とある王女様の奮戦
私は騎士団の詰め所でフルフルと話しをしていた。誰でもいいから愚痴を聞いてもらいたい気分だったのだ。
フルフルは聞き手には向かず、困った表情で相槌のようなものを、あの意味不明な口調で返してくるだけだ。
思えば、フルフルとこうして話しをするのは初めてだな。パイモンとはそこそこ話しをして、お互いにある程度の意思疏通はできているのだが、フルフルはあの時からあまり喋らない奴だった。
よく考えてみれば、フルフルは魔族なのか、人間なのかすら私は知らない。
ああいや、そういえばお風呂でスライムのような姿になっていたから、人間ではないな。しかし、まさかスライムではないだろう。スライムは魔物だ。意思の疎通ができるはずがない。
この機会に聞いてみるか。
「フルフル、お前は―――」
しかし私の質問は、突然聞こえた怒号に止められる。
詰め所の外から。剣を打ち鳴らす音。これは戦闘音だ。
私は立ち上がり、室内にはフルフル以外は他に誰もいないにも関わらず問いかけた。
「何があったッ!?」
私の張り上げた声に、近くにいたフルフルが飛び上がる。
騎士団長ともなれば、声の大きさというのは重要な技能の1つである。喧騒の中でもハッキリと仲間に届く声というのは必須とも言える。
私の問いかけに、すぐさま扉が開き、副長が駆け込んでくる。
「賊が門を破り城内に侵入した模様!!数不明!!騎士団詰め所の前には、100人以上!!人間です!!」
人間か魔族かの報告は、我が国では必須である。
もし魔族が気付かぬ内に国内に攻め込んできたのなら、事態は最悪と言っていい。今はキアス様が魔大陸からの侵入者を阻んでいるので、魔族が入り込んでくるなどあり得ないのだが。
「全員武装し、迎え撃て!!奇数班!城内に向かい陛下のお側へ!!急げ!!」
私は指示を出しながら、武装を整える。鎧を着けるのは手間だ、やめよう。盾と、キアス様にいただいた剣を取り、私は詰め所の入り口まで駆けた。
小さな入り口では、騎士と賊が入り乱れて戦闘を繰り広げていた。
私は加勢するべく、そこへ急ぐ。
私の後ろには、フルフルがよくわからなそうに首を傾げてついてきていた。
「フルフル、あなたは戦えますか!?」
この緊急事態だ、使える物はなんだって使おう。
「戦えるの!ピンチなの?」
「わからん!だが、キアス様も危険かもしれない!あなたは急いでキアス様の元へ!!」
「わかったの!!」
「あ、おい!」
言うが早いか、私を追い抜き玄関から飛び出そうとするフルフル。
そこには今、賊が雪崩れ込んで、騎士達と戦闘を繰り広げているのに。
「邪魔なのよ!!」
案の定、すぐに斬りつけられてしまった。私は少なからず動揺し、足を止めてしまったが、当のフルフルは構わず前進し続けた。
斬りつけられても、掴まれても、それを無視して前進しようとするフルフルに、私は開いた口が塞がらなかった。
やはり、普通の子供ではなかったのだな。
「なんだこいつ!?」
「斬っても斬っても死なねぇぞ!?」
「それどころか掴めもしねえ!!」
賊達は動揺し、口々にフルフルの異常さを説く。そんな事をしなくても、騎士達もまたフルフルの所業は見ている。あまりの驚きに、戦闘の手を止めてしまっている者もいる程だ。
「汚い手でさわるななのよ!!」
敵意も露にそう言うと、フルフルは賊達の頭上に腕を伸ばし、さらに水に変えて大きな水の塊を作り出した。
「あーむずしゃわー」
フルフルが間延びした声で言うと同時に、水の中からは見慣れた鎖袋がいくつも現れた。
―――まさか!!
私がその先を予想した通り、袋からは無数の剣、短剣、長剣、槍、戟、薙刀、斧、斧槍、鎌、大鎌、鉈等々………………。
ありとあらゆる武器が降り注いだ。
賊の約半数が、命を落とした。
大地に降り注いだ大量の武器は多くの賊に突き刺さり、まるで剣山のような有り様で立ったまま地面に縫い付けた。
命のあった者も、無傷な者は少数で、腕や足に何かしら武器が突き刺さっているのがほとんどだ。
なんという恐ろしい技だ………。
広域殲滅には、レジストされやすい魔法よりも厄介な戦い方だ。本当に味方でよかった。
これでこの場での勝利はほぼ確実である。
呆気にとられて立ち尽くす騎士達に、私は大音声で指示を出す。
「偶数班!!戦闘を継続しろ!!奇数班は私と城内だ!!副長、この場を頼む!!何をしている!?とっとと動け!!」
ようやく動き出した騎士達を確認し、私は騎士達と城内に走る。
フルフルはとっくに走って行ってしまった。
なぜこのタイミングで襲撃など。
まさかキアス様を狙って!?いや、キアス様が来ることは、私と父上以外は知らない。どう考えても狙いは我々だ。ならば本当に賊が王城を狙ったのか?有り得ん。わざわざ兵や騎士のいる王城を狙う意味がない。もし仮に成功したとしても、少なからぬ犠牲は確実に出る。そんなリスクを負うより、商家や村を襲う方が確実だ。ではなぜ―――
「―――っ!!」
目の前に新たな賊が20人ほど現れた。
くそっ!!やはり詰め所に現れた者達が全てではなかったか!
襲いかかってきた1人を、すれ違い様に抜き打ちで切り捨て、私は次の者と相対する。
父上、キアス様………っ!!