世界の敵っ!?
はてさてどうしたものか………。
あの日、真大陸中にケンカを売ったわけであるが、僕としては人間達とは仲良くしたいわけで。
しかし、奴隷がいる現状で、それを見て見ぬふりをしながら笑い合ってる自分を想像すると、どうにもお寒いわけで。
ならばと奴隷解放をとなえてみれば、人間からは嫌われ、その達成は困難を極めるわけで………。
このジレンマというか、マッチポンプというか。
まず間違いなく、現状で真大陸における僕の印象は良くない。これをどう是正していくかが、今後の課題と言えよう。
「なぁ、キアス………?」
「うん?なぁに、コーロンさん?」
「アタシって、追放されたんだよな?」
「そうだねー。僕も苦渋の決断だったよ」
「なのに何で一緒に風呂入って、こんなにマッタリしてやがんだッ!?」
場所は大浴場。
幻想的に声が反響し、まるで神秘を隠す霧のように湯気の舞う、僕のオアシスだ。
迷宮荘からコーロンさんを拉致り、裸に剥いて風呂に放り込んで、今は絶賛だっこでお風呂中である。
「だってさー、よく考えたら、僕コーロンさんとお風呂入ってないんだもん。やっぱさー、こーいうのは、お約束っていうか、やっとかないとさー」
「お前わかってんの!?アタシはお前を殺そうとしたんだぞ!?何で全裸でアタシに背中とか預けられんの!?」
「そこにおっぱいがあるからさ!」
キラーン。
「アホかぁぁぁあああ!!」
コーロンさんの絶叫が、大浴場に響き渡る。エコーもかかって耳がワンワンする。
「まぁまぁ、いいじゃないか減るもんじゃなし」
「違う!アタシが怒っているのはそこじゃねぇ!!」
「コーロン、お風呂では静かにしなさい」
「パイモン!お前は何かこのアホに言うことはねーのかよ!?」
「キアス様をアホと言ったあなたには一言あります」
「仕事しろぉぉぉお!!」
今日のコーロンさんは元気だなぁ。慣れない街の管理なんてやらせてるから、ストレスが溜まってるのかもしれない。福利厚生は雇い主の義務。今日はたっぷりリラックスしていってもらおう。
「アンドレ!?アンタは何か無いのか!?」
『これに関しては、私が何を言っても聞きませんからね。何せ、パイモンが仲間になる前から言ってましたから』
「………………」
あれ?何故かアンドレとコーロンさんから失望の視線を感じる。アンドレなんて目がないのに。
「フルフルは―――ダメだ戦力にならん!」
僕の抱き抱えたフルフルに視線を落とし、しかしすぐに視線を逸らすコーロンさん。
「ウェパルは!?ウェパルはどこだ!?」
『もう上がりました』
「くっ………!万策尽きて四面楚歌!」
『………というか、あなたも嫌ならその唐変木をはね飛ばしてでも、上がればいいじゃないですか。なぜ律儀にだっこしたまま抗議しているのですか?』
「えっ!?あ、いや、これは………」
しどろもどろで、あたふたするコーロンさんに、アンドレの冷たい言葉が投げ掛けられる。
『結局あなたもですか、コーロン』
うぅ!湯船の中で湯冷めしそうだ。
「ちがっ、ちげーよ!!アタシはあれだ、こ、子供とか乱暴に扱えねーんだよ!!べ、別に他意あっての事じゃ―――」
『もう黙ってください。よくわかりました。よくわかりましたから、これ以上傷口を広げるのはおよしなさい。大丈夫。そこの野暮天は、何も気付いてませんから』
「だからそんなんじゃねーしっ!!」
いやー、コーロンさんも元気になってよかったよかった。おかげでボン、キュ、ボンを堪能できた。
銀糸の髪を、タオルでくるみ、アップのコーロンさんという新鮮な姿も見れたし、最早言うことはない。
贅沢を言うなら、そのナイスバディを目でも堪能したかったのだが、それはコーロンさんがやたら恥ずかしがって出来なかった。まぁ、恥じらいもまた良し。何より、真っ赤な顔のコーロンさんマジキュート。
「………わざとやってんじゃねぇのか、コレ?」
『その可能性も無きにしも非ずですが、いかんせん本当にバカですからねぇ………』
「そぉいやぁよ、フルフルって一体何なんだ?」
なんだかアンドレと話し合っていたコーロンさんが、いきなり僕に話を向けた。
「いや、フルフルについて、アタシって何も知らねーんだよな。
あの時アタシ、フルフルの胸に剣刺しただろ。なのにフルフルはピンピンしてっし、キアスもウェパルもフルフルの変装だし、なんかわけわかんねーんだよな」
ああ、そういえば何も説明してなかったな。確かに、いつも抜けてるフルフルにしては、今回は大活躍だった。まぁ、その実、馬車でアドルヴェルドに行くのを本気で嫌がったから、ズヴェーリに残してきた、という理由もあったにはあったんだけど。
「フルフルには、物理攻撃が全く効かないんだよ。それと、魔法も水魔法は効かないし、火魔法にも耐性がある。
本来、綺麗な水にしか棲まない精霊だから、あまり水の良くない場所にいると弱体化しちゃうらしいけど、今はこのお風呂に住み着いてるから、精霊魔法も使えるくらいには元気だね」
「このお風呂は最高なの!キッチンのお水も最高だから、フルフルはずっとここに住むの!」
僕の腕の中で、フルフルが、ぷるぷると喋る。ホント、お前もうずっとこの姿でいろよ。超かわいいから。
僕がスライム形態のフルフルに癒されていると、コーロンさんが震える声で問いかけてきた。
「………せ、精霊………なのか………?」
「え、あ、うん」
そういえばそれも言ってなかったっけか。まぁ、フルフルのいつものアホな感じじゃ、精霊と聞いて驚くのも当たり前か。
「フルフルはアンダインなんだよ」
「ア、アンダイン………?」
おや、伝わらない?オーク達は普通に知ってたのに。
「あ、別名はオンディーヌ。でも、フルフルのくせに、オンディーヌなんて大層な名前は生意気だよね」
「むぅー!バカにされたの!キアスは酷い事言ったの!」
僕とフルフルがじゃれていると、コーロンさんが突然叫びだした。
「最高位の水精霊じゃねーかッ!!」
いや、お風呂の精霊だよ?