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序の終

 コンコン、と病室の扉がノックされた。ノックの回数に意味があるらしいけど僕は知らない。

 起床したばかりの僕はベッドに寝たままそんな事を考えながら、ノックに対してはい、とだけ返す。


「起きてたか。入るぜ」


 そう言って入ってきたのは大介、優姫、葉月の三人だった。三人とも浮かない顔だけど、その中でも大介は他の二人より何倍も沈んだ表情をしている。それを見て僕は悟った。これはきっと良くない知らせがあるんだと。

 三人が入ってきてから、最初に口を開いたのは優姫だった。


「コウちゃん。怪我は大丈夫? 体痛くない?」


「大丈夫だ。優姫おかげでもう治ったよ。それより、どう、だった……」


 言いにくそうな雰囲気であったが早く結果を聞きたかった俺は、おずおずとしながらも話を切り出した。

 僕達が爆発に巻き込まれてから今日で二日目だ。大介によると消化の為に騎士の人達が駆けつけてから、僕と葉月の姿が見えないことに気がついたあたりで二回目の爆発が起きて、急いで様子を見に来たところ瀕死の僕達を発見したそうだ。葉月が咄嗟に庇ったらしく石田さんはあまり火傷をしていなかったらしい。でなければ命が危なかった聞いた。

 それからこの治療院に運び込まれて、優姫と治癒術師の人達に治療してもらったおかげで既に体は万全の状態になっている。ただ警護ということで、使徒である僕達三人は完治した今でもこの治療院に留まっていた。ここは普段から、身分の高い人などが利用するため警備を固めているそうだ。現在そこに人員を追加しているとの事だった。


 だから僕はここから出られず、あの場所での作業に加わることができなかった。石田さんの言葉が正しかったのか確認に行けなかったのだ。

 大介はそんな僕の代わりにあの現場に行ってくれていた。その結果を早く知りたくて急かしたのだった。

 すると大介は僅かに怯んだような様子を見せてから、語りだす。


「お前と葉月が石田に聞いた通りだったぜ…… あっちの棟にいた奴はみんな死んでた。半分位の奴は火災で焼かれて顔も分からない様だった…… 義人の部屋からもそんな死体が見つかった……」


 認めたくはなかったけど、どこか頭の片隅でその可能性を考えていた僕は、大介の話をそれほど動揺せずに聞いていることができた。

 葉月と優姫も、大介の様子からなんとなく察していたのだろう。取り乱したりはしなかった。

 大介の話を聞いてから、誰も口を開こうとはしなかった。唯々重いだけの空気が室内を満たしていく。 多分、僕と同じ事をみんな思ってるんだろう。

 どうしてこんなことになってしまったんだと。






 国王の執務室。そこでザック・ダニエルは王へ直接報告を行っていた。

 執務室は、名より実を取る王の性格を表したように、決して質素ではないが無駄を削ぎ落とした機能的な内装になっている。具体例を上げると、調度品は全て危急の際に使用できるよう実用的な武具が飾られていた。シルク国自身が美術品より武具を好むせいでもあるのだが。

 鎧こそ着ていないもののザックは帯剣した状態である。ザックが王の前で帯剣を許されているのは信頼の証でもあるが、椅子に腰掛けて執務机に足を放り出しているような王が、そんな事を気にする筈もないという理由もあった。

 一国の王であるにも関わらず、動きやすい革のパンツとジャケットという権威の欠片も見えない衣服を身にまとったシルク王はザックへと問いかけた。机に足を放り出したままで。


「それで、何者の仕業かは分かりそうか」


「いえ、未だ特定には至っておりません。ただ、外部の者の犯行ではない可能性がありまして。使徒となった者がいると既に他国へ伝わっているとは考えられません。ですので、貴族の線で調べるべきかとも思いましたが、破壊された宿舎を調べた結果と使徒たちから聴取した件で、不可思議な点がみつかりました」


