馴れ合い
僕は腐れ縁であり幼馴染である夏実大介、五月義人、桜井葉月、朝倉優姫、らと共に、アンジェリナさんが待っている場所へ案内してくれる騎士の人の後に続いて、60余名のクラスメイトを先導していた。
大介、義人、葉月、優姫、こんな異常な状況で不謹慎なのかもしれないけれどこの幼馴染達がいてくれて良かったと思ってしまう。もしいなければクラスの皆を纏めるどころかきっと、平静を保つことさえできなかったはずだ。そも代表をかって出た時も大介がフォローしてくれた訳だし。
大介と優姫とは物心ついた頃にはすでにそばにいた。家が僕、大介、優姫の順に並んでるのが大きいと思う。大介は何事においても頼りになる。昔から悪戯や悪だくみを考えついてこいつのせいで何度大人に叱られたか分からないけれど、身長も高く細身の見た目以上に筋肉はつけていて、小さな頃はガキ大将なんかに最近では他校の不良なんかに絡まれたりした時はいつも助けてもらっていた。兄貴肌な奴だ。
絡まれる原因は大体優姫なんだけど。優姫は正義感が強くて気も強いもんだから迷惑行為なんかを見かけたら口を出さずにはいられない性格で、僕らの面倒事は半分位は優姫が持ち込んでくる。それが優姫のいいところなんだけどいざ荒事になると大介と義人、あと葉月に丸投げするのはほんと良い性格してるとおもう。
その葉月と義人は小学校に入ってからの付き合いだ。葉月も気が強くて、優姫みたいによそ事にまで自分から割り込んでいったりはしないんだけど、腕っ節がある分、ある意味で優姫よりタチが悪いかもしれない。間違いなく五人の中で一番、手が出るのが早い。そして一番強い。お祖父さんの友人が道場やっててそこで剣道を習っている。
そんでその道場の子が義人。ただ本人はまったく習ってはいないらしい。基礎の期も知らないと言っていた。なのだが義人は何事も対戦することが好きで、よく葉月と勝負している。ただ、まともにやっても勝てないから例えば一分躱し続けたら勝ち、竹刀を十回躱せたら勝ち、十本打たれる前に一本入れたら勝ち、などの変則的な内容だ。正直、体格に恵まれた大介や、鍛錬している葉月に比べて武闘派の三人の中では一番弱い。でも機転がきいていて、なんと言うか戦い方が汚い。その事でよく葉月と喧嘩している。
そのせいかこの二人少し仲が悪い。喧嘩するほど仲が良いってのとはちょっと違う。そも義人は大介が、葉月は優姫が連れてきたのであって二人で僕たちに仲間入りした訳ではなかった。本当に嫌いだったら勝負したりしないだろうからそんなに心配はしていない。
昨日アンジェリナさんから言われた事を思い出す。不安ではある。でもこの仲間たちがいたら何とかなると思える。
そんな考え事をしていたら隣から声をかけられる。
「あーコウちゃんまた悩んでる。大丈夫だって、私たちがいればなんとかなるよ。ダイちゃんもなにか言ってあげてよコウちゃん昨日からずっとこんななんだよ」
優姫が呆れ顔で大介に援護を求める。
「まあでもこれがコウのいいところじゃん?真面目で堅物で石頭なところがよ」
「あと融通が利かなくてお節介で無駄に人が好いところかな」
と義人が続ける
「無駄ってなんだよ。お前は無駄に性格が悪いんだよ」
「まったくだ。貴様は幸平の無駄に真面目なところを分けてもらえ。それでちょうどいい」
うんうんと、大介が頷いている。
「なんだよ葉月まで。大体、義人をちょうどよくするには僕の真面目なところを全部渡したって足りないよ」
確かに。なんて大介と葉月と義人が頷く。貴様が言うなと葉月にどつかれそうになった義人はヒラリと躱し、余計なことをしたばかりに先よりも手痛い一撃を食らうことになる。それを見て大介が笑っている。
三人がじゃれあっているので自然、二人並ぶ形になり優姫がポツリと。
「私ね、何が起こったのかわからなくて、ちゃんと帰れるなかなって事を考えると怖いって思うんだけど、なのにね、皆でいたら何故か大丈夫な気がするんだ。こんな事思っちゃいけないのかもしれないけど私一人じゃなくて皆いてくれて良かったって」
不謹慎にもそう言って少し悲しげに微笑む優姫にドキリとして口ごもってしまう。
「えっぅ……いや、えと、僕もおんなじだよ」
「えっ……」
「優姫とか皆がいてくれて良かったって…そう思ってる」
「そっか……えへへ……」
そう言って俯きがちに微笑む優姫にまたドキリとしてしまう。そうして挙動不審になっている僕の肩に大介の腕が伸びてきた。
「そうそう水臭いこと言うなよ。俺もお前らが一緒でよかったぜ?葉月もそうだろ?」
そう言って僕と肩を組みながら葉月に振る。
「当然だ。もしも優姫だけがこちらに来ていたなら迷惑と言われても、私もこちらに行こうとしただろう」
「葉月……」
優姫は突然、葉月に跳びかかり抱きつく。
「大好き、葉月」
女子にしては身長の高い葉月の大きな双丘に顔を埋めて、頭を撫でられる優姫。なんというか……眼福だな。隣の大介を見ると目があった。向こうも同じことを考えていることがわかった。これが友情なんだと思う。
僕らはまた一つ大人になった。




