第5話
意外にも。
その男の方から、話しかけてきた!
「やあ。君が高田くん? お迎えが来るそうだね。おめでとう」
片手を上げて、ニッコリと笑いかけた。見た目は普通の人間と変わりないが……。「ぞくぞくと、集まってきているようだね? 我が同士が、ここに」
「どうして!? みんな、何が目的なの!?」
天川さんが間に割って入った。男はニヤッと笑って答える。
「君と同じじゃないかな? みんな星からの迎えを待っていた。彼の船に便乗させてもらおうってね。理由は おのおののだろうけど」
……いいっ……!?
ここにいる人、全員っ!?
一人、二人、三人、……十人、二十人、……一体、何人いるんだミルキーウェイ星人。
「何らかの理由で、故郷に帰りたい連中さ」
「あなたも?」
「まあ……ね。いろいろと」
男は そう言って またどこかへ去ってしまった。
「思っていた以上に盛大な祭りになってしまいそうね。みんな、一体どれだけ遠くから はるばる来たのかしら……」
天川さんが男の去る背を見ながら そう言ったので、僕は何だか焦って「ブ、ブラジルとかっ?」と、適当なことを言った。
「何それ。……日本から遠いってだけでヒネリもない……。せめて北極とか、南極とか」
僕は少し小さく背を丸めた。ギャグセンスゼロで大変申し訳ない。何、焦ったんだろう?
ただ、天川さんが あの男をずっと見ていたから……。って、何だ この気持ちは。おお?
「僕は!」
声を張り上げた。
天川さんが びっくりして僕を見る。「な、何? 急に……」
「地球に残る! ミルキー星になんて、行かないよ。みんなは、勝手に行けばいいさ。僕は……」
昨日の両親の行動を思い浮かべた。
短冊。願い。
〔お金持ちになりますように〕〔『ドラ○エ21』が欲しい〕〔健康第一〕
そんな願い事を僕は書いた。親からは平凡だの安易だの、ジジくさいだの、ミルキーはママの味というよりは砂糖の味だのと言われたが。
僕の本当の願いは。
「今のままでいいんだ。地球在住のままで」
天川さんは何も言わなかった。すっかり空が暗くなって、夜風が天川さんの髪を きれいに なびかせていた。
…………
……空に一筋の光が出現した。サッと上空を見上げると、川の中心の上で白いシンプルな円盤がフラフラと飛んでいた。一筋の光は、周囲を さまよう。まるで何か探し物をしているかのようだ。
きっと……。
「たぶん、僕を探しているんだね」
僕は そっちへ向かって川の中へ入っていった。ザブ、ザブ……。
川底は とても浅い。簡単に進める。僕は円盤の近くまで進んだ。
近くまで行くと、円盤は家の屋根ぐらいの大きさだと分かる。薄っぺらいけど。
その一筋の光が、やがて僕に当たった所で止まった。
……しばらくの沈黙の後、円盤の中? から、マイク越しのような声が聞こえた。
『ホップルポップルカヌマカスーン=デ=ジョジョルナ、ですね?』
……はい? ……
『あなたの本名です。正式名称は……』
僕は言葉を止めに かかった。
「いえっ、名前は もう、結構ですっ。守生でっ」
正式名称なんて、覚えられそうにない気がする。
「僕は星へは行きません。断るために、ここで待ってました」
『……なぜ? ……』
「ここが僕の育った故郷だから……。
僕 の 故 郷 は こ こ だ け で す 」
『……』
「……ごめんなさい」
『……』
シーーン……。
虫の音さえ聞こえなくなるほどの沈黙。辺りが、静寂に包まれた。
でも、やがて。
『……わかりました。ポポン』
ポポン……?
『ポポンは、守生として、地球人として、ここに残る決意をしたのですね』
ポポンが、僕の正式名称らしい……。
『よく わかりました。立派になりましたね。母は……今、ここにいる父も……、しかと、あなたの立派に成長した姿を目にしました。さっそく帰ってブログに書かなくては』
……。えーっと……。
『とても辛いですが……。もう、ここに来て守生を困らせることもないでしょう。私達は このまま去ります。……お元気で。守生』
円盤は、そのままスウ……ッと、上空へ。風が当たる。『最後に……あなたの願い事を叶えましょう。守生。言って ご覧なさい』……
優しい声。僕はピンッと、ひとつ。思いついたことを口にした。
「ここにいるミルキー星人の みんなを、星に帰らせてくれるってこと、できますか?」
周囲にいたミルキー星人(?)たちが、どよどよと騒ぎ出した。中には、「ナイスだぜっ、ぼうずっ」と声を上げる人もいた。
ちらりと、天川さんの方を見た。天川さんは、少し複雑そうな表情をしていた。
……天川さんは行ってしまうのだろうか?
そう考えると、少し胸が切ない……。
《第6話へ続く》