表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/488

 宿無し魔王っ!?


 宿とってねぇ!!




 僕がその事に気付いたのは、2人と別れて馬車に戻ってからだった。


 あのシュタールに振り回されたせいで、すっかり忘れていた。あの野郎。アニーさんも居たから、パタも売れなかったし、踏んだり蹴ったりだ。


 こんな時間に宿に入れるわけもない。空にはすでに星がきらめき、酒場以外の店はほとんどが店仕舞いを終えていた。

 商会での事といい、辻強盗といい。どれもこれもシュタールのせいだ。




 やっぱり魔王と勇者は相容れないということか。




 一応、僕の馬車は、今ではちゃんと幌も付いているので、寝れなくはないのだが、今日辻強盗にあった町で、のんびり野宿は嫌だなぁ。


 というわけで、僕とウェパルはダンジョンに戻ることにした。転移の指輪使えば一瞬だしね。


 ぶっちゃけ、こっちは本当に住みづらい。トイレは臭いし、風呂は無いし、勇者はいるし。


 特にトイレが酷い。

 アドルヴェルドはただの桶だし、ズヴェーリはオマルが室内にあるし。


 つか、処理はちゃんとしてんだろうな!?

 そこら辺にペスト持ちのネズミとかいないだろうな!?


 そんなわけで、早くもホームシックなのだ。


 馬車は、貸し馬車の店に無理を言って預けさせてもらい、少し多目の金を払って馬の世話も任せた。要らない出費だ。一応馬車の荷台に指輪でマーキングしたので、盗まれてもちゃんと馬車までは戻ってこれる。




 「あ、おかえりなさいキアス様!」


 リビングに転移した僕たちを、パイモンが満面の笑みで迎えてくれた。

 ああ、いいなぁ。本当にパイモンは、僕の良心だよ。


 「ただいま、パイモン」


 「ただいま!パイモンさん!」


 僕とウェパルはそう挨拶を返す。なんだか、たった2日留守にしただけで、随分と懐かしく感じるよ。


 早速パイモンに風呂の用意を頼み、僕は買い集めた品々を、それぞれ保管していく。食品は痛みやすいので、ほとんどが袋の中だが、麦と米は食糧庫へ運んだ。その際、オーク達には、縄や布など、このダンジョンでは手に入らない生活雑貨やそれを作るために必要な物を渡していく。

 明日はまたアドルヴェルドだし、足りない物があるなら今のうちに聞いておこうか。




 「うぃ〜、やっぱ我が家に限るなぁ〜」


 そんな旅から帰ってきた時の定番な台詞を言いながら、僕は湯船に浸かっていた。


 「お風呂、気持ちいーですねー」


 ウェパルも嬉しそうだ。ただ、


 「ウェパル、お前ちょっと髪切ってみるか?」


 ザンバラなウェパルの髪の毛は、普段はカチューシャで押さえているのだが、今は当然外していた。

 なんか、この髪を見るとあの時を思い出しちゃうんだよなぁ………。


 ウェパルを呼び出した時の苦い思い出から、僕はウェパルにそう提案した。


 「え?えっと、でも………」


 言い淀むウェパルは、チラチラとこちらを見ている。何だろう?


 「ご主人様は、短い髪が好きですか?」


 「ん?いや、別に?」


 なんでいきなり僕の話だろう?

 首を傾げる思いだが、ウェパルがため息を吐いていることの方が気になる。


 「いや、ウェパルも女の子だし、いつまでもその髪ってのもな。

 なんなら明日、アドルヴェルドでやってもらうか?」


 「わかりました。ご主人様がそう言うなら、そうします………」


 えー、なんか落ち込んでらっしゃる。僕は何かいけない事でも言っただろうか。


 「あ、ご主人様!ウェパルちょっとだけ太ったみたいですよ!昨日よりちょっとだけ!」


 かと思えば突然、ウキウキと自分のお腹を指差し、報告してくる。

 僕には相変わらず痛々しく見えるが、確かに血色はいいお腹が、そこにはあった。しかし、女の子が自分は太ったと喜んでいる光景は、ちょっと面白い。


 そういえば、ズヴェーリでもアドルヴェルドでも、ウェパルはよく食べてたからな。


 僕はウェパルの頭を撫でて誉める。そのままもっと太って、その内ダイエットとか気にするようになってくれ。お父さんは娘が元気に育ってくれることだけが望みだよ。


 「キアス様、真大陸はどうでしたか?」


 湯船に浸かりながら、僕を抱き抱えたパイモンが聞いてきた。トリシャとの口喧嘩の際に言っていた、だっこでお風呂である。


 あぁ。パイモンのパイがもにゅもにゅ。


 頭の後ろに天国を感じながら、僕は土産話をパイモンに聞かせることにした。

 なにせ、色々あったからなあ。


 「面白かったよ。色んな人に会った。そうだなぁ、まずは馬の門番さんの話かな」







 「―――でね、なんとソイツが勇者だったんだよ!もービックリだよね〜」


 「キアス様、勇者とはなんですか?」


 どうやら、魔族には勇者という存在は知られていないらしい。

 そりゃそうか。自分達を殺しに来て、世界を平和にする存在、なんて言われてもそんなの受け入れられるわけが無い。物語と違って、魔族を倒せば世界が平和になる、なんて事はあり得ないんだから。


 すっかり体も温まり、そろそろのぼせそうだな。


 まぁ、今日は色々あったし、流石にこんな時間だし、もう何もないだろう。ゆっくり休もう。


 パイモンに風呂から上がり旨を告げ、浴槽を出る。因みにウェパルはとっくに上がった。子供って風呂早いよね。




 しかし、色々あった今日を締め括るに相応しい一大事が、風呂から上がった僕を待ち受けていた。軽々しくフラグなんて立てるべきではなかった。




 『キアス、コーロンが倒れたの』


 着替えを終えた僕に、フルフルから通信が入った。

 「原因はわかるか?」


 僕は十中八九当たりをつけながらも、フルフルに確認する。当たって欲しくない予想だったから。




 『たぶん、キアスを殺そうとしたせいなの』





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