勇者と愉快な仲間たち
俺は片手に愛用の剣を持ち、もう片方にマン・ゴーシュを構えた。
カシャン。
と変形するマン・ゴーシュ。
くぅ〜、カッコいい!
目の前に迫ったサーベルタイガーの牙を、マン・ゴーシュで受け止める。
うひょーっ!!
マジかよ!?傷一つねぇぜ!?
キアスから買ったこの奇剣は、本当に最高の一品だ。
元々左手に盾を持って戦っていた俺の戦闘スタイルにもピッタリだし。
俺はサーベルタイガーの首に、愛剣を振り降ろすと、背後に迫ったヒュドラの脳天にも、マン・ゴーシュを突き刺した。
いやー、1度に2体の相手をできるって、便利な。
頭の1つをやられたヒュドラが、怒り狂って俺目掛けて襲ってくるが、俺の意識はスケルトンに移っていた。背後で轟音が鳴り響き、アニーの風魔法がヒュドラを切り裂いた事を、俺は見なくても理解する。
スケルトンを一撃でほふれば、残っているのは大型だけだ。
サイクロプス。
ヘカトンケイル。
ビッグスライム。
俺は一番楽そうなビッグスライムを。
と思ったら、ビッグスライムが粉々に吹き飛び、レイラが拳を振り抜いたポーズのままこちらを見ていた。
おかげで俺はスライムの残骸まみれだよ!
「グォォォオン!」
何やら苦痛を訴えるような声の主を探せば、ヘカトンケイルが、その沢山ある手足の自由を奪われ地に伏しながら、アルトリアに鞭打たれていた。
ありゃ痛そうだ。アルトリアも、回復魔法が得意なんだから、後ろに下がってればいいのに。
あ、アニーが魔法でとどめを刺した。
しょうがないので、残ったサイクロプスの相手をしようとそちらを見れば、ミレがピクリとも動かないサイクロプスの傍らで、2本の短剣の血振りをしていた。全く気付かなかった。本当に静かな奴だ。
気付けば、魔物の群れは全滅していた。
「しっかし!この程度で1人金貨5枚はボロいなぁ!」
レイラがサーベルタイガーの肉をかじりながら、上機嫌に言う。
「………………僕らだから、この程度で済んだ。………………この国の騎士団なら、結構ヤバイ…………」
ミレが抑揚無く喋ると、それにアニーも同調する。
「そうだ。それに、我々にはシュタールという切り札があった。敵を過小評価するな。慢心は身を滅ぼすぞ?」
アルトリアは、終始「うふふふふ」と笑っているだけで、会話に加わろうとはしない。
「チッ。わぁーったよ!わるーございました!」
つか、俺が居なくてもお前等でなんとかなったろ。
「そーいやーよぉ、シュタールの新しい剣、超カッケーな!ちょっと見せてくれよ?」
お、この剣の良さがわかるとは、さすがレイラだ。だから、魔物の回収作業を手伝え!いや、金がねー。俺のモンだ!やっぱ来んな!
「うひゃー!マジいい剣だぜ!これならアタシも欲しいくらいだ!」
「やらん!絶対やらん!金積まれてもやらん!」
「何だよもー、ケチケチしてんじゃねーぞ、勇者の癖に!」
嫌だね!これはキアスに無理言って、なんとか売ってもらったんだ!………アニーが。
「レイラ、この剣は本当に高いぞ。白金貨5枚もする」
「げぇ!!マジかよ!?」
「ああ、シュタールはこれを買うために、家まで売ろうとしてたからな。私が見つけなければ、本当に売ってたかもしれん」
「あらあら、それでこの前は楽しそうにお仕置きしてたんですねぇ。私もその場に居合わせてたら、参加できてたのでしょうか?」
アルトリアが嬉々として会話に加わる。
いや、恐ぇよ。何でこのタイミングで話に入ってくるんだよ………。
「………でも、それだけの価値はある剣………。………僕も欲しい………」
「オイオイ、アタシが先に唾付けたんだぜ?」
「………レイラは短剣の扱いに慣れてない………。………僕がもらう………」
いや、だからやらねえってっ!何で2人とも貰うこと前提に話進めてんだよっ!?
