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 錬金術と秘金属っ!?

 錬金術レベル100。




 正直、最初はこの錬金術の存在価値がわからなかった。神様はなぜ、僕にこの技術を授けたのだろうと。


 錬金術なんて言っても、両手を合わせてオートメイルを変形させたり、指パッチンで大爆発を起こすような、トンデモ技術ではない。


 いうなれば、調合技術の延長線にある技術のようなものなのだ。

 様々な霊薬の作り方や、この世界ではあまり知られていない、元素や原子を元にした物質についての考察、検証の結果の知識。それが錬金術である。


 ただ、錬金術レベル100とはいえ、賢者の石を創って不老不死を!とか、鉛から金を!なんて事は出来ない。地球でもこれらの逸話は、錬金術師がパトロンである貴族から金をせびるために言っていた誇大広告だったようだし、こっちでも出来ないのは当たり前か。そもそも、大量に金なんか造ったら金の市場価値が暴落してしまう。できても絶対にやらん。


 さて、ではなぜ神様がこの技術を僕に託したかである。


 ぶっちゃけ、高校で習うくらいの科学、化学知識があって、あとは調合技術があれば自分が困らないだけの物は作れる。

 実際、ポーションと名付けた怪我を治す薬や、エーテルと名付けた魔力回復薬なんかは既に作った。材料は、街へ行けば比較的安価で手に入るし、楽なものだった。

 勿論劇的な霊薬は、錬金術無しにはできないのだが、そちらは材料も貴重なため、まだ手をつけていない。


 だから、今のところ調合に関して錬金術はあまり必要とされていない。無用の長物と化している。


 だが僕は、この錬金術を授けてくれた神様には本当に感謝している。心の底から、感謝してるんだ。


 なぜなら―――







 「パイモン」


 「はい、キアス様」


 丁度通りかかったパイモンに、僕は声をかけた。本当に丁度良かった。今から呼びに行くところだったんだよ。


 「パイモン用の鎧を作ったから、ちょっと着てみて。動きづらいとか、その他要望があったら遠慮しないで言ってね。すぐ直すから」


 「え?わぁ!ありがとうございます!きれいな色ですねー」


 喜色満面で、僕の渡した金色の鎧をフィティングするパイモン。

 コーロンさんのは、どちらかと言うと部分鎧に近かったので、こういう胴体を覆う全身鎧を作ったのは初めてだからちょっとドキドキだ。プレートメイルに近いが、繋ぎ目は革ベルトなので着脱はしやすい。腹周りや肩周りにはリベットが打たれ、可動も問題はないはずだ。肘と肩周りには、チェインメイルが張ってあるので、動きが阻害されることもない。当然ながら、胴と腕の鎧は別々で、まず腕鎧を着けてから、胴鎧を着ける。じゃないと肩のチェインメイルが外に出っぱなしで、邪魔だからだ。


 両腕のチェインメイルから伸びるベルトを締め、胴鎧を着けるパイモン。腹周りの可動も問題無さそうに屈んでいる。


 「できました!」


 上半身に鎧を纏ったパイモンが、嬉しそうに報告する。


 「どうだい、調子は?」


 「そうですね。あまり動きは阻害されませんし、思ったより重くもないです」


 うんうん。プレートメイルは、それ自体は結構な重さだけど、着込むと重量が分散されてそれほど重く感じないんだ。


 「それにこの板金、とっても固いですね。金色だけど金じゃないし、鉄でもありません」


 「うん、まぁ強度は折り紙付きだよ。なんたってソレ―――」




 僕はパイモンのプレートメイルを指差し告げる。




 「オリハルコンだし」




 そう、錬金術の一番の恩恵、それは合金である。


 錬金術とは、読んで字のごとく金を練る技術なのだ。


 この世界では、金属を精錬し、不純物を取り除くことはしても、違う金属同士を1つにする技術は無い。有るのかもしれないが、秘伝とされているのか、一般的には知られていない。鉄を鋼にする技術すら、あまり広まっていないのだから徹底的に秘匿されているのだろう。


 「………え?」


 パイモンが呆気にとられたように固まって、鎧よりもぎこちなく、ギギギと音がしそうな動作でこちらを見てくる。


 「うん?また伝わらなかったかな?えーと、別名はオレイハルコスだったかな?ああ、ヒヒイロカネでもいいか」


 ヒヒイロカネの作り方は知識に無かったし、2つとも性質とか色とか、そっくりだしね。


 「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!!オリハルコンなんですかっ!?コレ!?」


 珍しくパイモンが狼狽してる。ワタワタと狼狽えながら、割れ物でも扱うようにそーっと鎧を外そうとしてる。いや、天空迷宮から落としたって傷一つ付かないよ?


