表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/488

 とある王女様の奮戦

 私は騎士団の詰め所でフルフルと話しをしていた。誰でもいいから愚痴を聞いてもらいたい気分だったのだ。


 フルフルは聞き手には向かず、困った表情で相槌のようなものを、あの意味不明な口調で返してくるだけだ。


 思えば、フルフルとこうして話しをするのは初めてだな。パイモンとはそこそこ話しをして、お互いにある程度の意思疏通はできているのだが、フルフルはあの時からあまり喋らない奴だった。


 よく考えてみれば、フルフルは魔族なのか、人間なのかすら私は知らない。


 ああいや、そういえばお風呂でスライムのような姿になっていたから、人間ではないな。しかし、まさかスライムではないだろう。スライムは魔物だ。意思の疎通ができるはずがない。


 この機会に聞いてみるか。


 「フルフル、お前は―――」


 しかし私の質問は、突然聞こえた怒号に止められる。

 詰め所の外から。剣を打ち鳴らす音。これは戦闘音だ。


 私は立ち上がり、室内にはフルフル以外は他に誰もいないにも関わらず問いかけた。




 「何があったッ!?」




 私の張り上げた声に、近くにいたフルフルが飛び上がる。


 騎士団長ともなれば、声の大きさというのは重要な技能の1つである。喧騒の中でもハッキリと仲間に届く声というのは必須とも言える。


 私の問いかけに、すぐさま扉が開き、副長が駆け込んでくる。


 「賊が門を破り城内に侵入した模様!!数不明!!騎士団詰め所の前には、100人以上!!人間です!!」


 人間か魔族かの報告は、我が国では必須である。

 もし魔族が気付かぬ内に国内に攻め込んできたのなら、事態は最悪と言っていい。今はキアス様が魔大陸からの侵入者を阻んでいるので、魔族が入り込んでくるなどあり得ないのだが。


 「全員武装し、迎え撃て!!奇数班!城内に向かい陛下のお側へ!!急げ!!」


 私は指示を出しながら、武装を整える。鎧を着けるのは手間だ、やめよう。盾と、キアス様にいただいた剣を取り、私は詰め所の入り口まで駆けた。


 小さな入り口では、騎士と賊が入り乱れて戦闘を繰り広げていた。


 私は加勢するべく、そこへ急ぐ。


 私の後ろには、フルフルがよくわからなそうに首を傾げてついてきていた。


 「フルフル、あなたは戦えますか!?」


 この緊急事態だ、使える物はなんだって使おう。


 「戦えるの!ピンチなの?」


 「わからん!だが、キアス様も危険かもしれない!あなたは急いでキアス様の元へ!!」


 「わかったの!!」


 「あ、おい!」


 言うが早いか、私を追い抜き玄関から飛び出そうとするフルフル。


 そこには今、賊が雪崩れ込んで、騎士達と戦闘を繰り広げているのに。


 「邪魔なのよ!!」


 案の定、すぐに斬りつけられてしまった。私は少なからず動揺し、足を止めてしまったが、当のフルフルは構わず前進し続けた。


 斬りつけられても、掴まれても、それを無視して前進しようとするフルフルに、私は開いた口が塞がらなかった。


 やはり、普通の子供ではなかったのだな。


 「なんだこいつ!?」


 「斬っても斬っても死なねぇぞ!?」


 「それどころか掴めもしねえ!!」


 賊達は動揺し、口々にフルフルの異常さを説く。そんな事をしなくても、騎士達もまたフルフルの所業は見ている。あまりの驚きに、戦闘の手を止めてしまっている者もいる程だ。


 「汚い手でさわるななのよ!!」


 敵意も露にそう言うと、フルフルは賊達の頭上に腕を伸ばし、さらに水に変えて大きな水の塊を作り出した。


 「あーむずしゃわー」


 フルフルが間延びした声で言うと同時に、水の中からは見慣れた鎖袋がいくつも現れた。


 ―――まさか!!


 私がその先を予想した通り、袋からは無数の剣、短剣、長剣、槍、戟、薙刀、斧、斧槍、鎌、大鎌、鉈等々………………。


 ありとあらゆる武器が降り注いだ。


 賊の約半数が、命を落とした。


 大地に降り注いだ大量の武器は多くの賊に突き刺さり、まるで剣山のような有り様で立ったまま地面に縫い付けた。


 命のあった者も、無傷な者は少数で、腕や足に何かしら武器が突き刺さっているのがほとんどだ。


 なんという恐ろしい技だ………。


 広域殲滅には、レジストされやすい魔法よりも厄介な戦い方だ。本当に味方でよかった。




 これでこの場での勝利はほぼ確実である。


 呆気にとられて立ち尽くす騎士達に、私は大音声で指示を出す。


 「偶数班!!戦闘を継続しろ!!奇数班は私と城内だ!!副長、この場を頼む!!何をしている!?とっとと動け!!」


 ようやく動き出した騎士達を確認し、私は騎士達と城内に走る。


 フルフルはとっくに走って行ってしまった。


 なぜこのタイミングで襲撃など。

まさかキアス様を狙って!?いや、キアス様が来ることは、私と父上以外は知らない。どう考えても狙いは我々だ。ならば本当に賊が王城を狙ったのか?有り得ん。わざわざ兵や騎士のいる王城を狙う意味がない。もし仮に成功したとしても、少なからぬ犠牲は確実に出る。そんなリスクを負うより、商家や村を襲う方が確実だ。ではなぜ―――


 「―――っ!!」


 目の前に新たな賊が20人ほど現れた。


 くそっ!!やはり詰め所に現れた者達が全てではなかったか!


 襲いかかってきた1人を、すれ違い様に抜き打ちで切り捨て、私は次の者と相対する。




 父上、キアス様………っ!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