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異世界ファーストコンタクト

この世界の裏側に、こことは別の異世界とやらがあるらしいという話は聞いたことがある。


たしか先代の魔王は、その異世界とやらからきた、勇者とか言う人種に打たれたのだ。


世界一の魔法大国アガメイヤの魔法師団が数十年の魔力の構築の末に行われる時空間魔法。


異世界とこちらの世界を繋ぐ秘術。


前大戦の時期から逆算しても、魔法師団の魔力がたまる時期は、そろそろだった、と言ってもいい。




日頃、魔王などと崇められ、若くして数多いる魔属の頂点に君臨する彼女は、今、せまっくるしい四畳半ほどの汚い部屋の中に在った。


牢獄か、そうでなければ、家畜部屋か?

とにもかくにも最悪の異世界ファーストコンタクトだった。


窓があるので、牢獄ではなさそうだ…いや。



「牢獄以下……だっ!」


眼下、覗けた景色に、魔王は絶望を隠せなかった。


帝都が構築した、空中要塞バハムートに近い建造物か?

地上までの距離はおよそ100メートルはある。


魔王の強大な魔力があったとしてもこの距離を翔ぶことはできまい……。

脱出は不可能か?



身に何が起こったのか、という点について、仮説をたてることはできる。


アガメイヤ魔法師団の時空間魔法。

異世界から任意のだれかを召喚することができるのなら、逆に、異世界にだれかを送ることもできるのではないか?


つまり師団は秘術を逆に使った!

異世界から魔王を倒しうる勇者を召喚するのではなく、魔王そのものを秘術の対象に指定し扉を開いた。

魔王そのものを異世界に追放したのである。


「やってくれる…」


重くため息をついて魔王はつぶやく。


今は帝国との戦争の真っ最中だ。優秀な政治機関は魔国にもあるとはいえ、王の失踪は、国民に不安を与えるだろう。


魔王という個人に権力を集中させる国家戦略を強いている以上、彼の存在の消失における国家への影響ははかりしれないっ!


早急にもとの世界に戻るすべを探さねばならぬだろう。

師団が数十年かけて召喚するに足るほどの魔法の才に秀でたものがこちらの世界には山ほどいるのだ。上手く取り入れば、師団以上の精度で時空間魔法を発動させてもくれるかもしれない。

とはいえ数十年という期間を埋められるか?


いくら優秀な魔法師が揃っているとはいえ、少なくても魔力を貯めるのに数年はかかるか?


と、そこまで考えたときである。

ドサリとなにかが落下する音がどこかで響く。


「ふむ?」


見ると人間が立っていた。


壁のうちの一枚が横にスライドして開かれている。

壁だと思ったが変わったデザインの扉だったようだ。

押したり引くのではなく、横にスライドして開けるらしい。


なるほど。どうやって出入りするのかと疑問だったが。

まさか、かなりの魔力を消費する、飛行魔法を恒常的に使用して、この窓から出入りするわけはないだろうし。


「だれだ、あんた!」



「ふむ。余は大魔王エスディアである。ここよりは異世界、魔国アーバレスから参った。とはいえ、この世界への侵攻などという目的はいっさいないのだ……」


そう言って魔王は人間に一歩近づく。



「ひっ……。なんだ、そのかっこう? コスプレか? しかも……うちに泥棒? 盗むものなんてなにもないだろ!」



「まあ、落ち着かれよ」


「うわあ。寄るな! 警察を呼ぶぞ!」


「警察……。軍か?」

ここでいきなり軍部との接触はまずい。魔属との確執はこちらの世界にはないと見聞しているが、敵対勢力と見なされては協力も望めまい。


「しかたがあるまい。あくまで平和的にと思ったが」

そう言って魔王は右手を人間に掲げる。



「大魔王エスディアが命じる! 大気よ、我のために唄え。かのものに眠りをもたらせ! 夢魔の囁き(ダーク・プリズム)!!」


対象を深淵の眠りに導く精神操作系の魔法である。


対象範囲指定が三メートルと厳しいが、魔王の強大な魔力があれば、帝国の戦士団のモノノフですら、一瞬でその場に崩れ落ちるだろう。


「は? あんた、頭煮えてんのか?」


「なんだと!?」


超一級賢者クラスの魔力耐性か!?

帝国でも五人といない……。


これはまずい。

敵が超一級賢者クラスであるというのなら、眠らせるなどという悠長なことはいってられまい。殺すつもりでやらなければ!


「紅蓮の業火に焼かれよ! 地獄の灼熱デビルズ・バースト


魔王の膨大な魔力だからこそ許される、古に封じられた究極の攻撃魔法である!


対軍においても効果を発揮し、小さな町なら町ごとすべてを消し去ることも可能だろう!


これこそが彼女が若くして魔属の頂点として君臨する理由である!!



「……」


「……」



「……あの」

「はい?」



「ちょっとごめんなさい。警察はちょっと待ってください」

涙目で魔王はゆった。

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