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 不穏

 「止まれ!ここはアムハムラ王のおわす王城である!貴殿の身分と目的を聞こう!」


 木製の門の前で、我々は兵に足止めされた。


 これが王城?


 私のアムハムラ王の居城に対する第一印象は、そんな、失笑とも軽蔑ともつかない感情だった。


 王城とは、国の威厳と威信の象徴である。こんな質素な王城など、真大陸広しといえどこの国だけだろう。


 「私はアヴィ教会の聖騎士、第38隊隊長カリス・ドルトレイクと申す者、第13魔王に関する報告を、アムハムラ国王に直接賜りに参った。

 お通し願いたい」


 私が聖騎士と名乗ると、門兵はあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。

 噂通り、不信心の蔓延する国らしい。

 この門兵だけではない。国境の関所の役人、商人、一般庶民まで、我々が聖騎士と聞くと一様にこのような態度に出る。


 教会は各町に1つ有るか無いか。あっても寂れていたり、既に放棄されていたりと、本当にどしがたい国だ。

 そのせいで旅程も遅れ、我々は宿泊施設にすら泊まれなかったのだ。

 連れてきた2人の聖騎士は、例えアムハムラ王が提案に乗ってきても暴れだしそうな雰囲気だ。


 それも仕方のないことだ。こんな国、とっとと滅ぼして教会で管理してしまった方がいい。そうすれば魔大陸侵攻も、もっと速やかに決まることだろう。


 「陛下はただいま謁見中です。約束を取り付けた上で、後日お越しください」

 表面上は丁寧な口調だが、我々を門前払いにするつもりだろう。我々は崇高な目的のため、一刻も早い行動が求められているというのに。本当にどしがたい。


 あぁ、神よ。


 どうかこの不信心者たちをお許しください。


 私は神への祈りを捧げると、門兵に言って捨てる。




 「神の御元で懺悔しろ、愚か者」




 門兵は、体から2本の剣を生やし、力無く脱力した。

 やはり2人の聖騎士には我慢の限界だったようだ。私が剣を抜く前に、さっさと不信心者を処分してしまった。


 困ったな、これではアムハムラ王との交渉も不可能だろう。だが、彼らも崇高な信仰の為の過ちである。ここは寛大な心で許さねば、聖騎士たる者の名折れだろう。犠牲となった兵士も、己の愚行を神の御元で改めてくれる事だろう。


 私たちは開け放たれていた門から中へと侵入する。


 この程度の屋敷など、兵の数もたかが知れている。私たち3人と、傭兵山賊合わせて178人がいれば、制圧も容易い。


 奴等を始末するための毒入りの酒も用意は済ませてある。




 おお神よ、今回の件で失われる命たちに、祝福を。






 侵入は比較的スムーズに行われた。


 門兵、30名ほどは事態を仲間に知らせることもできずに、鏖殺された。


 山賊や傭兵が血を見て猛ったのか、やたらと意欲的だ。あまり騒がなかったのはこちらの指示通りなのでいいのだが、振る舞いが野蛮である。

 死んだ兵を何度も刺したり、首に縄をかけて吊るしたりとやりたい放題だ。


 我々はそこから、二手に別れることとなった。王を見つけて殺すのが我々3人の聖騎士。兵達の屯所へ攻め込み、陽動の役目を果たすのが山賊と傭兵である。この作戦が終わったら教会の聖騎士の下部組織に取り立てるという話を真に受けて、精々奮戦してもらおう。


 「行くぞ。それほど広くはない、すぐ見つけることは出来るだろうが、早いに越したことはない。各自、光の神の御為、死力を尽くせ」


 傭兵達を送り出し、聖騎士を鼓舞し、私は屋敷に入る。


 やはりあまり広くはない。屋敷内にも何人かの兵はいたが、我々聖騎士の相手にもならない。

 しかし、事は確実に露見してしまった。速やかに事態を終わらせなければ。


 ユヒタリット枢機卿は、この国で起こった出来事は全て魔王の仕業になると言っていた。必ずや、神の悲願を果たす尖兵としての役目を全うしてみせよう。


 失敗は許されないのだから。


 失敗すれば我々は、教会の意向を無視し、勝手な暴挙にでた背教者として裁かれる。

 神のためには命を惜しまぬ我々も、背教者として死ぬのは耐えがたいのだ。だが、私は神の悲願のため、危険も名誉も省みず進むのだ。

 今日がこの国の終焉となる事を信じて。







 しばらく屋敷内を探索していると、2階の広間でアムハムラ王と1人の少年がいた。会談の最中だったようで、両者ともまともな武装はない。


 この不運な少年も、この国と運命を共にしてもらわなくてはならない。




 ああ、神よ。あなたの悲願のために命を捧げる、この哀れな少年にも祝福を。





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