見なさい、これ!」

「は……?」

 何だこれ、という目で、レインは言われるままに書かれていることを読んだ。

 しかし、その顔が徐々に信じられないものを見るような目に変わっていく。


「な、なんだこれ!?」

 ガタっと音を立てて立ち上がったレインに、瑠璃は叫んだ。

「こっちが知りたいわよ!」

 


 ✡✡✡✡✡



 それ・・を瑠璃が知ることになったのは、朝起きてすぐのことだった。



「う、ぅん……」

 真っ白い光に反応して、瑠璃は目を覚ました。

 まぶしい朝日に目を細め、ぼんやりとかすむ目をこする。


 朝……?

 カーテンが開かれていて、そこには美しい景色が広がっていた。そこでようやく、自分がベッドの上に寝かされていることを知った。

 少しずつ昨日の記憶が戻ってくる。


 えっと、確か昨日レインに血を吸われて……。

 そのまま朝まで眠りこけてしまったらしい。隣にはすでにレインはいなかった。まあ、この国の王なのだし色々とやるべきこともあるのだろう。


「んん……」

 軽くストレッチをして眠気を吹き飛ばし、瑠璃はベッドから降りた。

 血を吸われたせいかまだ貧血気味らしい体を引きずって、クローゼットへと近づく。

 ガチャリと開けたクローゼットの中身はまさに西洋風のドレスばかりで、瑠璃は一瞬唖然とする。


「まあ、これはこれで助かるわね」

 着替える服が何もないよりはいいかと、とりあえず無難な淡い黄緑色のドレスを手に取る。構造はよく分からなかったが、何とか一人で着れた。

 髪の毛はいつの間にか解かれていた、レインがとってくれたのだろうか。


 あれこれ考えても仕方ないわね。

 とりあえずドレッサーの前に座って、自分の髪の毛を結いなおす。

 そうして支度を整えた後、これからどうしようと振り返った時だった。


 そこに、紙の束が置かれていた。


「……ん?」

 置かれていたのは小さな椅子の上で、瑠璃は何気なくそれを手に取った。

 新聞だった。


「え、この世界にもそういうものってあるの……?」

 よく分からないが、そうらしい。

 まあそれはおいおい知っておこうと思って、とりあえずその新聞を開いてみる。


「……」

 絶句した。

「……は?」

 声が出ない。掠れた空気しか出ない。


 そこには、瑠璃が昨日、サルーガを蹴り飛ばしたことが詳細に綴られていた。

 見出しには大きく、『最強王妃、ここに登場!』と書かれている。

 記事を読んでみると、やはり書かれているのは昨日のことで、 しかも何故か事実がおかしくじ曲げられていた。


 瑠璃はサルーガをり飛ばした。それは本当で、疑いようのない事実だった。しかし、その記事には。

「風圧で……吹っ飛ばした!?」

 なんと蹴った時の風圧だけであの巨体を吹っ飛ばす怪力王妃として書かれていたのだ。この自分が。


「何よそれ……」

 しかも極め付けに、サルーガは蹴られた衝撃で記憶喪失におちいってしまったと書かれてある。こればかりは本当かどうなのかはわからない。後頭部を思いっきり蹴りつけたのだからその可能性も否定できないのだ。


 しかし、しかし。

「この私が、怪力、ですって……!?」

 わなわなと両腕が震える。誰の差し金か知らないが、これは本気で嫌がらせだ。その証拠に、サルーガを吹っ飛ばした王妃の名は『瑠璃』ではなく、『ルイリー』となっていた。これはあの場にいた人間にしか使っていない偽名だ。


 確定。


 かくして瑠璃は、電光石火の勢いでレインに報告するべく、廊下を駆けだしていったのだった。


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