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 仲間と居場所っ!?

 ようやく少し落ち着いたグレモリーが、訥々と語ってくれた。


 自分の生い立ちや、これまで何をしてきたか。なぜ、僕を殺そうとしたか。




 彼女は最初は、普通の騎士だったそうだ。

 ただ、突出した能力もなく、目立ったスキルもなかった彼女は、騎士団の中でも中の下といった存在だった。そんな折り、地方領主へ届ける、貨物の護衛を任されたそうだ。

 その領主が、たまたま第0騎士団のパトロンの1人だった。


 彼女は内々に誘いを受け、最初は奴隷にされる同胞を助ける、という思想に賛同し、騎士団を事故死という扱いで辞し、第0騎士団に入った。


 この時、彼女は、名を失ったのかもしれない。


 どうやら第0騎士団は、騎士団と名乗っていても、国営ではなく民営の組織のようだ。ただ、国政に関わる貴族が運営する以上、完全な民営とはいい難いが。


 第0騎士団の本来の行動理念は、騎士団とそう変わらない。ただ、あくまで正規の手続きの必要な騎士団は、そのフットワークが悪く、更に、奴隷狩り対策としては、帝都に常駐する騎士団では後手後手になってしまうのが常だった。そこで、奴隷狩り対策専門の騎士団として、第0騎士団が設立された。町どころか、国にすら縛られない組織として。


 だが、第0騎士団は、その理念とは裏腹に、次第に諜報機関としての意味合いを強めていってしまった。

 仕方の無い事だったと彼女は言う。


 彼女達が追うのは、犯罪組織であり、その本拠地があるのは他国だったのだから。情報に精通しなければ探し出せない。しかし、得た情報は、本来の任務に関係ないものも国家運営を有利にする。

