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ハロウィン・レルムの奇妙な二人  作者:
第一章 少女は吸血鬼の花嫁となる
10/21

部屋

 レインの話は続く。

「サルーガは一応伯爵だし、俺たちにもどうすることもできないんだ。彼の一家は代々機械工業をやっているし、俺たちの使う機械製品の六割はサルーガの一族が作っている。だから無下にできないんだ」

「私、堂々と蹴り飛ばしちゃったけど」


 顔をしかめて言う。なんだか後で面倒事が多くなりそうな気がする。

 面倒なのは嫌いなのよね……

 嫌がる論点が色々とずれているが、瑠璃は気づいていない。


「そこは大丈夫だと思う。お前は王女だからな。サルーガはあの身なりのせいで一族から勘当されそうになっているらしいし、そんな時にこの騒動じゃあ、すっぱり勘当されるだろう。……瑠璃には恨みを持つかもしれないが」

「怖いこと言わないでよ」

 後悔はしていないが、刺客とか送られるのはさすがに嫌だ。


 にしても、勘当されそうになってまでやった女装にそこまでの価値があったのかしら。………どう考えてもないような。


 呆れつつ心の中で溜息をついた時、唐突にレインの足が止まった。

「ここだ、シュラストの部屋」

 そう言いながら、レインは目の前にある扉をいきなり、ノックもせずに開けた。

「おいシュラーーーーーーーー」


 言いかけ、彼の足が止まる。

「ちょっと、どうしたのよ」

 レインの大きな体躯が邪魔で、中の様子が見えない。


 仕方がないので隙間にするりと体をすべり込ませて中に入った。と、

「……え?」

 中は結構簡素で、机と棚、ベッド以外には特に何もない。

 そしてそのベッドの上に、シュラストは寝ていた。

 あのぼろぼろの服ではなく、ちゃんとした服を着て、気持ちよさそうに眠っていた。

 あのやつれた顔が嘘のように安らかだ。


 しかし、しかしおかしいのはそこではなく、おかしいのは、シュラストがその腕に抱えているものである。

 柔らかそうな髪の毛は真っ白で、頬はほんのりと赤い。

 寝言なのか、「さんま……」と呟きながら体を丸めている。


「……嘘でしょ」


 シュラストの腕に抱えられて幸せそうに眠っているそれは、どう角度を変えても妙齢の女の子にしか見えなかった。

 とりあえず、瑠璃は無言でシュラストの背中をけりつける。

 そのまま何度も蹴りつけていると、「ううん……」といううめき声が聞こえた。それでもかまわず蹴り続ける。


 レインの「おい、ちょっとやりすぎ……」という声は完全無視。感覚神経に届いてすらいなかった。

「うう……なんか痛い……?ん、あれ、瑠璃様……って瑠璃様!?い、痛い、痛いからやめて、ねえ、ちょっと!」

 絶対零度の瞳で見つめながら、抵抗できないシュラストをけり続ける。


 その間にも、シュラストは必至で謝り続けた。

 ねえ、やめて、やめてください。お願いします!という声に瑠璃は一旦蹴るのをやめた。


 そして安堵の息が聞こえた瞬間。


 ドカッと思いっきりその背中をけりつけ、冷や汗を流しているシュラストに悪魔顔負けの笑顔を向けた。

「何か、言い訳は?」

 気温が三度は下がった。

「あ、ありません……」

 男性二人が凍り付く中、シュラストの腕の中の少女だけが、幸せそうに眠っていた。

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