「そういえばあのキアスという商人、他にもシュタールに剣を売ろうとしてたな。あれも中々の一品だった」
アニーがそう言うと、他の3人の目が光った。
「アニー!手甲とか無かったか!?アタシの打撃にも使えそうなヤツ!!」
「………………ナイフ………。………取り回しがし易くて、よく斬れて、刃こぼれしない………。………グリップが小さくて、僕でも持てそうなヤツ………………」
「鞭はぁ、無いですよねぇ?武器じゃありませんものねぇ?これは耐久力が無くて、すぐ壊れてしまうんですもの、消耗品ですわ」
急に喋りだした3人に、アニーもタジタジだ。ミレまで珍しく口数が多い。
「い、いや、私も彼に関しての詳しい情報は知らないんだ。
ただの行商人にしては羽振りも良さそうだったし、使用人にも上等なお揃いの服を着せていたから目立つと思うのだが、その後話は聞かない。
どうやら遠方より食料の買い付けに来たようだったし、あれからアドルヴェルドでも見かけなかったな………。
マジックアイテムの袋を使う行商人なら、噂くらい聞いても良さそうなものなのだが………」
そういや、俺も知らねーな。聞き忘れた。
「くっそー!アタシも新しい武器欲しいぞ!」
「………僕も………」
「せめて商品を見てみたいですねぇ………」
「………」
騒ぐ3人を他所に、アニーがこめかみを押さえて苦悩していた。確かに悩みどころだろう。
あいつの扱う商品は良い品なんだけど、たっけーんだよなぁ。あの日も袋と剣、合わせて白金貨15枚もせしめてきやがったし。まぁ、どれも俺が無理矢理買ったんだけど。つーか、白金貨15枚もあったら天帝国の首都に、でっけー商会構えることもできるだろうに。キアスなんて商人の話はとんと聞かねーな。
謎の多い奴だ。
「シュタール、その商人の事、なんか知らねーのかよ?」
「いや、知らねー。もっと話を聞こうとしたんだけど、アニーに邪魔されちまってな」
「あのままお前にあの商人の相手をさせていたら、我々は今頃スラムをさまよう羽目になっていたぞ」
「さすがにそれは………」
アルトリアが苦笑するが、それにアニーがさらに畳み掛ける。
「いや、あの商人は本当に油断ならんのだ。話がうまく、すんなりと懐に入り込む術を身に付けている。私もついつい喋りすぎて、まだ一般的には極秘扱いの情報まで喋ってしまっていた。不覚だ………」
「スゲーな。守銭奴で男嫌いなアニーが、男の商人にそこまで気を許すってのは」
あ、レイラ………。じゃあな………。お前の事は忘れないぜ………。
「誰が守銭奴だと?」
底冷えするような声に、レイラもようやく逆鱗に触れたことを悟ったようだ。もう手遅れだが。
「アニーの事はともかく、確かに興味がありますね」
「………ん」
「だよなー。せめてどこを拠点にしてるかだけでも、聞いときゃあ良かったぜ」
そう言って俺は愛剣を見る。これも随分と使い込んでるからな。折れる前に新調して、大事に残しておきてーんだよな。
「よし!北に行こう!」
「唐突ですねぇ。何か心当たりでも?」
「いや、なんとなく!」
アルトリアが苦笑しているが、ミレは真顔で追随する。
「………こういう時の君の勘はよく当たる………。………この後の予定もないし、僕は良いと思う………」
「よし、じゃあ決定な!」
そう言って、俺は4人を見る。誰も異存はないようだ。
しかし、
アニー、レイラ、アルトリア、ミレ。
男の仲間、欲しいなぁ。