経過
俺がこの世界に、このシルクの王都、シルクラに来て今日で三日目だ。
初日は昼過ぎには遺跡から出られたのだがシルクラに着いたのは日が沈んでそれなりに経った頃だった。本来、日が沈んだのなら野宿するべきなのだそうだが、おそらく俺達が野宿に耐えられないと思ったのだろう。確かに訳のわからん状況でわけのわからん事がおきどことも知れぬ場所で野宿なんてしていたら、きっと統率なんてものは持ち主達を置いて元の世界に帰ってしまっていた事だろう。そもそも俺達がいなければ日が沈む前に帰還出来たとのことであるが、ただの学生は騎士様とは違うので仕方ないと開き直っておこう。
這々の体でシルクラにたどり着いた俺達は、まえもって伝令をとばしていたようで大人数にもかかわらずすんなりと対応された。146人の生徒達は二つに分けられ別の場所に案内された。警戒したり不安に思う奴もいたが、幸平が安心させていった。友達ながらよくそんな面倒事を引き受けるものだと感心する。
二日目は朝から侍女に起こされ朝食は部屋に持ってきてくれた。パンと肉とスープだった。下がろうとしていた侍女に魔法の初歩についての書物の閲覧を頼んでみた。文字が何故か理解できるのかは既に確認済みであった。訝しげではあったが許可はおりた。のだが昼過ぎには騎士団の人間がきて現状の説明をするので本はこの部屋で読んで欲しいとのことであった。
現状わからないことが多すぎるのだが、後で説明してくれるということなので侍女には聞かないでおく。一人一人説明していく訳にもいかないので、まとめてということなのだろう。
朝食を終え、案内されたおおよそ十坪程の書庫で魔法関係を2冊と歴史書を1冊借り受け、自分に割り振られた部屋で呼ばれるまで本を読んで過ごしていた。
魔法関係は特になにも身につかなかった。いろいろと書いてあることを試したのだが簡単にはいかないようだ。もしくは初日に騎士が魔法を使うところは見たので行けるかと思ったのだが。歴史も流し読みしただけで何も面白くはなかった。
時間になったようで広間に連れて行かれて、騎士から現状の説明を受けた。長らく話していたがしばらく面倒を見てくれるとのことで、なぜそんなことをしてくれるのかまた疑問が増えてしまったが、それでも非常にありがたい。こちらは本当に何もわからないままなのだから。
それから騎士は明日ほかの場所に泊まっている者も集めて改めて話があるとの事だった。今回は本当に最低限の現状説明であったようだ。
明日案内をよこすので今日は屋敷から出ないようにと言い残して去っていった。屋敷と言われて気がついたが60人以上が泊まれる大きさとは、とんでもない物に自分は泊まっていたようだ。
そして今日がその案内が来る日だった。
朝食を食べ終え食器を下げてもらい寝台に転がったまま一息ついて、今更ながらに気がついたのだがどうもおれは興奮しているようだ。この屋敷のでかさに気づかなかったのもそのせいだろう。そう、今の俺には現状がどうだとかこれからどうなるだとかそんなことは些細なことに過ぎない。
早く戦いたい
いや、そのためにも知識は必要だ。浮ついてる場合じゃないしっかりせねば。
「義人、迎えが来たぞ広間にいくぞ」
いつの間にか部屋の中に幸平が入ってきていた。どうやら騎士の言っていた案内が来たようだ。
「そうか、でもなんでお前が呼びに来るんだ」
侍女はどうしたのだろうか。まぁどうせ全員に声をかけるのは大変そうだから手伝いを申し出たなんてところだろう。
「人数が多いからな、二階の連中は俺が声かけることにしたんだよ。メイドさん大変そうだったから」
「相変わらず優等生なことで。他の連中は?」
「お前で最後だよ。相変わらずマイペースなことで。さっきからバタバタしてただろ?」
こんな状況で他人の事を考えられるのはお前くらいだと思うがな。そう思いながらも体を起こして寝台から降りる。既に服装は渡されたものから制服に着替えてある。
「じゃあ行こうか」
「僕のセリフだよ。まったくこんなことになってもほんと相変わらずだな、頼もしいよ」
幸平はため息混じりにそんな今更な事を言っている。
「当たり前だろこの程度のことで俺が変わるとでも思ってたのか?」
「いいや、これっぽっちも思ってなかったよ。何年来の腐れ縁だよ、お前の性格は諦めがついてるよ」
そんな軽口を交わしながら二人で一階の広間まで向かっていく。




