表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

召喚

 昨日、魔法を使うには魔法陣が必要な事を知った俺は、あの騒動で宿舎に返されてから魔法書をあさった。その際に聞いたが今のところ本を借りに来たのはこの宿舎では俺だけらしい。これは好都合と言える。

 夜が明けてしまった。

 借りてきた魔法書をずっと読んでいた。できればこんな独学ではなく、先達に詳しく教えもらいたかったが、そうも言ってられなくった。今は一刻も早く最低限の魔法を使えるようにならなくては。この世界では(少なくとも魔法を戦闘に使う者のとっては)常識であるが俺にとって非常に有用な記述を発見してしまったのだから。一応検証が必要ではあるが、それが実証された際の計画は立てておく必要がある。計画の概要は既に決まっが、手段の目処が立っていない。早く計画の為に使える魔法を探して覚えなければならない。

 今日は確かこの国について講義をすると言っていた。常識や最低限の知識、礼儀作法あたりの事だろう。

 聞いておいたほうがいいか。

 読み終わったばかりの本を寝台脇の小棚にどけて、寝たまま伸びをする。


「ん〜、んぁ。腹減った」


 呟いてから体を起こす。そろそろ朝飯の時間だろう、早いかもしれないが食堂に行こう。






 幸い待たされることもなく朝食にありつけ、誰も居なかった席がちらほらと埋まりだした頃、幸平、大介、優姫、葉月、の四人が連れ立って入ってきた。


「おはよう。ここに居たのか、早いな」

「ああ、おはよう」


 幸平に返し、他の三人とも挨拶を交わす。通過儀礼を終えたところで幸平が口を開く。


「話があるんだ。部屋に行かないか?」

「別にいいけど、急ぎ?」 

「いやそうでもないけど」

「じゃあ飯食うだろ? 俺部屋に戻ってるから終わったら呼んでよ」

「そうだな、食べたらそっちに行くよ」


 会話が終わったので終わりかけの食事をさっさと済ました。先に行ってると告げてから席を立ち、食器をかたして部屋に戻った。

 少し寝ておくとしよう。






 一時間程寝ただろうか。食事を済ました幸平たちがやってきて起こされた。


「それで話って?」

「俺と義人にって事だよな?」


 大介も聞かされる側のようだ。三人に話があると起こされたらしい。一体なんだろうか。


「うん、二人に相談があるんだ。なんて言ったらいいのか、その、僕達神様に会ったみたいなんだ…… 」


 それから幸平は自分の身に起きた事を話しだした。使徒の事、使命の事、昨日のフード共がその神だという事。確かに王とそいつらがそんな事を話してたな気もするな。何か証明できるものはないかと聞いたところ、優姫と葉月が使い方を教わったと言って使徒としての能力を見せてくれた。しかし幸平はどういった能力を貰ったのかすら聞いていなかったらしく、それを優姫に教わっていた。


 本来魔法を使うには魔法陣と魔力が必須との事だが、加護を貰った神ごとに司る力があるらしく、使徒は戴く神に応じた力に、魔力を直接変換することが出来るそうだ。葉月は手から炎を出して見せた。優姫の加護は特殊らしく怪我の治療と神託を聞けるらしい。なんでも優姫に加護を与えた神は各地に使徒をを作っていて、あの巫女も使徒であるとか。優姫は自分の腕を引っ掻いて作った小さな傷を瞬く間に治した。

 しかし使徒を量産できるのにしないのは何か理由があるのだろうか。目的があるのならそうした方が達成しやすいと思うが。黒の神から使徒に選ばれる人間は、百人に一人くらいはいるとのこと。条件はそう厳しいものでもないように思える。神によって上限数が違うのだろうか。


 幸平は司る力を聞いていなかったせいか、能力を使うことはできなかった。


「それで、僕達は黒の使徒を探そうってなったんだけど、あんまり言いふらさない方が良いみたいだ。でも人数が多いに越したことはないと思う。それで二人にも手伝って欲しいんだ」


 それは願ったりだ。うまくいけば俺も使徒になれるかもしれない。使徒の事は歴史書にも出てきた。詳細は載っていなかったが使徒になった者の力は他を圧倒するらしい。個体として魔族に劣る人間が、魔族より繁栄している理由の一つに、魔族側には使徒が現れなかった事も大きいとあった。具体的にどれほど違うのかは知らんが明確であるはずの種族としても差を、わずか十数人で埋める程の力を与えられる使徒。成れるものなら成っておきたい。


