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 運輸王っ!?

 流通産業。


 つまりは物を運ぶだけの簡単なお仕事だ。


 だが、トラックが高速道路を走らぬ日がないように、貨物列車が毎夜走るように、大型タンカーが世界の海に溢れているように、空に飛行機が飛び交うように、物資、人員の輸送というのは大きな産業になる。


 それだけではない。


 いかに早く、いかに安全に、いかに多くの物資を運べるかがこの産業で生きていく上では重要なのだ。


 何より運輸産業は国を跨げば莫大な金になる。


 さて、考えてみよう。


 僕の鎖袋があれば、量に問題が出るわけがない。一番の問題である足は、僕の飛行馬車を提供する。安全面は、普通に陸路を使うより安全なことは保証しよう。


 空運王に、俺はなる!!


 と言えば明日にでもなれるだけの物は揃っているのだ。


 問題は、これの独占である。


 袋を独占することは得策ではない。何故なら汎用性が高すぎて、戦争等への転用が容易に想像できるからだ。アムハムラ王が悪用するとは思わないが、どこかから流出してしまう危険はあるし、ダンジョンには普通に落ちている。あれはばらまいて、どの国も同じ状況にしてしまった方がいい。まず普及するのは商人からなので、各国の軍に配備される頃には、商人の必需品となっていることだろう。


 独占するならやはり馬車である。馬車はダンジョンで得ることはできないし、何より付与させる魔法は失伝した古代魔法だ。真似される心配はない。


 しかし、これも奪われる危険が大きい。奪われても、魔力を補給する術がなければその内使えなくなり、下手をすれば上空から真っ逆さまなのだが、それを知らずに奪う奴は必ず出る。なので、馬車には強制停止用の細工を施しておこう。御者には転移の指輪で離脱してもらい、馬車はあとでただの馬車になってもらう。これと、魔力が切れれば使えなくなることを喧伝すれば馬車を奪う者も減るはずだ。安全保障の無い飛行機に乗る奴は………、あれ?そういえば飛行機がなぜ飛ぶかって、ちゃんとした理論は地球にもないんだっけ?うぇー、よくそんなものに乗るな。こっちはちゃんと理由があるから、大丈夫。魔法万歳!!

 閑話休題。


 ともかく、確実に機能停止する馬車を奪う奴がいなくなれば、アムハムラ王国が空を支配する。どの国にも短時間で行けて、輸送に関してはアムハムラが随一となれば、アムハムラは物流の中心地となる。


 この事で職を無くすこととなる行商人は、アムハムラ近辺の者は王国が抱え込み、他国の商人には苦しい思いをしてもらう事になるが、その程度で身を持ち崩す程度なら、そもそも商人に向いていないので早めに転職することをおすすめする。何より、そこまで多くの馬車を造り出すのは厳しいので、主要な都市へ向かう便しか用意しない。地方都市や、各村々へは土着の行商人は不可欠である。


 商人とは、時にゴミすら商品に変える気概がなければ、成功など夢のまた夢なのだ。







 「うむぅ………。話しはわかった。わかったが………、やはりその技術の出所がなぁ………」


 アムハムラ王の表情はまだ少々苦い。

 確かに、技術の出所が魔王と知られれば国際的にあまりよろしくない立場に立たされるだろう。


 「馬車に付与する魔法は古代魔法です。アムハムラ王国が密かに研究し、独自に利用したことにしてはいかがでしょう?」


 「貴殿の名を売る必要はないと?」


 「この件に関しては、私の名前を売る事はむしろ不利益しか生みません。出来うるならば、ひた隠しにしていただけると………」


 「成る程。我が国の不利益が、直接貴殿の不利益になると」


 「お察しいただけましたか」


 アムハムラ王国が運輸大国になれば、僕のマジックアイテムは飛ぶように売れるだろう。少なくとも、鎖袋が売れるのは確定だ。


 商売が軌道に乗り、真大陸に必要不可欠な技術となれば、アムハムラ王国の国際的な立場は一気に上昇する。その時にごちゃごちゃイチャモンをつけるような輩は、商売の縁を切ってしまえばいい。情勢もわからぬ愚か者は、大いに自爆してくれという話だ。


 だが、軌道に乗る前のイチャモンはダメージが大きい。忌避されれば採算がとれなくなり、アムハムラ王国も、僕も苦労する嵌めになる。


 きっと、アムハムラ王もその事に気付いたのだろう。だが、成功した時の報酬を考えればこの程度、ローリスクハイリターンだろう。


 「うむ。だがやはり俄には信じられん話よな。空を飛ぶ馬車、そんな物を本当に造れるのか?」


 「もう出来ております。僕がズヴェーリに赴いたのも、その馬車を使ってでしたから」


 「成る程………」


 アムハムラ王は沈思黙考し、事の判断を迷っているようだ。


 そんな王様に、僕は畳み掛ける。


 「この輸送手段を使えば、今まで輸送に向かなかった魚介類も新鮮な状態で内陸に届けることが出来るようになります。内陸で魚の需要が生まれ、それが全てアムハムラ王国産ともなれば、その内こう呼ばれる事になりましょう。


 『魚と言えばアムハムラ産』


 どうです?輸出入の利益で他国から食材を買い入れ、その食料を売った利益で魚を買い、他国へ輸出する。そのサイクルが出来上がってしまえば、内陸ではアムハムラ王国の魚こそが市場を席巻します」


 「しかし、その魔法の袋もその内人々に普及すれば他国も同じではないか?」


 「いえいえ、商売には収穫逓増(しゅうかくていぞう)というものがあります。

 量、速さ、コスト面で他者より優位にあるアムハムラが負けるわけがありません。仮に、魚の需要が高まり他の商人が得をしたところで、そのムーブメントは確実にアムハムラ王国の利益となりましょう。むしろ真似をする人間が増えてくれれば言う事はありません。アムハムラの魚に、ブランドという付加価値を付けてくれるのですから」


 早い、うまい、安いは、どこの世界でも庶民の心を掴むのだ。行商で時間をかけ、色々な国を経て届けられた魚より、アムハムラ直通の魚の方が安く提供できるのは自明の理だ。


 「今まで国民が食べるだけだった魚を、輸出に使うか………」


 アムハムラ王の顔には苦悩の色が見え隠れする。それはそうだ。これは、僕の技術に全面的に依存して成立する商売である。国は富み、国民は豊かになり、国際的な重要度も増す代わりに、魔大陸侵攻や僕への敵対案には全て反対派でいなくてはならない。とはいえ、長年魔王の矢面に立たされてきたこの国であれば、僕が何もしなくても反対派だっただろう。


 だから本当は、アムハムラ王の腹も決まってたのだ。




 「貴殿は………、天帝が言っていたように、本当に危ない魔王だ」




 最後に苦笑するように言った王様に、僕は首をかしげた。


 何でみんな僕を危険視するんだろう。




 僕ほど友好的な魔王は、歴史上初だと思うけど?





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― 新着の感想 ―
[一言] 飛行機が飛ぶ理論とか科学的な説明は小学生向きの本にも書いてありますよ 単に主人公が知らないだけなのでしょうか?
[一言] 現地人が持たぬ知識、技術を容易く扱えるなら経済、産業で世界征服者になれるからな(笑)
2020/02/23 22:21 退会済み
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