僕と魔王っ!?
ななし/コーロン 《レベル25》
あんさつしゃ だい0きしだん ぎんろう
たじゅうじんかく こんらん
たいりょく 90/820
まりょく 10/10
けいけんち 2/720
ちから 420
まもり 22
はやさ 340
まほう 0
わざ
あんさつ レベル48
ナイフ レベル22
けん レベル7 ▼
そうび
ナイフ
がくラン
スニーカー
どく
コーロンさんが暗殺者だというのは、最初から気づいていた。
だから僕は、コーロンさんと別れた後、フルフルに尾行と監視を頼み、アドルヴェルドへ赴いたのだ。
第0騎士団というのが何なのかはわからないが、恐らくはズヴェーリ帝国の暗部に属していたのだろう。
別に僕は、そういった組織があることに文句を言うつもりはない。国家経営とは綺麗事ばかりで進むものでもないだろうし、逆に敵対的な者が闇から手を伸ばしてきた時、そういった組織がなければ無防備にその攻撃を受けてしまう。だから、第0騎士団とやらがあるズヴェーリ帝国に、僕が言うべき事など何もない。
だが、だからといって、今のコーロンさんの状態を見て、心穏やかでいられるほど、僕は魔王を辞めていない。
精神病に対する知識は曖昧だが、多重人格、解離性同一性障害は、相当に重度な解離性障害であったはずだ。
そこまで、コーロンさん、もしくは名前の無い彼女を追い詰めた奴を、『国のために仕方なくやったんだよね』なんて、生易しく許してやるつもりなど更々無い。
魔王を敵に回すという事がどういう事か、心と体に刻んでやろう。
コーロンさんは、その表情に苦痛を浮かべ、玉のような汗をかきながら眠っている。仲間になる時、僕を意図的に裏切ればどうなるか、きちんと説明したにも関わらず起きた、今回の一件。コーロンさんは、初めから命を捨てるつもりで僕を暗殺しようとしたのだろう。きっとただ命令されたから。
これじゃあまるで奴隷だ。
奴隷制を持たぬ国。奴隷を持たぬ国。奴隷狩りを許さない国。
しかしあの国にも、やっぱり奴隷は居るようだ。
勿論、暗部の存在を、どれだけの人間が認知しているかはわからない。もしかしたら皇帝すら知らない存在なのかもしれない。
だが、現に彼女は名前を持たず、これまで心が壊れてしまいそうな傷を負ってきたのだ。
だからこそ、彼女は苦痛にうなされながらも、涙を流しているのだから。
ウェパルが必死に彼女の看病を努めている間に、僕達にはやらなければならない事ができた。
フルフルに案内され、僕はゴーロト・カローナの一画、裳奢な邸宅の前に居た。とてもここに、この国の暗部が詰まっているなど想像もつかないお洒落な家だ。
コーロンさんが昼間訪れた、唯一の場所。
つまりはここに、コーロンさんを追い詰めた元凶がいる。
門兵をフルフルが無力化し、パイモンが柵状の門を力ずくで歪める。
邸内には、数人の使用人らしき人物も見受けられたが、出会い頭にフルフルが水で包んで眠らせた。確か、精霊魔法の『エレオスキマメ(慈悲の眠り)』だ。
しらみ潰しに扉を開き、襲い来る兵士を次々昏倒させ、ようやく目的の人物を見つけ出した。
広い寝室の豪奢な寝具に腰を降ろし、何の感情も窺えない冷徹な表情を浮かべる男。
「成る程。256番騎士、銀狼は仕損じたか。まぁよい。想定内だ」
何の感情も窺えない声で男は言う。
「さて、魔王よ。長話は好かん。とっとと済ませろ」
「済ませる?何を言っているんだ?」
「私を殺しに来たのだろう?とっとと済ませろ」
ああ、そうか。
彼女が、自らの心が壊れないようにコーロンさんを生み出したように、この男は心を壊さないために、心を無くしたのだ。
だから、自らの死が眼前に迫った現状でも、何の動揺もなく、何の感慨もなく、何の未練もなく、それを手放せるのだろう。
この男も、被害者なのかもしれないな。
ダァァアン!
「がっ!」
なんて言って許すつもりなど更々無い。
パイモンが殴り飛ばした男に歩み寄り、その頭を踏みつける。
「別に僕は、お前を殺しに来た訳じゃない。
コーロンを苦しめる元凶を全て消しに来ただけだ」
ショテルを抜き、男の首に回す。
「わ…っ、たしが死のうと、くっ、第0騎士団はあり続ける。奴隷狩りに嘆く同胞のためならば―――」
「そのために、その同胞を奴隷にしてちゃあ本末転倒だろうが?」
「我々は、祖国のためならば命も名誉も要らぬ………っ。1人でも―――」
「ああ、ハイハイ。そーゆーの、いいから。
アンタの気持ちとか、ココロザシとか、ホコリとか?一々斟酌してやるつもりもないし、興味もない。
最初に言っただろ?
僕が今ここにいるのはコーロンのためだ。それ以外はどうでもいい」
この国も、奴隷狩りも、奴隷も、今だけは本当にどうでもいい。
「まずはお前。次に皇帝。その次は………、面倒くさいから片っ端から貴族を殺そう。そうすれば、第0騎士団なんて、存続もできないだろ?」
「なッ………!」
お、ようやく感情らしき感情が見えたな。男は、驚愕の表情で、僕のスニーカーの下からこちらを見ている。
何を驚く?お前の目の前に居るのは魔王なんだぞ?
「嫌か?だったら、第0騎士団のパトロンを全部話せ。そうしたら死ぬのはそいつ等だけだ。どっちがいいか選べ」
男は暫し沈黙を返し、僕が「そうか」と言って剣を引き切ろうとした時にようやく、
「………わかった」
と呟くように言った。
数名の貴族の名前を覚え、僕はその寝室を後にする。
「殺さないのか?」
一筋の刀傷を首に残した男が、何の感情も窺えない声で聞いてきた。
「言っただろ、僕はお前を殺しに来たわけじゃないって」
「私が出鱈目を言った可能性は考慮しないのか?」
「その時は、さっき言ったようにするまでだ。僕には、お前らを殺さない理由なんて無いんだから」
そう言って、僕らは今度こそその部屋を出ていった。
「キアス様、本当に人間を殺すつもりだったのですか?」
「さぁね〜。どっちだと思う?」
「………キアス様は、お優しい方ですので………」
「さっきのもハッタリだったと?」
「………………」
「さぁ、どうだろうね〜?」
「キアス様?」
「ん、なんだい?」
「どうして、さっきからずっと笑っているのですか?」
「………………」
「なんか、怖いですよその笑顔。本当は怒ってるんですか?」
「さぁ、どっちだろうね〜?」