 外部と不可思議という言葉に王は強く関心を惹かれたが、それを表に出すことなく続けろ、とだけ告げる。


「はっ。まずは宿舎の件ですが、異界の者三十五名が死亡しております。これは殺害後に火を放たれたとみられ死因は火災ではありません。原型を留めていない部屋もありまして断定はできませんが、それ以外の部屋から火災から逃げ出した形跡もなく燃えたと見られるもの、火災が及んでいないにも関わらず死亡しているものが発見された事からほぼ間違いないと思われます。不可思議な点というのは遺体が一体少ないのです。爆発の衝撃が原因である可能性もありますが一体だけ、というのは偶然ではない可能性も高いと思われます」


 それが偶然でないのなら、一人は拉致されたという可能性もある。王はそう思った。しかしその考えは王にそう思わせた張本人、ザックによって否定される。


「拉致された可能性にも至りましたが、犯行に及んだと見られる人物を発見した使徒の言では荷物のような物は持っていなかったそうです。また、容疑者は逃走したとみられますがその直前に深手を与えており、その状態で付近にいた我々に気づかれず人間を抱えて敷地内から出るのは、不可能ではないかと思われます。協力者の可能性ですが、これもいたのなら我々が補足していると思われます」


 当然だろう。爆発が起きる前に、ザックは消火する為の人員を連れて宿舎へ到着していたのだ。大荷物を抱えた怪しい人間を見逃したとは考えづらい。さらには、ザックは現場で瀕死になっている三人を見つけた時に、一人だけ意識のあった葉月から要点だけではあるが事情を聞かされ、すぐに警備隊を駆り出して容疑者の捜索にあたったのだ。

 そこまでしたにも関わらず、荷物を抱えて足の鈍った逃走者を逃がしたとはザックには思えなかった。

 王は可笑しそうに小さく鼻で笑うと、機嫌の良さそうな声でザックに訪ねる。その時、王の脳裏には一人の少年が思い浮かんでいた。 


「なるほど。外部の犯行ではない、か…… 面白い。それはあいつか?」


 この話をすればこの問いをかけられると予期していたザックは、間髪を容れずに答えた。


「いえ、例の少年はあてがわれた部屋で死亡しているのが発見されております」


「顔を確認したか?」


 その言葉にザックは、はっとした表情になる。そして王と同じ考えに至ると、動揺を隠しながら答えを返す。


「いえ、確かに個人の判別がつく状態ではありませんでした。ですが、子供ではないとは言えそこまで考えが及ぶものでしょうか。彼らは争い事とは縁遠く生きてきたようでしたが……」


 王はニヤリとして、足を組み替えながら言う。


「俺の勘が殺せと言ったんだ。若造でもそれくらいするだろうさ。まだまだ甘いがな。どうせそいつの隣が死体のない部屋なんだろ?」


 今度こそザックは動揺を隠せなかった。あやうく王の前だというのに姿勢を崩してしまうところだった。どうせ崩してしまっても、咎められることはないと知っているせいでもあったが。


「その通りです。何故お分かりに?」


「あのガキ、詰が甘そうだったからな。まあそれは良い。あのガキが生きてるにしろ死んでるにしろ、外部からの犯行でなかったとしたら理由はなんだ。なにか掴んでるのだろう」 


 気を取り直したザックは、もう一つの不可思議を語る。それは使徒達から聞いた「黒の使徒」に関しての話だった。

 その話を聞いた王は目を閉じてしばらく考え込む。勿論、足は机の上のままだ。


「あくまでも可能性の話しです。実際に黒の神の加護を使用した様子はないようですし」


 その言葉を王は既に聞いていなかった。ザックの言葉を聞き流しながら王はしばらく思案していたが、考えが纏まるとそれをすっかり待ちくたびれていたザックに伝えて退室を命じた。

 一人になった王は、葉巻を取り出すと端を指で千切り捨て、口へと運ぶ。そして魔法陣を用いずに魔法で火を灯し、紫煙を深く吸い込んだ。


「殺し損なった奴は初めてだが、まあいい。それも一興だ。それよりも使徒をどうやって取り込むか、だ」


 煙とともに吐き出された言葉は、煙とともに空気にとけて消えていく。誰に届くことなく、ゆったりと。

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