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ハロウィン・レルムの奇妙な二人  作者:
第一章 少女は吸血鬼の花嫁となる
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化け猫

「……さて、一体どういう経過をたどって、こういう事態になったのかしら」

 とりあえずシュラストをベッドから引きずりおろして、瑠璃はベッド側に座った。まだ眠っている少女を一瞥して、いまだ凍り付いたままのシュラストに視線を戻す。


「答え次第で、あなたの一生が決まるかも知れないわ」

「おい、もうちょっと穏便に……」

「貴方は黙ってなさい」


 ぴしゃりとはねつけられたレインは、反射的に口を閉じた。

 瑠璃は、表情一つ変えることなく、いっそ優しいとすら言えるような口調で説明を促した。

「さあ、包み隠さず説明して頂戴」


 そのあまりの温度差に、さすがのシュラストもしどろもどろになる。

「いや、あのね、この子が僕を介抱してくれて、この部屋に連れてきてくれたんだよ。何でも、瑠璃様に頼まれたとかで……」

「……え?」


 言われて、もう一度よく彼女の表情を見てみる。……そういえば、どことなくシュラストのことを頼んだ少女に似ているような。

「……でも、私が頼んだのは黒髪の女の子だったわよ?さすがにこんな白髪だったら覚えているわ」

 腑に落ちない表情で眉をひそめると、シュラストの視線が移動した。

「ああ、それは……」

「……?」


 シュラストの視線の先には、ベッドの近くの小さな椅子があった。

 そこに、何か黒いものが乗っかっている。


「何、これ?」

 近づいてひょいっと持ち上げてみると、それは黒髪のウィッグだった。

 これを付けてたってこと?

 だとすれば黒髪だったことにも説明はつくが……。


「何でこんなことしてたの?別にこんなの被らなくてもいいんじゃ……」

「うにゃ~……」

 不思議そうな瑠璃の声に、幼げな声が被さった。

 え、と声を上げてそちらを見ると、そこには、今目覚めたばかりというように目をこすっている少女の姿があった。


「あら、起きたの」

 言うと、少女ははにかんで頷く。

「うん、起きた。王妃様、おはようございます」

 そう呟いて、少女はふわあとあくびをする。


 なんだか、猫みたいね。

 何の気なしにそう思った時、少女の頭からぴょこんっと耳が飛び出した。

「え」

「あ……耳出ちゃった」

 ぼんやりとした目で少女は頭を撫でまわし、白くとんがった耳をたたむようにする。

 綺麗に耳を白髪と同化させ、少女はにっこりと笑った。


「おはようございます。私、化け猫のセレナです……」

 ふわああ、とあくびをしながら自己紹介をして、少女、もといセレナは瑠璃に挨拶をした後、シュラストに顔を向けた。

「シュラスト様、暖かかくて気持ちよかったです……ありがとう」


 ふわんっと微笑まれて、シュラストは困り顔になる。


「えっと、セレナ。今はそのお礼、やめようか、あとで聞くから」

「どうして?シュラスト様もあったかいねって言ってくれたから、ありがとうって……」

「ええと、それはそうなんだけど、その……」


 ちらりと視線を向けた先には、にっこりと氷の笑みを浮かべる瑠璃。

 ぞくっとするほど恐ろしいオーラがにじみ出ている。

 冷や汗をかきながらレインを探すが、完全に沈黙してるらしい友の姿を見つけ、シュラストはうなだれた。


 そんな殺伐とした雰囲気の中、セレナの周りだけがお花畑のように明るかった。

 微笑んだままで瑠璃に話しかける。

「王妃様も一緒に眠りませんか?」

 その言葉に、瑠璃はきょとんとした。


「え……私?」

「はい。きっと暖かくてきもちいいですよ」

「えっと、とりあえず今は眠くないから遠慮しとくわ」

「そうですか……?」


 悲しそうな顔に、うっとひるむ。

 何かしらこの子……母親的な何かを目覚めさせてくれそうな刺激をピンポイントに……。

 うろたえながらも、何とか対応する。こんなタイプは初めてだ。


「えっと……セレナ……は化け猫なの?」

「はい。わたしの種族はみんな黒い化け猫なんです」

「黒い……?でもあなたの髪は白いわよね?」


 すると、少女の目が再び悲しそうに伏せられた。


「はい……わたし、髪が白いから、そのウィッグ、つけてるんです」

「ああ、そういうこと。ごめんなさいね、酷なこと言ったわ」

 言うと、やっと頭がはっきりしてきたのか、さっきよりも焦点の定まった瞳で、まっすぐに少女はこちらを見た。


「そんなことないです。私はこの髪の毛、好きだから……じゃなくて、好きなので……」

「構わないわよ、普通に話して。私の名前は瑠璃。よろしくね。私も友達ほしかったのよ、丁度いいわ。……友達っていうか、妹みたいな感じだけど」

「私、るりさま……の妹ですか?」


 若干嬉しそうに言われて、瑠璃も笑った。


「うん、いいんじゃない、妹で」

「……じゃあ、普通に話すね」

「ええ」

「……えへへ」


 ふにゃりと笑ったセレナに、瑠璃は首を傾げる。


「どうしたの?」

「なんだか、初めて家族に会えたような気がしたから……えへへ、嬉しいな」

 頭、撫でたい……。

 おかしな感情を必死に押し戻して、瑠璃は笑う。


「そう、大変だったのね。いつでも遊びに来ていいわよ、セレナ」

「……うん!」

「おい瑠璃、それはいくらなんでも軽々しいぞ」

 ずっと黙っていたレインだったが、瑠璃の発言に少し正気を取り戻したようで、眉をひそめて否定してきた。


「それもそうだけど……そこまで心配する必要はないんでしょ?あなたお手製の防御壁があるんだから」

 にっこり笑うと、レインはあきらめたように溜息をついた。

「じゃあせめて、シュラストや侍女を通してからにしてくれ。お前はこの子と親しいんだろう?」

「あ、ああ……」


 恐怖の余韻が抜けきっていないようだったが、何とかシュラストは答える。


「じゃあ私たちはそろそろお暇するわ。シュラスト、今日はその子に免じて許すけど、次その子に何かしたら……問答無用で牢屋行きだからね」

「う、うん……肝に銘じておく」

 立ち上がったその目が冷ややかなのを見て、シュラストは再び身震いする。

 その恐怖は、二人の足音が完全に消えるまで残った。



 悪魔をも震え上がらせるとは、桜峰瑠璃、おそるべし。



 

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