第4話
そして、あっという間に当日が来てしまった。すなわち、7月7日。七夕。僕は背犬川の川原に来た。もうすぐ日が沈む。
僕は ただ ぼうっと、その沈みかけた日を見ていた。川原の ところどころでは、ポテチの袋や飲料水のペットボトル、タバコの吸殻などのゴミが捨ててあった。
……なるほど、こんなのを見ていたら嫌に なってくる。……地球まで捨てたくなるのか?
物思いに ふけっていると、背後から天川祥子が現れた。「笹団子買ってきたの。食べない?」
美女と団子。
「……いただきます。ありがとう」
僕と天川さんは団子を食べながら、少し川原を歩いた。天川さんは短めのジーンズに、黒いネコのプリントされた白地のTシャツ。そしてサンダルだ。私服の同級生の女子、というものを見る機会が あまり無いので、ドキドキする。
「天川さんは どうして地球に来たの」
僕は今日まで思っていた事を聞いてみた。団子をモグモグさせながら「ひゃあね」と、そっけなく答えた。
「たぶん、宇宙戦争か何かのドサクサに紛れたんでないの。今、一緒に住んでいる おばあちゃんが言っていたけど。……おばあちゃんは地球人よ。あなたと境遇は同じね」
「……でも、君は地球を去りたいんだ?」
すると、天川さんは食べかけの団子を全部 口に入れ、飲み込んでから少し落ち込んだ。
「……できれば、おばあちゃんも連れて行きたいんだけど。年が年だから。おばあちゃんは昔、とっても苦労した人だから。私と出会うまで……」
……そして、黙って うつむいてしまった。天川さんには天川さんの思いと理由があるのだろう。僕は それ以上聞くつもりは無かった。
「あ、一番星」
天川さんが空で見つけた。
「そういえば七夕ね。短冊書いて笹飾った?」
僕は昨夜の両親を思い出していた。思い出しながら、天川さんに暴露する。
「どこから持ってきたのか知らないけど、やけに でかい笹を山から取ってきて、『七夕セット』で飾りつけして願い事を酔っ払いながら書きまくっていたね。〔部長に なれますように〕とか〔○トが せめて二等で いいから当たりますように〕とか〔巨乳でなくていいから豊乳〕とか、控えめに欲望丸出しな願い事ばかり書いていたよ。ははははは」
どうせなら社長を目指せよ。何だか情けない……そう思った。
「暇だね……。ゴミ拾いでもしよっか」
天川さんは、そばのクシャクシャに丸められていたスーパーの袋を拾い上げた。
自然と、僕と天川さんのゴミ集めが始まった。その途中、天川さんはポツリと言った。「……きれいな星なんて、ないのかもしれない」
そろそろ、日が沈んで暗くなってきた頃。ゴミ袋は増えるに増えて そこそこ山積みに なった。僕と天川さんの歩いた所だけは、きれいになった。放置自転車とかは、どうしようもないけど。
「じゃあ そろそろ……」と言いかけて、「じゃ、なかった。帰りそうだった」と、自分にチョップした。「いつ来るのかしら。ミルキーウェイ星人」
なかば まだ信じられないのだが。本当に来るのだろうか……。
「き〜っと来る〜。きっと来る〜〜♪」……天川さんは そう歌いながら、川の水で手を洗っている。
……気のせいか? 辺りに人が少しずつ……増えてきたような気がした。
「天川さん、気づいてる?」
僕はコッソリ天川さんに聞いた。
「……まあね。ちょっと変だな、って……。私も思ったトコ」
天川さんの長い黒髪が僕の肩に触れた。少し いい香りがして、僕の心臓がピョンと跳ね上がった。
「犬の散歩の人とか、ジョギングしてる おじいちゃんばかりだと思っていたけど……。そう見せかけて、この人たち、もしかして……」
天川さんが振り返って僕の顔を見るが、見るなり眉を ひそめた。
「聞いているの? 高田くん!」
「えっ……。あ、うん。聞いてるよ!」
僕はハッとして天川さんを見た。
「ボケっとしないでよ! この人たち、みんなミルキー星人だわ!」
「ええっ!?」
僕は後ろを振り返った。すると、ちょうど後ろにいた背の高い黒いTシャツの高校生くらいの男と目が合った。
(しまった! つい振り向いて……)
そう思っても もう遅い。バッチリ見つめ合ってしまった。
彼も……!?
僕は体が動かなかった。
《第5話へ続く》