こどくの迷宮っ!?
「早すぎだよー!トラップほとんど作動させてないじゃん。実験にならないよー!」
コションの部下のあまりの不甲斐なさに、僕は文句を言いながら不貞腐れる。
『仕方がありません。どの程度魔物が強くなったか、確認できただけでもあの程度の者達にしては上出来と言えるでしょう』
アンドレがあのバカ達をフォローするように言う。いや、こいつも結局バカにしてんだけどね。
「まぁ、確かに強くなってたなぁ、魔物達」
『はい。スライムやレッドキャップなどの成長は著しいものがありますね』
なぜ、本来は雑魚である筈の魔物が強くなっていたのか。その理由は単純明快。
自然淘汰である。
地下迷宮には、地上の比ではないほどの魔物のポップスポットを作った。意図的に魔力溜まりを作り出し、魔物を自然発生させる場所だ。そしてそこには、常に魔力が補充される。
するとどうなるか。
地下迷宮に魔物が溢れでるほど増えるのだ。
魔物だらけの迷宮を造ろうと思ったのだが、ここで思わぬ誤算が出た。悪い意味で。
魔物は生き物を襲う。しかし、魔物は魔物をも襲うのだ。本来は飽和してしまう量の魔物を生み出しても、その数は自然と落ち着きをみせる。自然界ではあり得ないほどの魔物の多い迷宮、という計画はそこで頓挫した。
せっかく増やしても、お互いに殺し合うせいで、数が増えないのだ。だが、ここでもさらに誤算が生じた。今度はいい意味で。
魔物のレベルが上がったのである。
本来弱者でしかない魔物が、戦闘を経て、辛勝を積み重ねることで、ダンジョン外ではあり得ぬほど強くなってしまったのだ。
とあるレッドキャップなんて、すでにレベル81だ。スライムにも70を越える者が出ている。まぁ、所詮はレッドキャップやスライムといった実力なので、本当の強者には敵わないのだが、今回の軍勢は思いの外弱かったようだ。
せめてトラップくらい作動させてから死んでくれよ、というのは贅沢な悩みなのだろうか。それとも残酷な要望なのだろうか。
僕の造ったポップスポットからは、そこまで強力な魔物は生み出されない。だが、中級くらいの強さを持つ魔物くらいなら出てくるので、そういった奴等も生き残ったものは強くなっている。
もし、ポップしたての中級の魔物と戦った後に、生き長らえた魔物達と戦えば、その実力の差は歴然である。油断でもしようものなら、まず間違いなく手酷いしっぺ返しを食うだろう。
地下迷宮。そこは本当の意味での弱肉強食の世界なのだ。
「にしたってなぁ、せっかくオリハルコンの鎧だって迷宮に用意したのに………」
パイモンにあげようとしたやつを、僕は地下迷宮に落とすことにした。
『あれは地下迷宮のボスの部屋にしか無いでしょう?撒き餌としては今の所効果が薄いですね』
「うーん、オリハルコンの小さな欠片でも落とす?」
『あまり広まりすぎれば、争いを生みますよ?』
「だよなぁ………」
ナイフ1本で戦争が起きるとまで言ってたからなぁ。僕としては、そういうのは勘弁だ。ただでさえ敵が多いのに、そういった利害関係でも狙われたくはない。
となると、オリハルコンは僕の趣味に使うことにしよう。具体的には、奇剣とかに。
ダンジョン経営に関しては、信頼の迷宮が初心者用。困惑の迷宮が中級者用。地下迷宮が上級者用と考えている。
長城迷宮に関しては、冒険者達はショートカットだ。あそこで足止めされて飽きられると色々困る。長城迷宮には宝箱無いしね。
帰還できる腕輪は造ったけど、ゲームみたいにセーブポイントも無いし、転移の指輪が無ければ攻略もあまり進まないかもな。
袋があるから長期間潜れるにしても、トラップや魔物に予期せぬダメージを受けて強制帰還させられれば、また信頼の迷宮から再スタートだし。
因みに、軍隊などが迷宮に入り込んだ際、僕の造ったマジックアイテムは迷宮内では強制的に機能停止する。僕を殺しに来たんだから当然だよね?
その間帰還の腕輪も使えないので、冒険者達は仕事ができない。攻めてきた人達はかなり不興を買うことだろう。まぁ、僕が知ったこっちゃないので、大いに嫌われてくれ。
つまり、僕のダンジョンは冒険者用と防衛用、2つの顔を持っているのだ。
冒険者にはホクホクで帰ってもらい、侵略者は生きて帰さない。
ああ、それと、天空迷宮には冒険者を踏み込ませるつもりはない。あそこには危険度の高いトラップも多く、即死されかねないからだ。即死した人間は流石に帰還の腕輪でも癒せないのだ。
それは、他の迷宮でもいえることなので、腕輪を売る時には注意を徹底させねばなるまい。解放した元奴隷の人達にやってもらうつもりではあるが、まだ人が来ないからなぁ。
はぁ………。早く人来ないかなぁ………。