表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

説明

  僕は何も考える事が出来なかった。完全に呆けていた。


 辺りを見渡せば、とても広い場所だという事はわかった。

 天井など100メートル以上あるように見える。

  視線を前に下ろせば、制服を着た若者がひしめいている。さっきまでいた者全員が居るなら300人程はいるだろう。


  誰独り呼吸すらしていないのでは、というほどの静寂のなか唐突に声がする。


  「皆さん。大陸で最も豊かな国シルクへようこそ」


 その声に皆が反応する。

  皆が一斉に目を向けているのに気圧されどころか、柔らかな笑みを浮かべた女神が居た。


 僕らより少し年上だろうか、とても落ち着いた雰囲気を醸している。しかし明らかに日本人ではない顔の作りのためイマイチ確信は持てない。確かな事その女神が今まで見た誰よりも美しいという事だけだ。


「代表の方はいらっしゃいますか?」


  その言葉にはっとした。学年の代表は僕だ。

  周囲はまだ女神に魅力されているのか反応する者もいない。覚悟を決めて名乗り出る。


「僕が代表です! ここはどこですか!?」


  今更ながら浮かんだ疑問を言葉にする。そう、つい先ほどまで、ほんの1分そこら前まで僕たちは学校の大きな会議室で修学旅行の話し合いをしていたのだ。この状況ははなにもかもわからない。

 この状況では取り乱しても仕方ないだろう。


「ここはシルクの東にあるバール遺跡です。あなた方がここに現れるとサヨール様の神託があり、私達はここで待って居ました」


  シルク……さっきも言っていたがそんな国は知らない。周りを見渡すが遺跡と言う感じの古さなど、どこにも感じない。それにしんたく?神託だろうか?サヨール様とは彼女の信仰する神だろうか?それに私達とは?

  と、思考の海に沈みそうになっていると、彼女と目が合った。その瞳は動揺の色を映しているように見える。そして彼女はまた口を開いた。彼女の言葉を聞き僕はさらに混乱してしまった。


「あなた方はどんな魔法でこの世界に転位してきたのですか?」


 取り乱していてはいけない、まずは落ち着こう。彼女が言っている事が本当なら

彼女は僕達がここに居ることに、直接的な関係はない事になる。魔法……そして転位。魔法とはあの魔法だろうか。呪文がありMPやSPを消費して手から火や水をだすような。

つまり彼女は僕達がその魔法を使ってここに来たのだと思っている。


 自分で言ってて意味が解らない。


 なんにせよ彼女とは話をする必要があるだろう。そのためにはやらなければいけない事がある。今はまだ状況をのみ込めずに皆大人しくしているがいつまでもそうだとは限らない。

こちら側をまとめる事が優先事項だ。そうと決まれば……

僕は集団から一歩出る。女神の様に美しい彼女の前に立つような形だ。


「皆聞いてほしい!」


周りを見渡していた少数と、彼女に見とれていた多数の、同級生達の意識が全て僕に集まる。


「ここは学校じゃないみたいだ。ここがどこかも分からない。あの女性は何か知っているみたいだ。皆も聞きたい事があるだろう、だけどここは僕に任せてくれないか。僕が代表として責任を持って話をしようと思う」


言い終えて暫く静まりかえる。失敗したかと緊張しながら反応を伺っていると、その静寂を破る者が現れた。


「異議なーし」


 声のした方を見ると、肩にかかるほどの長い髪を真ん中で分けた男子生徒が居た。

僕の悪友と言うべき男、夏実大介(なつみだいすけ)だ。

そいつはこちらに悪戯が成功した悪ガキの様な笑顔を向けてきた。

その企みが成功したのか、僕の提案に対して反対意見は出ない。


「さんせーい」

「私もー」

「むしろ真田以外だれに任せんだよ」

「確かに。真田に任せてれば悪い様にはならねーだろ」


「と、言う訳だ。任せたぜ、コウ」


  どうやら大介が気を聞かせてくれたみたいだ。ほんとにいつもここぞと言う時には頼りになる奴だ。

大介に目だけで礼を伝えつつこの状況を理解する唯一の手掛かりである女性に向き直る。


「僕達は何が起きたのか理解していません。僕達に何が起きたのか、貴女の事、それらについて話があるのですが聞かせて頂いてよろしいですか?」


「勿論です。こちらとしても伺いたい事がございますし、私達にわかる事でしたらお答えします。ゆっくり話をしましょう」


彼女はそう言って僕に微笑みかける。顔が熱なっていくのがわかる。だが仕方がないだろう。あんな美人に笑いかけられれば思春期男子として当然の反応だ。


「ですがすぐにと言う訳にはいきません、まずはここから移動しましょう。ここは危険ですから」


 僕がその言葉の意味を理解するまえに男子生徒の怒号と女子生徒の悲鳴が起きた。


「なんだ!? なんかでたぞ!」

「いやぁぁぁあ!!」

「おい! なんだよこれ!」


 僕達を囲むように自動車大の、黒い渦の様なものが大量に現れた。

その渦は何かの形をとりながら、紫色に変わっていく。瞬きする程の時間の後そこには黒い羽を生やした蛇が居た。


 僕が呆気にとられていると、その蛇が空中を泳ぎながら僕に向かってくる。

人間をゆうに丸飲み出来るであろう口を横向きにこれでもかと開き、鋭い牙から得体の知れない液体を垂らしながら向かってくる。


 あぁこれは死ぬな。


 妙に冷静ながらそう思った。避けようにも蛇の方が僕が避けるよりも明らかに速い。第一そもそも体が硬直しており動く事が出来ない。


 それでもこんな所で死ぬ訳にはいかない。なんとか出来ないかと必死になって考えるが何も浮かばないが、死ぬまでは絶対に諦めない。


 無情にも蛇の口は目の前に迫っている。


 なにか! なにかないのか!