 「なんて物を着せるんですかっ!?」


 さらに珍しい事に、パイモンが強い口調で詰め寄ってきた。


 「オリハルコンといえば伝説の金属なんですよっ!?

 小さなナイフを巡って魔王同士が骨肉の争いを繰り広げたこともあるほどの、とんでもない代物なんですよっ!?

 しかも、現存しているオリハルコン製の武具はその多くが人間の元に有り、魔族には本当に希少価値の高いものなんですからねっ!?

 第4魔王様、確か体の大半がオリハルコンでできた魔王様の命を狙う他の魔王様も後を絶たないほどなんですよ!?

 しかも第4魔王様も、自分の体から採れたオリハルコンを加工して強力な武器を作ろうとしたのに、そのあまりの強度から断念せざるを得なかったほどの代物なんですからね!?」


 長い長い。


 本当に珍しいパイモンの長台詞に、僕は圧倒されてしまっていた。

 ていうか、僕は今怒られてるのだろうか?誉められているのだろうか?


 「こんな………っ!こんな大層な品貰えませんよ!!一体どこからオリハルコンなんて手に入れてきたんですかっ!?」


 「いや、造ったんだよ。確かにいい金属で造り方も失伝しちゃってるみたいだけど、そこまで高価な材料が必要なわけでもない。だから大丈夫。大丈夫だから貰ってくれ」


 そう。このオリハルコン、比較的安価で造れるのだ。まぁ、合金に必要な金属の中には、地球ではレアメタルと呼ばれる物も混ざっているので、あくまで比較的には、という注釈も付くが。大量生産はできなくても、僕の仲間に持たせる分くらいは問題ない。何より、大元となる金属が本当に安価なのだ。


 「しかし………」


 尚も渋るパイモン。あまりワガママを言わないパイモンが、僕の要請を拒否するのは本当に珍しい。


 「本当に大丈夫だから。この後ちゃんと僕の分も造るし、充分な量のオリハルコンはあるから!」


 「あの、じゃあ…………」


 パイモンはおずおずと、恐縮しきった様子で告げた。




 「コーロンみたいに、軽い物にして貰っても、いいですか?」




 このプレートメイルはダンジョン行きに決定だな。






 「あの、それで、このオリハルコンが安く造れるって本当なんですか?」


 まだちょっとオドオドしているパイモンが、恐る恐るといった様子で聞いてくる。疑り深いなぁ。


 「本当だよ。まぁ、大量に買い込むと結構変な目で見られちゃうけどね」


 僕の言葉に、パイモンはわけもわからず首を傾げる。まぁこんな説明じゃわからないのも無理はないか。

 僕は、ポケットから四角い小さなソレを取り出す。




 「オリハルコンの原料は、この黄鉄鉱なんだ」







 黄鉄鉱。


 鉱山などでありふれた、利用価値の極めて低い鉱石だ。せいぜい硫酸を作るくらいにしか使えないが、地球では硫酸は石油から作るので本当にただのクズ石扱いの鉱石なのだ。この世界でも同じくあまり価値がない。愚者の黄金と呼ばれ、色が金に似ている為に詐欺に使われる事もままある。それ故黄鉄鉱を買うのは詐欺師か錬金術師くらいしかいなく、大量に買うと詐欺師を見るような目で見られのだ。


 案外、鉛から黄金を造るという逸話は、黄鉄鉱からオリハルコンを造るっていう話が時代を経て変化したものなのかもしれないな。




 愚者の黄金が金より遥かに価値のある物に化けるのだから、世の中というのはわからないものだ。





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