はじめての召喚っ!?
【ゴブリン】123匹
【オーク】11匹
【レッドキャップ】4匹
【オーガ】1匹
ダンジョンに取り込まれた生物が、スマホの画面に表示されている。
かなり広範囲を取り込んだはずなのに、これだけしか居ないというのは少し不思議だった。
まぁ寒いからかな。
「海岸から水を引こう。早く風呂に入りたいし」
『きちんと上下水道を整備しないと、大惨事になりますよ?』
フン。抜かりはないわ。取り込んだ水を、地下に通路を造ってそこに流し、使った水は別の通路に流す。使う分はきちんと水道管(という名目の細い通路)に通し、使わない分は反対の海に排出。下水は、反対の海にそのまま垂れ流すってのは良くないよな。まぁ肥溜めの要領でどこかに溜めておくか。
「よし。できた」
『ちゃんと確認して、それで良ければセーブしてください』
「?ああ」
なぜかスマホに確認された。今までそんな事、いちいち言わなかったのにな。
「セーブっと」
ふっふっふ。これでようやく風呂が使える。
「では早速っ♪」
僕は喜び勇んで、踵を返す。
そういえば、まだキッチンを作ってなかったな。水道も出来たし、ついでに造るか。
観音開きの扉を勢い良く開け放ち、すぐ側の風呂への扉へ向かう。
ぐっふっふっふ。
これから仲間を増やしたら、一緒にこの扉をくぐり、一緒の湯船に浸かるのか。
ようやく大浴場に辿り着いた。待ち遠しい!
「さて、ちゃんと出るかな?」
僕は緊張しながら湯船の元栓に手をかける。口を開けたライオンが、こちらを睨んでいる。
和風にしたかったけど、まぁ、石造りだったらこっちだよな。
「ふぅ………。………よしっ!」
一度大きく息を吐き出し、気合いを入れる。
「いくぞ!!」
誰にともなく声を出し、一気に元栓を開け放った。
……………………………………………………………………………………あれ?
何も起こらない。
ライオンの顔が、呆れて欠伸をしているように見える。なんか恥ずかしい。
しかし一体どうしたんだ?スマホを確認すれば、ちゃんと水道は出来上がっている。試しにもう一度セーブする。
…………………何も起こらない。
「一体どうなってるんだ?」
僕はわけも分からずスマホに問いかけた。スマホからの答えは簡潔。
『直線距離で約2500kmも離れているのですから、まだこちらに水が届くわけないじゃないですか』
「………………」
恥ずかしいぃ!!さっきの1.5倍は恥ずかしいぃっ!!時速100kmで丸1日かかるって、さっき自分で言ってたのに!水道さえ整備されていれば、もう水が使えると思っていた。これが現代っ子か………。
僕はそそくさと風呂の元栓を閉め、お湯の入っていない湯船の隅で体育座り。
『時間ができたのであれば、ダンジョン内の生き物を確認した方がいいと思います。こちらに敵対的な者も居るかもしれません』
いや、僕もうそれどころじゃないんだけど。穴があったら入りたい。あ、落とし穴なら簡単に造れるな。造るか。そして落ちよう。
『マスター、現実逃避は後にしてください。貴方の命がかかっているんですよ?』
はい、ごめんなさい。
「えっと………、どうやればいいんだ?それもスマホで見るのか?」
スマホに怒られて、素直に従ってる魔王。客観的に見て、とても情けない。
『いえ、マスターはダンジョンマスターですので、やろうと思えばダンジョン内の全ての生き物の動向を知ることが出来ます』
「はぁ?マジで?」
『マジです』
それはちょっと、凄いことだな。つまり、この場にいながら遠く離れたものを見れるってことっ!?うわっ!超能力っぽいっ!
「ていうか、それなら不意打ちとか闇討ちとか、あり得なくない?」
全ての生き物の動きを知れるなら、この迷宮内では僕、無敵じゃない?逆にこっちが不意打ちし放題だよ。
しかし、スマホはそれを否定する。
『いいえ。確かに、マスターはこの迷宮内にいる全ての生き物の動向を探れます。しかし、それはあくまで意識すれば、という事です。この迷宮内でも、油断すれば不意を打たれることは充分あり得ます。現に今も、マスターは侵入者の動向を認識できていないでしょう?
