アムハムラ王国と親バカっ!?
「………すまん、取り乱した………」
壮絶な父娘喧嘩を経て、やや落ち着いた口調に戻ったアムハムラ王が素直に謝ってきた。
きっと最後の『父上なんて大嫌い!!』に少なからぬダメージを受けての結果だ。
「いえ、父親にとって子供はいつまでも子供ですからね」
トリシャはぷりぷり怒ってフルフルを連れて退室してしまった。あのー、ソレ僕の護衛なんですけど………。
こんなおっさんと2人きりにされた僕。超こえー。
「私の血が色濃く出てしまったのか、普段は冷静な娘なのだが色恋にはとんと疎くてな。いや、あれの母も情熱的な女性だった。2人の血を継いでいるなら仕方の無いことなのかもな………」
王様、背中がすすけてますよ。
「お2人の情熱的な馴れ初めは、私も聞き及んでおります。劇にもなっているほどとか?」
「うん?うむ、………まぁ、なんだ、その話は置いておいて………」
あ、照れてる。王様ちょっと顔が赤いよ。
「トリシャの事だ」
「はい、すでにご存じかと思いますが一応説明いたします。
あれは普通にしている分にはなんの悪影響もありません。現に、トリシャは僕から離れてこの国の騎士団長として活動していても、特に目立った体調の変化はないでしょう?
ただ、僕に敵対しようとすれば苦痛が生じます。最悪の場合死に至るほどです。
本当はこんな状況であなたと会うつもりはなかったのですけど、僕もアムハムラとの繋がりを求めるあまり、トリシャの暴挙を止める手段がありませんでした………。申し訳ない」
「いや、うちの娘が迷惑をかけた。
貴殿が人間との友好を願っている事も聞いておる。トリシャを配下としてしまえば、それは人質をとるも同然。貴殿の意思ともそぐわぬ行動であったろう。改めてすまぬな」
こちらの危惧している事柄を言わずとも察してくれるあたり、やっぱりこの人も王様なんだな。
ちょっと、いや、かなり親バカなだけで。
「ご理解感謝します」
「うむ。まぁ、あれだ。娘を頼む。
こ、これはあくまでも配下としてであるからなっ!!別に嫁に出すとか、そんなんじゃないからなっ!?」
いや、なに言っちゃってんのこの王様?
「は、はぁ………」
よくわからないので曖昧に頷いておく。
そんな事よりいまはしなくてはならない話がある。この話は一旦ここで打ち切ろう。
「時にアムハムラ王、この国の情勢なのですが………」
「うん?情勢とな?
存外変わったこともないぞ。隣国はコションの死亡よりこっち、魔大陸侵攻には否定的だ。我が国も反対派を貫く。民のための国、民あっての国だからな」
「ああ、いえ、国際情勢でなく内政面から見たこの国の状況なのですが………」
「ふむ………。
確かに、この国の状況はあまり芳しくないな。
目立った産業もなく、輸出に適した特産もない。鉱物資源に乏しく、塩は作れてもそれは海のある他の国も同じ。魚介類の収穫は多いが、痛みやすい魚は貿易に向かん。干物や薫製も内地ではあまり買い手も付かんしな」
いや、ちょっと国内を見て回ればわかることだけど、僕にそんなペラペラと国の内情を話していいんだろうか?
「それで?貴殿はそれがなぜ気になるのだ?」
何でも無いかのようにそう問い返してくる王様。なんか、最初は敵意バリバリだったのに、今では友達んちの気のいいお父さんみたいな雰囲気だな。
「はい。我がダンジョンは緊急時は防衛のために機能します。しかし、普段は冒険者などに利用してもらい、マジックアイテムを持ち帰らせるつもりなのです。当然、そこには需要が生まれ、1つの産業となります。
このアムハムラにも商人が集まることでしょう」
「成る程。
確かに貴殿のダンジョンは潤い、我が国の国庫も入国税などで多少は潤うだろう。だがな、それは別に我が国に産業が増えるわけではない。
貴殿のダンジョンから真大陸に物が流れる間に立ち、そのおこぼれに預かっているにすぎんな。もし、貴殿のダンジョンに価値がなくなれば、我が国は再び困窮することとなる。
とは言え、リスクは少なく利率は大きい。よい話を聞かせてもらった」
いやいや、話しはこれからだよ、王様?
「ところが、このマジックアイテムが真大陸に浸透するには時間がかかりましょう。
利益をあげるには、真大陸は広大すぎて情報、物資、人材が集まるには時間がかかりすぎます。アドルヴエルドからこの国まで来るだけで2、3週間はゆうにかかるのですから。情報の浸透、マジックアイテムの普及、新規参入の商人が集うまで、僕の見立てでは数年はかかると思われます」
あとは通貨も普及させないといけないけど、その情報はいまは伏せておこう。あまり大っぴらにすれば、真大陸の他の国に邪魔されかねない。というより、天帝国に邪魔されると本当に厄介だ。
「ふむ。私から言わせれば、充分すぎるほど早い成果に見えるがな。まあ、いまは皮算用なのだがな」
「はい。ただ、より早く成果が出るに越したことはありません。
そこで、アムハムラ王国に協力していただきたいのです」
それを聞いたアムハムラ王の片眉がピクリと吊り上がる。
現状、魔王はやはり人間の敵と真大陸では思われている。コションがネチネチ攻撃を仕掛けたり、エレファンがド派手に暴れたり、アヴィ教が無茶苦茶言っているせいなので、何1つ僕は悪くないのだが、きっとここでアムハムラ王国が僕に与することは、良くは見られない事は確実だ。最悪の場合、魔大陸侵攻反対派の失墜もあり得る。だが、そんなヘマをやらかすほど、僕だってバカじゃない。いやごめん、ちょっと見栄張った。
だが、この案には自信がある。何より、この真大陸に画期的な産業が生まれ、僕という魔王が必要になる人が増える。まさにウインウインの一挙両得な作戦なのだ。
「協力と言っても、別に僕に便宜を図ってほしいとか、他の国も魔大陸侵攻に反対してくれるように頼んで欲しいとかではありません。
この国に、新たな産業を興して欲しいと思っているのです」
「産業、のぅ………」
やはり王様の目は疑わしげだ。だが、これはアムハムラ王国の国民にこそ大きな利益のある話だ。
僕はニヤリと悪い笑みを浮かべ、王に語りかける。越後屋、お主も悪よのぅ。
「アムハムラ王、流通産業を牛耳りませんか?」