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 トリシャのお願いっ!?

 『申し訳ありませんっ!!』


 トリシャからの久々の声は、なぜか謝罪から始まった。


 それもそのはず。話を聞いてみれば、どうやらアムハムラ王に僕の仲間になった事がバレたようなのだ。


 まぁ別に、バラしてもいいんだけどさ、


 世界中の奴隷解放宣言→娘が魔王の仲間に。


 っていう流れはかなりマズイんじゃないだろうか?

 あの時も、アムハムラ王はこっちをすごい形相で睨んでたし。もしかしたら大分前からもう知ってたのかな。


 『それで、その………、あの………』


 言いよどむトリシャに違和感を感じつつも、僕は黙って聞くことにした。この件に関する責任はトリシャにあるので、僕としてはトリシャに任せようと思っている。もし、トリシャがさらに不手際をして事態が悪化しても、それはそれ。トリシャは仲間なんだから、それくらいの尻拭いは魔王としてやぶさかではない。


 だが、続くトリシャの台詞に、僕の決心はあっさりと揺らいだ。




 『父に会ってください!!』




 ごめんなさい無理ですごめんなさい。




 あんな体脂肪率5%以下で体重が80kg超えてそうな巌のようなおっさんに、『娘さん配下にしちゃいました、テヘ☆』なんて言ったら、僕の未来は瞬殺か秒殺の2択しかない。


 トリシャ、頼むから自分で何とかしてくれ。


 そう言いたかったのだが、アムハムラ王とは出来る限り仲良くしておきたい。

 勿論利害関連で、元コションの支配地域と同じ理由もあるのだが、それ以上の理由もあるのだ。


 真大陸各国において、アムハムラ王国こそが魔大陸侵攻反対派の旗頭なのである。


 もし僕とアムハムラ王との関係がこじれ、アムハムラ王国が魔大陸侵攻強硬論でも唱え出した日には、僕のダンジョンには死山血河ができあがる。ここまで到達できるとは思わないが、それはつまり相手を全滅させるということだ。コションや他の魔族のように。


 勿論、そんな私情で政治的な物事を考えられなくなるような人物だとは思わないが、それでもやはり関係が良好な方がいいだろう。



 あぁ………。不安だ………。







 そんなわけで、僕はアムハムラ王国へ行くことになった。


 パイモンは再びお留守番だが、今回はウェパルも残していく事にする。というのも、今回はあまり派手に飛び回りたくはないのだ。

 アムハムラ王国は沿岸に町が連なる国である。当然、深い森林や高い山が近くにあるわけではなく、着陸の際に誰かに見られる危険がある。そこそこ長い旅路となり、野盗や野生の魔物の危険もあるので、ウェパルもお留守番である。


 護衛はフルフルのみ。


 なんだろう、この言い知れぬ不安は。こんな奴に僕の命を預けなければならないなんて。これなら護衛を元山岳兵の少年に任せた方が100万倍安心である。


 わかってる?ウェパルの時にあげた不安要素って、僕にも当てはまるんだよ?



 旅支度において、1つの問題が発生した。


 水問題である。


 と言っても、別に飲み水か不足したわけではない。鎖袋があれば、軍隊1つを養えるだけの水を、1人で持ち運ぶことも可能なのだ。


 問題はフルフルである。

 以前の様に数日外に出るくらいならまだしも、今回は最低でも1週間はダンジョンに戻れない。フルフルは水精霊なので、水がなければその内弱ってしまうのだ。とはいえ、水飲めばいいじゃねえか、という話なのだが、


 「嫌なの!お風呂がいいの!」


 これである。


 「旅先に都合良く風呂があるとは限らないし、野宿する可能性もある。毎日風呂に入るのは、諦めろ」


 「嫌なの!絶対嫌なの!!」


 「あのなぁ、僕だって風呂に入れないのは嫌だけど、今回は仕方ないんだよ。トリシャのためにも、ダンジョンのためにも、アムハムラ王国へは行かないといけないんだ」


 「だったらキアスだけで行ってくればいいの!そうすれば誰も困らないの!」


 埒が開かない。


 僕はフルフルを優しく諭すことを諦め、秘密兵器を投入することにした。


 パイモンである。


 まぁ、秘密でも何でもない、言わずと知れたフルフルの教育係である。


 パイモン先生、お願いしやす。


 「フルフル、あなたの勝手でキアス様を煩わせてはなりません。キアス様の護衛という栄誉、甘んじて受け入れなさい」


 うーん、やっぱりパイモンはどこか抜けた説教なんだよな。というか、そんな説得で納得するのはパイモンだけだ。他の仲間は誰一人として納得しないだろう。


 「うー、やだっ!……なの!」


 今一瞬『なの』忘れたよな?付けずに喋れんなら普通に喋れよ。その喋りかた変なんだから。


 「フルフル!!」


 「うー………」


 パイモンの強い口調に、フルフルが決まりの悪そうな顔でそっぽを向く。


 「そうなの!」


 かと思ったら、突然満面の笑みを浮かべて飛び上がった。


 「あの、指輪なの!ピカーてなる指輪で、毎日戻って来ればいいの!そうすればパイモンも寂しくないの!毎日一緒にお風呂に入るの!」


 いや、あれ1回こっきりのインスタントなマジックアイテムだから。別に、永続的に使用可能な物も造れなくはないが、もし人手に渡った際は、ダンジョン攻略が冗談にならないくらい捗ってしまうのだ。


 1回1回指輪を消費するのは、あまりよろしくない。指輪だってタダで造れるわけではない。神様のくれたダンジョン用のエネルギーも、そろそろ底をつくし、できれば節約したいのだ。………したいのだけど。




 「「………………」」




 フルフルだけでなく、パイモンまでもが期待の眼差しでこちらを見ていた。


 頼むよ、パイモン先生っ!!




 仕方ないので、夜は毎日ダンジョンに戻ってくることになった。魔力の無駄遣いだ。アンドレに小言を言われる………。




 つか、これを旅と言うのは間違ってないか?





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