「俺は良いよ」

「ありがとう。助かる。大介はどう?」

「俺も良いぜ。お前らの頼みとあっちゃ断るもんか。でもよその前にもう一個あるんじゃねえか?」


 そうか、それも探しておくべきだろうな。


「ん? 大介なんの事だ?」

「おいおい、忘れちゃ可哀想だぜ葉月? あの時の四人組が神様なんだろ。だったらもう一人いるんじゃねえか? 使徒になった奴がよ」

「あっ、そっか」

「そういえばそうだね」

「確かに。いてもおかしくない。いや、むしろ、あの時こそ意味が分からなかったが、あの方々は「見つけた」といった類の言葉を口にされてい。ならばもう一人いるはずだろう」


 話が一段落ついたところで部屋の入り口から声がかかる。


「サツキ様失礼します。コーヘイ様にお客様がおみえです。ロビーにてお待ち頂いておりますのでご足労願えますでしょうか」

「僕にお客さん? どちら様ですか?」

「アンジェリナ様でございます」


 だったら最初からそう言えよ。ほんとに。とりあえず話は中断してロビーに行くことになった。


 ロビーに行くと巫女と騎士がいた。その騎士と幸平は既知らしく、巫女と話しながらも時折何やら親しげにしている。その会話に優姫と葉月が呼ばれ、貰った加護をみせる事になり優姫は、自分で手のひらを浅く切った騎士の腕を治した。さっきの様な傷とも言えないようなものを治しても確信は持てないのだろう。葉月は先ほどと同じく魔法陣を使わず炎を出した。これは出した炎が自分に影響しない事で証明になるそうだ。


「では、もうお一人の使徒はご存知ないのですね?」

「えっと、はい。すいません」

「いえ、幸平様の責任ではありませんよ。しかし、使徒の方すべてお連れするとの事だったのですけれど、それでは仕方ありませんね。お三方だけでもお連れいたしましょう」

「やっぱり行かなきゃダメですよね?」

「陛下のご命令ですので」


 さっきの話はその事だったようだ。しかし陛下ね。あの時のおっさんか。俺は会いたくないな。まあ会えるのは使徒だけだろうがな。


「馬車を待たせております。お乗りください」

「あの! 大介と義人、この二人は使徒ではありませんが連れていけませんか? 僕たちに協力してくれる仲間なんです!」


 はいきました。いたらん気遣い。勘弁してくれ。俺なんぞがそんなとこに行って、粗相したりして不敬罪で打ち首なんてなったらどうしてくれるんだ。


「それはちょっと……」


 巫女は難しい顔をする。それはそうだろう。俺達はなんの関係がないんだから。そこで騎士が口を挟む。


「いえ、構わないでしょう。陛下には私からお伝えしましょう。おそらくご許可いただけるでしょう」


 そう言って騎士は大介の顔を見て、それから俺に視線を移す。なんだ? 大介にはただ目を向けただけのようだが、俺に対してはとても好意的とはいえない目してくるんだが。なんかしたか俺。気に食わないのなら何故俺達を連れて行くなんて言ったんだ。俺だけはだめ、とは言えないからか? とにかく今日の講義に俺たちは不参加のようだ。


「それは……いえ、分かりました。ダニエル様がそうおっしゃるのならお二方もお連れいたしましょう。では馬車にお乗りください。参りましょう」






 馬車で運ばれた俺達はでかい城門をくぐりでかい正門をくぐりでかい廊下を歩きでかい部屋で待たされ、ようやく謁見することになった。用があるから呼んだのに待たせるくらいならお前が来い。と言いたいが権威的、儀礼的理由があるんだろう。それにそんな事はともかく、仮にも世話になってんだからそんなことは言わないが。

  幸平たちは緊張しているようだ。どうにも落ち着かずそわそわして、表情も硬い。緊張しても得なんてないのだから、それに気づけば緊張なんてしないで済むのだが。

 謁見の間に通された俺達はあらかじめ言われていた通り跪いて顔を伏せる。


「おもてを上げよ。うぬ等が使徒とその仲間であるな。顔を見るのは二度目であるな。名乗るがよい」


 嫌だよ。なんで俺がお前のいう通りにせないかんのだ。使徒の三人だけで良いだろ? 大介空気読めよ?