それに、マスターは複数の情報を同時に処理することが出来ますか?』
「あ、そうか」
『はい。片方を注視している時にもう片方に意識を割けない以上、注意はしておく必要があります』
いくら、魔王だなんだと言われていても、僕の中身は所詮ただ普通の人間だ。マルチタスクなんてスキルは、パソコンもないこの世界で一個人に求めるのは、あまりに酷だ。
いや、確認したわけじゃないから、あるかもしれないけどさ、パソコン。
「じゃあ、えっと………、1匹だけいるオーガの動向でも探ろうかな。まずは少ないところから」
『それが良いでしょう。オーガは、先程検索された生き物の中では一番強力な個体です。こちらに敵意を持っているようなら、早急に始末した方が良いです』
おいおい、物騒だな。
「えっと、どうすりゃいいんだろうな?」
『ただ念じるだけで構いません。もし難しいようなら、声を出すとやり易いと思います』
簡単だな。そんな事で離れたオーガを見ることができるのだろうか。
とりあえずやってみる。
「確認、オーガ」
僕がそう発声した途端、今見えている石で出来た大浴場の景色とは別に、赤茶けた大地が見えた。どちらもこの目で見ているような、とても鮮明な映像だ。
「おぉ!できた!」
僕の見ている赤茶けた大地には、1匹の鬼が佇んでいた。
黒に近い灰色の肌に、漆黒の1本の角を額に生やし、簡素な衣服をまとっている。鎧などは身に付けていないが、隆々とせり上がった筋肉は、どう見ても天然の鎧だ。なんか、結構かっこいい。
「なんか、凄く周囲を警戒してるぞ?」
オーガは忙しなく辺りを見回し、右手には木製のこん棒まで携えている。
『それはそうでしょう。いきなりダンジョンに取り込まれたのですから』
「えっ!?ダンジョンに取り込まれたのって、そんなに簡単に分かるものなの!?」
『当たり前じゃないですか。いきなり、極寒の地から快適な室内に入ったような気温の変化ですよ?
マスターくらいのアホでもなければ、どんな生物でも気づきます』
「おい、とうとう直接罵倒してきやがったな、この野郎」
どんどん生意気になっていくスマホを意識の外に追いやり、オーガに注目する。
「まずいな………、今はただ警戒されてるだけだけど、ファーストコンタクトを間違えば敵対されそうだ」
『でしたら排除してしまったらいかがでしょう?敵対する可能性があるなら、できるだけ早めに対処するべきです』
うーん………、でも出来れば、そういうことはしたくないんだよな。悪目立ちしちゃいそうだし。僕はもうちょっと、ひっそりと生きていきたい。
『対話をお望みなら、『召喚』してお話をされたらいかがですか?『召喚』であれば、マスターの仲間になるまでは『召喚陣』から出れませんし、仲間になってしまえばマスターに手出しは出来ません。仲間にならなければ、送還されます』
「そうか!その手があった!」
早速スマホを操作する。『カスタム』の『迷宮』の下、『召喚』をタッチ。
「項目が色々あるな………」
『名前』『種族』『レベル』『性別』『年齢』など、まだ見た事しかないオーガを呼び出すには、少々厳しい。
『マスター、まさかご自分の『鑑定』のスキルを忘れたりは、していませんよね?』
あ。
「ままままっさかぁ!そ、そんな事あるわけ無いじゃ無いじゃ無いですかぁ!もう、僕のスマホは今日もお茶目さんなんだからぁ!!」
『………………』
沈黙が痛い。
『鑑定』と念じて、オーガを見る。
オーガ 《レベル52》
オーガのはぐれもの 旅人
たいりょく 1205/2600
まりょく 62/114
けいけんち 1478/23506
ちから 1720
まもり 2819
はやさ 298
まほう 4
わざ
ておいのけもの
こんぼう レベル70
じばしり ▼
そうび
ぬの
こんぼう
ナイフ
「見づらいっ!!」
なんで鑑定までファミ○ンスペックなんだよ!?お陰で、「オーガつえー」とか、「俺のステータスって………」なんて台詞の前に、ツッコミ入れちまったよっ!!
まぁいい。名前はないようなので、『種族』と『レベル』を入力。
アレ?でもこれって、同じ種族で同じレベルの奴も、世界にはごまんと居るよな。そっちが来ちゃったらどうすんの?
『項目の一番下にある、『迷宮内召喚』を使えば、迷宮内にいる個体だけを対象に出来ます。オーガはこの迷宮に1匹だけなので、オーガを対象にすれば確実にあの個体を呼び出すことができるでしょう』
それってわざわざ『鑑定』使う必要なかったってことだよね?なんでわざわざこんな遠回りを?
『暇だったので』
………………もうヤダ、この子………。