 だが、諦めないだけでは死を逃れる事は出来ない。僕は自分すら守れないほど無力なのか



 そして蛇が僕をその口の射程に捉え口を閉じようにとした瞬間、視界の端から光が差し込まれた。


 銀色に光輝く鎧が目に写る。鎧は僕の前に立つと腰の剣に手を掛ける。


 すると限界まで開いた蛇の口がさらに開き、向かってきた勢いのまま体を二つにして僕の左右を通りすぎてしまった。


 目の前には剣を手にした鎧だけが残る。


 一瞬の出来事だった。


 フリーズ寸前の回転の遅くなった頭では何も考えられず、なんとなしに周りに目を向けると他の渦から現れた蛇も同じく剣を持った鎧に切り裂かれてしまったようで、そこら中に血の匂いと残骸を撒き散らしていた。


「巫女様。帰り道のモンスターはあらかた片付けてます、次が湧き出す前に移動するのがよろしいかと」


 僕を助けてくれた鎧が声を発する。

 あの女性は巫女であるらしい。


 その巫女である彼女は僕の前まで歩いてきて言った。


「安全な場所まで移動しましょう。道中は私達が護衛しますので、それを皆様に伝えて頂けますか」


 その言葉に従う事にする。こんな場所一秒たりとも居たくない。


 先ほどまで混乱して頭が回っていなかったが、明確な指針が出来た事でいつもの思考速度が戻ってきた。


 聞きたい事がさらに増えたがまずはここから離れるべきだ。


 そうと決まればすぐに、同級生達に向けて指示を出す。


「皆聞いてくれ! すぐにここを移動する! まずは怪我をしたり動けなくなった者はいるか!」


 10人ほどの声が上がる。幸い怪我をした者はいないが何人か気を失ってしまったらしい。

いつの間にか僕を助けてくれた騎士らしき人と共に、隣に来ていた巫女の女性に、動けない者の事を頼めるか確認をすると、騎士団が丁重に運ぶので任せてくれと言ってくれた。そばに居る騎士は他の騎士に動けない者を運ぶように指示している。

「よし! 気を失った者は騎士の方に引き渡せ!クラス委員が先頭で、2-Aを左端にして1列に2-F組まで順番に並んでくれ!」


 もともといた全員がいるのであれば2年生のすべてが揃っているはずなのでクラス委員もいるはずだ。


 幸いと言っていいのかはわからないけれどクラス委員は揃っているようだ。安全を確保したら欠員の確認をするべきだろう。


 皆が動き出したのを確認していると横から声をかけられる。


「俺はこの部隊を預かる者だ。動けない者は俺達が責任を持って運ぶので任せて安心してくれ」


 助けてくれた騎士だ。身長は180センチはあるだろうか僕より頭ひとつほど高い。刈り込んだ短い、赤みのかかった茶髪が兜の隙間から見えている。隊長という事だろうが、歳は25はいっていないだろう。隊長というのはもっと中年のイメージがあるのだが、部下の騎士達が既に動けない者達を運び始めているところをみるときっと優秀なのだろう。


 訳のわからない状況とはいえ命を救われてさらに頼るのは申し訳ないが今は頼らせて貰うしかない。


「お礼が遅れてすみません。先ほどは命を救って頂いてありがとうございます。その上護衛や手助けまでして頂いて。本当に感謝しきれません」


「子供を守るのは騎士の務めだ。それに礼を言うのはまだ早いぞ。ほとんどは片付けたがモンスターがもう出ない訳ではないからな。俺達が守ってはいても油断はするなよ?」


 そう言って軽く笑いかけてくる。近所のお兄さんといった感じを受ける。なんとなく良い人そうだ。


「分かりました。気を引き締めて行動します」


「お前さんがリーダーのようだな。とりあえず俺の指示に従ってくれ。俺はザックだ」


「はい、僕たちには何も分かってません、お願いします。それと僕は幸平(こうへい)です」


 ザックさん少し考えるような仕草をしたが、すぐに口を開く。


「俺も異世界とやらから誰かしらくるとしか聞いてねえな。こんな大勢だとも知らなかった」


 異世界……


 その言葉に納得してしまう。さっきの現象は現実では到底有り得ない事だ。ならばここは現実でないか、ここの現実が僕らの知る現実とは違うかのどちらかだ。


「コーヘイどうやら並び終わったようだぞ」


 思案していると大介から声をかけられる。同級生達を見るとどうやらが並び終えたみたいだ。


 もっと詳しく話もしたいが、今は時間がない。ひとまず安全な場所に移動しなくては。どうやらここに来る前のあの場に居た全員がここに居るようだ。


「ザックさん、人数確認終わりました。これで移動出来ます。移動の隊列はどうすれば良いでしょうか?」


 ザックさんに確認する。ひとまず6列縦隊で並んでいるがこのままで移動できるのだろうか。


「そのまま移動してくれればいいぞ。この広間だけじゃなく通路も何もかもこの遺跡はでかいからな。先行した部隊で安全を確保しつつ俺達がお前達の周りを囲んで護衛しながら移動する」


 正直まだ混乱しているのだけれど、それは皆一緒だ。仮にもまとめ役をかってでた僕が泣き言をいってる暇はない。ここは危険だということはわかる。


 だから僕はいろんなものを飲み込んで皆に移動を促した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