「はっ。幸平・真田と申します」

「はい。優姫・朝倉と申します」

「はっ。葉月・桜井と申します」


 三人で自己紹介が止まる。大介が俺の意図を汲んだ、訳ではないだろうな。こいつ、仲間内以外には冷めてるからな。使徒でないという名乗らなくていい大義名分がある限り、自主的に動く事もないんだろう。なのにこのおっさん……


「そこの者共も使徒でないからと遠慮せんで良い。名乗れ」


 しかし何故俺はここまで人に遜りたくないのだろうか。今までだったら当たり前にできたし、内心でもここまでの忌避感はなかったはずではないか?


「はっ。大介・夏実と申します」


 なぜだか分からないが心底したてに出たくない。出たくないがどうしようもない。まさかあれを使う訳にもいくまいし、このまま無視すれば冗談でなく打ち首もあるやもしれん。いくら客人扱いといえどこの国に所属する事になったんだ。最高権力者には逆らうべきではないだろう。仕方ない。


「はっ。義人・五月と申します」


 なんだ? こいつもあの騎士と同じ様な目で俺を見ている? まさか今の葛藤が聞こえていた訳でもあるまいに。

 ただでさえ下げたくもない頭を下げているのにそんな目で見られると、イラつきが加速する。思わずポケットに入れてあるものを手に取ってしまいそうだ。

 それから使命の事を聞かれ、幸平がそれを説明していく。その間も俺は自分でも理解しがたい感情について考えていた。


「そうか、神々はそのようにおっしゃたのだな。協力するよう言われているからな、何かあれば力を貸そう。そうだな…… そこの巫女にでも言えば伝わるようにしておこう。ナッセル、そのようにしておけ」


 傍に控えている中年の男にそう指示する。


「はっ。アンジェリナ殿、後ほど執務室にこられるように」

「かしこまりました」

「うむ。最後になったが、うぬ等も国民となったと聞いている。歓迎しよう。それでは下がるがよい」


 その言葉を最後に謁見は終了した。






「陛下雰囲気あったねーコウちゃん」

「そうだな威圧感あったな」


 馬車で宿舎へ戻る途中だったのだが騎士の、せっかくなので街中を見ていきませんかという言葉と、それに強く食いついた優姫により、街中を散策することになった。巫女は城に残った為俺たちと騎士、それに騎士の部下が四人の十人で行動している。


「陛下は武人でもあられるからな。それもかなりの強さだと噂だしさらにあの御姿だろ? そこらの奴ならなら縮み上がっちまうよ。俺も初めて近くで拝見した時には殺されるんじゃないかと思ったね。それに比べればお前らは結構平気そうだったな」

「ザックさんそれは問題発言なんじゃないですか」

「陛下はそんな狭量じゃねえよ」


 一般の暮らしに興味がない訳ではないのでこれはこれで良かったが。しかし馬車なんて使ってる割に街中は綺麗だな。今は伺えないがそういった生業もあるのだろう。と言うことは衛生観念はある程度持っているのだろうか。


「しかしお強いとの噂は事実であろう。着衣していてもわかる。あの御仁、正しく鋼の肉体をしておられた。お若くないであろうに見事なことだ」

「確かにあの体はすごかったな。鍛えたからって普通あそこまではならねえぜ。生まれ持った資質がとんでもねえな、ありゃ」


 そういえば謁見の際に身体検査をされなかったな。無用心なのか? それとも試された? もしくは実際にあれを使ったところで無力であった可能性もあるな。本当にあれに気付いていなかったのだろうか。作成はあるべく密かに行なったし材料も自分で調達した。調達といっても宿舎の備品で使えそうな物をくすねただけだが。それで本当に気づかれていなかったのだろうか。考え過ぎか?


「義人はどう思う、陛下のこと」


 いや、仮に考え過ぎだったとしてもあの目。どうにも嫌な感じがした。俺にだけあの目をする。それも二人もだ。どんな感情を込めていたかは知らんが好意でないことぐらいは分かる。俺のあれに気付いてないのだとしてもあいつらには警戒しておくべきだろう。