 行動が過激になっていくのに、そう時間はかからなかったそうだ。


 彼女は次第に、思想や感情を捨て、ただ冷徹に任務をこなす道具になっていった。


 命令の意味を考えるのをやめた。


 何故なら、その内容に、同胞を守るという意味を見出だせなくなっていたから。


 躊躇する事をやめた。


 何故なら、初めて殺した相手は、自分達を調べる、自国の貴族だったから。


 心を持つのをやめた。

 罪悪感と自己嫌悪に押し潰されそうになっていたから。


 そんな時、気付けばコーロンという存在が、自分の中で出来上がってしまっていた。


 まるで、自分が捨てたものを全部持っているかのように、振る舞うコーロンに、彼女の精神の均衡は、なんとか保たれていたようだ。


 しかし既に、彼女は命令をうければ、機械のようにそれを遂行する、奴隷になっていた。




 時に辛そうに言うグレモリーに、僕もウェパルも、もういいと言っても、彼女は話し続けた。


 「私が、今、これをあなたに伝えたのは、ある忠告をするためです」


 グレモリーは、真剣な眼差しで、僕をまっすぐ見つめる。


 「私を傍に置いておけば、また同じ事をするかもしれません。今度は、本当に取り返しのつかない事態になるかもしれません。


 私は今でも、命令を下されれば、それを拒否する事ができません。躊躇もなく了承し、躊躇もなくそれを遂行します。


 私は、そういう道具として、私を作りましたから。


 ですからどうか、私を放逐してください」


 鎮痛な面持ちで、言うグレモリーは、誰より自分自身が彼女を信用していないのだと告げる。


 「ダメ!」


 それに真っ先に反対の意を述べたのは、ウェパルだ。


 「ダメ!コーロンさん、ううん、グレモリーさん!一緒にいよう?どこかに行っちゃうなんて、嫌だよ!」


 飛びかかるようにすがり付き、叫ぶように言うウェパルに、グレモリーは首を振って答える。


 「ウェパル。私はキアスを殺そうとしたのですよ?とても赦される罪ではありません。例え、赦されても、一緒にいるべきではないのです」


 「でも!」


 尚も言い募ろうとしたウェパルを押さえたのは、パイモンだった。


 「私は、彼女の意見に賛成です。残念ながら、今あなたをキアス様の近くに置いておくことは、どちらにとっても危険でしかありません」


 確かに。僕に、明確な敵意と殺意を向けただけで、僕に一切の危害は無くても、彼女は一週間も寝込んだのだ。


 再び彼女に、誰かが近づき、同じ事を繰り返さないとも限らない。その時、彼女が確実に助かる術など、僕には思い付かない。


 「グレモリー、私は別に、あなたが嫌いだから遠ざけたいわけではありません。キアス様の身を守るため、そして、あなたの身を守るためです。


 ………すみません」


 パイモンが、すまなそうに頭を下げる。まあ、この状況であんな事を言えば、嫌われる可能性もあるし、人に嫌われることを恐れるパイモンには、辛い台詞だったのかもな。


 「気にしないでください。あなたの意見は正しい」


 「ありがとうございます。グレモリー」


 パイモンが頭を下げつつ、悲しそうな顔でグレモリーを見る。


 『私も、グレモリーとマスターは距離をおくべきだと思います』


 アンドレが、珍しく意見を述べる。


 『グレモリーの状態が不安定な以上、マスターの安全が保証できません。マスターは既に、多くの者達を養う存在です。軽々しくその身を危険に晒す事は控えるべきです。


 ただ、放逐という事には反対です。このまま彼女達を1人にするのは、症状の悪化を招きかねません。


 その辺りの采配は、マスターに一任しましょう。それくらいの甲斐性は、見せてくれるんですよね?』


 全く。相変わらず手厳しい奴だ。


 だが、甲斐性無しなどと言われては男の名折れ。


 やってやろうじゃないか!!




 「グレモリー、君を追放する」




 僕がそう言うと、ウェパルは途端に悲しそうな表情を浮かべ、パイモンも目を伏せた。


 だが、ただ追放しただけじゃ、本当の甲斐性無し。彼女には、彼女にしかできない事をやってもらおう。


 「じゃあ、君の新しい居場所に案内しようか」







 「これは………っ!!」


 グレモリーが目を見張る先には、巨大な建物が林立していた。


 「一棟200部屋。上下水道風呂トイレ、キッチンコンロ冷蔵庫完備の、君の新居だよ」


 場所はズヴェーリ帝国帝都、ゴーロト・カローナに程近い平原の一画、そこには今、僕の造った新しい集落があった。


 「全部で50棟。合わせて10000世帯を許容できる」


 そう、僕がこの地に造ったのは、集合住宅である。


 ちょっと魔力の維持が大変だけど、まぁ、ここで大勢の人間が生活していれば、微細な有機物には事欠かない。維持だけなら半分くらいはそれで賄えると思う。………多分。


 「その名も迷宮荘!

 近くにある祭壇みたいな場所に転移陣があって、城壁都市と繋がってるから、物流もあるし、開墾のしやすい平原だし、まぁ、数万人が住んでも大丈夫でしょ。


 この街のとりまとめ役を、君に任せたい。まぁ、僕はダンジョンの方で忙しいし、パイモンは容姿が、フルフルとウェパルは言うまでもなく、ここの管理なんてできないからな。君が適任なんだ。やってくれるかい?」


 「ちょっ、ちょっと待ってください!これはどういうことなのですか!?」


 お、初めて平坦じゃないグレモリーの声を聞いたな。ああ、あの泣いてた時のはカウントしてないよ。そこはホラ、空気を読んでさ。まぁ、真に空気を読めてないのは、この独白だけど。


 「どういう事も何も、また忘れたのか?」


 僕はそう言うと、イヤリングを手に取り、指示を出した。


 「みんなお願ぁい」







 途端に空には紙吹雪が舞い、ほぼ全てのベランダからは、多種多様な人種の人達が、皆一様に笑顔で手を振っていた。




 「奴隷狩りにあった人達の街だよ。とある貴族達が、善意で、善意で!出資してくれてね。この街の維持は彼らがやってくれる事になってるんだ。

 全く。コーロンさんが言い出したんだよ、コレ?」




 その時の彼女の様子については、今度こそ空気を読んで何も言わない。


 これ以上語るべき事もない。数人の子供達に駆け寄られた彼女を残し、僕はダンジョンに戻った。




 ソロモンの72柱の悪魔、その序列56番。ウェパルと並び、数少ない女性悪魔であり、過去、現在、未来を知り、




 ありとあらゆる人に愛を授ける悪魔。





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