最大限の嫌がらせっ!?
1フロア10部屋の20階建て。そんな巨大なビルディングが、50棟。
実に壮観な光景だ。
「既に、奴隷狩りで不当に奴隷にされた人達は解放し、今は『魔王の血涙』にて、僕の庇護下にあります。ああ、『魔王の血涙』の現状については、アムハムラ王が知っていますので、後程ご確認ください」
王様達が、一斉にアムハムラ王を見る。
アムハムラ王は、あまりトリシャには似ていない、筋骨隆々のおじさんだった。トリシャに聞いた話では、30年前から現役らしいので、相当な年齢だと思われるのだが、外見からは衰えなどは一切感じない。
タイマンならコションにすら勝てそうな偉丈夫だ。
「確かに聞いている。その者達は、今きちんと生活しているのだな?」
「はい。食料などはこちらから提供し、住居もあります。ほとんどがここに移住する予定です」
「待て待て待て。ここはズヴェーリ帝国なのだろう!?何を勝手に!」
駱駝の皇帝が、慌てて口を挟むが、そもそもこんな強行手段に出たのは、そちらのせいなのだから許容してもらおう。
「僕は魔王ですので。勝手な振る舞いも、多少の無茶苦茶も、自由奔放も、魔王ならば仕方がないと思いませんか?」
「いや、しかし、我が国には………」
「自治はそちらの貴族にお任せします。どうやら、奴隷狩りの被害にひどく心を痛めている方々がいたようで、既に援助も了承していただきました。数日中に陛下にもご報告があるかと」
まぁ、第0騎士団のパトロンなんだけどね。
「この国は奴隷狩りを憎み、奴隷を持たぬ国と聞き及んでいます。
まさか、皇帝陛下が解放された奴隷達を無下になど扱わないと、僕は信じております」
ぬけぬけとそんな事を言ってみる。
今回の事で、僕のしたことは、すぐにでも帝国内に伝わるだろう。なにせ、街が一個出来上がったのだ。とても隠し通せるものではない。
国人を脅し金を出させ、勝手に奴隷を解放し、国庫を圧迫した魔王。
まぁ、第一印象としては最悪だな。できれば穏便に事を進めたかったんだけどなー。
因みに、彼らを養う食料は、アドルヴェルド産である。今ごろあの国は、なぜ食料の高騰がおさまらないのか、首を捻っていることだろう。
「これからも僕は、奴隷達を解放します。
ただ、奴隷本人に拒否されれば、僕はその人を解放する事はできません。もし、僕に労働力を根こそぎ奪われたくないのであれば、少しでも奴隷達の環境改善に努めることをおすすめします。
以上です」
これは、僕の宣戦布告と言っていい。
何せ、奴隷を奪われて困る国は、真大陸にはごまんとある。そんな国々から、僕は悪意を一身に受けることだろう。もしかしたら、下火になった魔大陸侵攻も再燃するかもしれない。
それでも、僕は奴隷を解放する。コーロンさんが、あれだけ必死に奴隷解放を求めていたのは、演技ではないと、僕は思ったから。
「1つ、よいか?」
さっきと全く同じ台詞を、天帝が口にする。
「貴殿の目的はわかった。だが、いかんせんその目的の意図が不明である。
なぜ魔王である貴殿が、人間の奴隷を解放する?貴殿の真意はなんだ?」
鋭い視線だ。まるでこちらの内心すら、見透かされているような錯覚を覚える。
「真意、ですか………」
僕はとりあえず、考えてみる。僕の真意について。
………………………………………………………………………………。
あれ?
ああ、そうか。これって僕のワガママが発端だったんだ。真意も何も、ただ気分が悪かったからってだけで、もっと言えば、何も考えず女の子と風呂に入ってイチャイチャするためで。
………これ言って、信じてくれるだろうか?
「………………」
無理だな!
天帝さん、超真剣なんだもん。ここで僕がふざけた事言ったら、この人まで敵に回しちゃいそうだよ。天帝国に睨まれたら、本当に魔大陸侵攻が起こる。
えーと、他の理由は………。
「僕が、初めて召喚した人間は、死にかけていました。彼女は奴隷の子供で、怪我をして食事を与えてもらえなかったそうです。
次に呼び出した人は、奴隷狩りにあい、人質をとられ、無理矢理奴隷にされたそうです。
だからまぁ、そういう人が減ればいいかなぁと………」
僕の言葉に、天帝は無言で何か考えていたようだ。
別に嘘じゃないよ?それだけが理由じゃないってだけで。
「成る程の。よくわかった。
貴殿は危険な魔王ではないようだ。だが―――」
この時の天帝の台詞の意味を、この時の僕には理解することができなかった。
「―――危ない魔王であるな」