「義人? 聞いてる?」


 幸平が話しかけてきた。なんか言ってたようだ。気がつかなかった。


「ん? ああ、悪い聞いてなかった。どうかしたか」


「聞きたい事があったんだけどもういいや。その反応でよく分かったよ。そういえば謁見を待ってる時から緊張なんてしてなかったしね」


 よく分からんがもういいのならそれでいい。


 しばらく街の中見て回った。ここは予想よりも治安が良さそうに見えた。はっきり言って文明レベルはかなり低いこの国(多分どこの国も同じだろうが)の治安は悪いのだと思っていた。しかし街中は割かし綺麗で浮浪者も見当たらない(たまたまかもしれないが、それでもあまり多くはいないのだろう)そこのとこちょっと聞いてみるか。


「ええと、ザックさん? この街は治安が良いように見えますが他の街、他の国も同じ何ですか?」

「違うぞ。うちの国は他よりも治安が良い方だがその中でも王都は特別だ。陛下の代になってからだな。スラムの人間なんかに仕事を与えてな、街の中も綺麗だろ? それもそういった仕事の一環でやらせてる。最初はそんな奴らに金を使うなって貴族からの反発も強かったらしいが、陛下が無理やりやらせたんだ。でも治安が良くなった上に、俺にはよく分からんが陛下がおっしゃるには伝染病の予防にもなってるらしい。実際にここ二十年ほど流行病が広がることはなかった。だから今ではこの政策に文句を言う奴はいないな。」


 話を聞いていた幸平が感心した様子で言う。


「すごいな。衛生面の向上と雇用問題を同時に取り組んで、その結果に治安も向上させたのか。でもそんなことが出来るなんてこの国はもの凄く豊かな国なんですか?」


 それを聞いた騎士も驚いた様子で返す。


「お前も結構凄いぞ? 今の話を聞いてそういうそこまで理解する奴なんてまずいないぞ。お前が特別なのか? それともお前ら全員そうなの?」


 ああそうか。義務教育を受けていればそれくらい誰だって分かるものだが、身分制度が強い社会だと下克上を恐れて政治的な知識を得ないようにするものだな。街一つだけとはいえ公共事業で雇用問題を解決できる国でも、やはり教育については進めないのだろう。問題は政治的なものだけでもないしな。


「僕が特別なんじゃないです。僕たちの国では教育が義務化してあって、僕らくらいの歳になればそれくらいの知識はあります」

「はー、ウチもラトゥール様のおかげで他よりかなり豊かな国で、騎士学園なんて作っちゃいるがそこまではできねえな。いい国に生まれたもんだなお前ら」

「恵まれてたと思いますね。それよりラトゥール様? のおかげってなんのことです?」


 確かに恵まれてたとは思うが、上を見ても仕方がないように、下と比べてもキリがない。それに俺はここの方が好きだしな。

 ラトゥールってのは七柱いる神の中で主神と言われてる奴だな。神ってのは不可侵であるからこそ神聖であって、干渉できるものであればそれはもはや悪魔である。なんて聞いたことがあるが、この世界の神は活躍しすぎではなかろうか。


「ん? ちょっと待て、ラトゥール様の事知らないのか? ああ、そうか。お前自分の加護も聞いてないって言ってたな。ラトゥール様は白の神と呼ばれている。今までラトゥール様の使徒が現れた事はないから詳しいことは謎だが、銀髪の女神様だそうだ。お前がお会いした神はどんな方だった?」


「えーと、多分そのラトゥール様だと思います」


 騎士が驚いている。いや呆れているのか? 使徒のくせに名前も知らなかった事を。俺としてはそんなことよりこの国が豊かな理由を聞きたかったんだが。

 話し込んでしまったせいで俺達三人だけ遅れてしまっている。というか完全にはぐれてしまった。騎士がいれば道に迷うこともあるまいが。

 すると騎士が遅れてしまったので近道をしようといいだし、表通りから裏通りに入る。裏路地も表ほどではないにしても最低限の清潔さを保っている。思ったより衛生意識は高いようだ。

 入り組んだ道をグネグネと進み、元きた道の方向も分からなくなってきた。

 そうして角を曲がった先に、目から下を隠した、しかし服装は一般的な、なんともちぐはぐな男たちが三人、道を阻んで立っていた。


「何者だ……って聞いても無駄だよな」


 後ろからも二人、似た格好の男たちが現れる。男たちは短剣を構えジリジリと距離を詰めてくる。

 素早く剣を構えた騎士が俺たちにだけ聞こえる声で指示を出す。


「たぶん狙いは幸平だ。前の三人は俺が抑えるからお前たちは後ろの奴らを振り切って逃げろ。表まで逃げれば追ってこないはずだ。俺が動いたらお前たちも走れ」


 幸平は真剣な顔で頷く。

 俺はあれを使うとこは見られたくない。大したものでもないがこの時点で俺があれを使える事は、大きな武器だ。隠す意味がある限り隠しておきたい。逃げた方が賢明だろう。その思いから俺も頷く。

