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幕間 報告

  「それで、どうであった」

  白いローブに身を包み、フード部分は被らずに垂らした精悍な顔つきの男が報告を促す。


  男は報告書に目を通してはいるが、王や教皇等に提出する報告書には書けない事を聞く為に、神託を授かった巫女を呼び出していた。


  ここは白ローブを着た男の執務室である。男はシルクの国教、ラトゥール教の大神官とよばれている。この国に所属する大神官は7人。大陸中では13人。大神官の上は、3人の司祭と教皇のみである。


  「どうやらこちらに来ようとして来た訳では無いようね。むしろこっちが何かしたのではないかと疑われたわ。」

  大神官とは決して低い役職ではない。どころか、大貴族にも比肩する権力があり、大神官に選ばれる者はモンスターに対抗できる力も求められるので当然実力も、ある。


  つまり、


  「だからこの世界の事を丁寧に教えてあげたわ。そんな事しなくても、帰り道にモンスターから守りながら来たからかなり信用を得たはずだけど一応ね。明日には貴方も来なさい、出来る限りこちらに好意を持って貰わないといけないのだから」


  いくら人の神、人神サヨールの神託を授かったとは言え、たかが巫女ごときがこのような口をきける相手ではない。



  正直ロバートは期待などしていなかった。しかし可能性はゼロではない。だからアンジェリナを動かした。王に対して、神託を授かったのは自分なので責任を持って騎士団に付いていくとアンジェリナに言わせただけである。アンジェリナを失う危険はあるにはあった。異世界人が現れるとお告げがあった場所はEランクというそこそこのモンスターが溢れる遺跡なのだから。


 なのだが、この国の騎士団は優秀で20人ほどで囲めばDランクモンスターを死傷者なしで討伐できるほどだ。通常Dランクモンスターに対しては40人で挑みそれでも1割ほど死傷者がでるのだ。比べるとその優秀さが分かろうものである。これは大陸でこの国のみが騎士学園を設立し、幼い頃から武器の扱い、魔法の技術、戦術や連携等戦いに必要なものを教えており、その成果であると言われている。


 つまりほとんどリスクのない手を、ほとんど労力をかけずに打ち、それで十分と思う程度の期待しかしていなかった。


 己の望みを叶えるやもしれぬ者がいる、その可能性を。


 だがロバートは目の前の巫女に聞いたのだ。見つけたかもしれないと。


 興奮しそうになるロバートだったが、ふとそれを思い出す。


「彼らは魔法を知らぬはずでは?」


 そう確かに報告書には彼らは魔法を知らず、遺跡からこの王都までの道中それが判明したと書いてあった。


  騎士学園の有用性が証明されているのに何故他の国がそれを行わないのか。単純な話である。国力に余裕がないからだ。

  騎士学園には莫大なコストがかかっている。この学園には入学条件に身分は関係ない。どころか、学費など諸経費は一切掛からない。そのため農村などから平民の子供が入学してくるのだ。実際生徒の9割が平民である。

  だがそれは村から労働力をなくしているに等しい。労働力が減ればどうなるか。収穫できる作物が減ってしまう、それは致命的だ。自分達がたべていくだけならば問題はない、しかし自分の村を治める領主に税を払わなければならない。村から子供をだすなど普通ならば考えられない。

  しかし学園設立を決めた、時の王ランドストール・シルクは学園に子供を送った村からはその分の税を引くと宣言した。それだけでは学園に人集めるのに弱いと思ったのか、優秀は成績を残した場合その者が所属する村の税を大幅に下げるとまで言ったのだ。


 通常ここまでのことができる訳が無い、シルク国がここまで出来るのには当然理由がある。


 それが遥か昔に白の神、7柱いる神の中で主神と呼ばれるラトゥールより授かった加護である。この加護によりシルクは作物の成長速度、収穫量が尋常でなくそれにより働き手を常に欲しており、裕福ではなくとも仕事がなく飢えて死ね者などほとんどいない状況である。


 

 ロバートが欲していた者の条件には強さがある。この国の騎士ははっきり言って強兵だ。それでもまだ足りないとするロバートの基準は相当に高い。魔法が使えぬ者がその条件満たすとはロバートには思えなかった。という事は。


 「しかし魔力は感じられたということか。あくまで魔法を知らないだけで」


 「ええ、魔力量は彼らのほとんどが平均を大きく上回っているわ。一人一人がそのへんの魔法士より上よ、そしてその中にとんでもなさそうなのがいたのよ」


 この場に居る二人しか知らないことだが、人が持つ魔力量をある程度体感することができる希少な技能をアンジェリナは持っている。その力でバール遺跡に現れた少年達を調べたのだった。


 「どれほどだ?」


 ロバートのその一言には多数の意味が込められていた。アンジェリナはすべての込められた意味をすくい上げ告げる。


 「最上」


 それを告げられた大神官は歓喜とも悲哀ともとれる顔でこれからの事に頭をまわし、ともあれ会ってみないことには…、と結論する。


 「そうか、明日が楽しみだ。アンジェリナ、報告は以上か?」


 「そうね特にはないわ」


 「ならば下がっていいぞ」


 「そう、ならまた明日」


 そう言ってドアノブに手をかけたアンジェリナの背についと、声がかかる。


 「そいつの名は?」


 アンジェリナは顔だけを振り向かせ、大切な者の名を告げるとそのまま立ち去っていった。


 一人残った大神官はその名を呟く。


 「期待させてもらうぞ、コーヘイとやら」


 彼らにとって大切な、駒の名前を


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