 それを確認した騎士も頷いて一言叫ぶと、三人側に斬りかかっていく。


「行けっ!」


 俺と幸平は二人側に向かって駆け出す。あまり広くない道を二人で防がれては素通りすることはできない。どうにか隙を突かなくてはならない。素人の俺達が別々の相手に向かっても軽くあしらわれてしまうだろう。俺は幸平が向かう右側の男に狙いを定めて、右に寄っていく。幸平も分かっているのか、左に向かうことはない。相手も男たちもこちらの狙いは分かっているのだろうが、身を寄せ合ったりはしてくれない。そうしてくれたら何とか隙間を抜けられそうだったのだが。

 仕方ないと、一太刀は浴びる覚悟を決めて、右の男に攻め込む為に足を速める。

 待ち構える相手の間合いに入るその瞬間、上半身を深く沈めて、男の左足に左腕を絡めつつ後ろに回る。意表を突かれたのかたまたま躱せたのか、短剣で切られることはなかった。

 顔だけこちらに向けて体は後ろ向きのまま、右で逆手に握った短刀を振り落としてくる。

 右手を地面に付けて体を支え、上体を反らしてそれを躱す。それと同時に左足で背中を蹴りつけて距離を離しつつ立ち上がり、もう一人の男に体を向けて警戒する。

 それを好機と見たのか蹴り飛ばした男が斬りかかってくる。これを躱しても、もう一人が隙を突くつもりなんだろう。しかしこちらもそれなりに荒事は慣れてんだ。優姫のせいでな。


「グアッ!」


 斬りかかってきた男の後頭部に幸平の飛び蹴りが突き刺さる。

 この程度の連携なら俺たちにも出来る。


「幸平。今のうちだ」


 後頭部を蹴られ倒れた男から短剣を奪い、幸平を促す。残った一人は不利と見たのかおとなしくこちらを伺っている。相手に油断があったのか今回はうまくいったが、敵の増援が来る可能性もある上、まともに相対すれば訓練した人間に敵う訳がない。二人掛りならばもう一人も倒せるかもしれないが、その間に増援が来てしまえば意味がないのだからこの隙に逃げるべきだ。


「分かってる! けどっ!」


 幸平は立ち止まって曲がり角に目を向けている。ほんとに人のいい奴だ。

 こいつを説得する時間が無駄だな。倒れている男の首に短剣を突き刺す。だったらさっさと行動しよう。


「分かった。それでいい。時間を無駄にするのが一番アホだ。いいな」

「なっ!……よ、しとっ!……お前……」


 時間を無駄にするなと言ったばかりでこれか。今はそんな事を言ってる場合でないのが分からないとでも言うつもりか。お前はそんな馬鹿な人間じゃないだろう? 


「お前、殺す気で襲ってくる人間を全員無力化出来る自信でもあるのか? ないなら黙って、逃げるか加勢するかさっさと決めろ。時間がもったいないのは分かってるはずだろ」


 既にかなり無駄にしたがな。

 幸平も理解したのかすぐに、騎士を助けることに決めた。


「という訳なんだが、逃げるなら追わんぞ」


 俺は上着の内ポケットに手を入れながら男に告げる。

 壁を背にした男は無言のまま、構えも解かずこちらを伺い続ける。


「そうか、残念、だっ!」


 言葉と同時に内ポケットに入れていた生徒手帳を上に放り投げ、続けて短剣を男に向けて投げつけ、自身も駆け出す。残念ながら手帳はちらりと一瞥されただけで終わった。少しでも気を逸らせればいいと思ったんだが。

 身をひねって短剣を躱した男は逆手の短剣で右からなぎ払おうとする。その手首を掴み、そのまま押さえつけようとしたが、手首を回転することで拘束を解かれその流れで左腕を浅く切られる。怯んだ隙にさらに左脚に短剣を突き込まれた。


「つっ! ぐがぁっ!」


 だがこれで武器は抑えた。

 突き込まれた短剣を両手を使って相手の腕ごと押さえ込む。慌てて残った手で殴りかかってくるが、もう遅い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