表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/488

 勇者の隣にはやっぱりヒロインっ!?

 女性は、せっかくの美貌を怒りに歪め、こめかみには青筋が浮いている。鮮やかなグリーンのロングヘアーに、淡い水色のゆったりとしたワンピース姿。見たところ、20代中盤から後半あたりの年齢に見受けられた。


 そして、




 とんがり耳が、そのグリーンの髪の隙間から飛び出していた。




 エルフ。

 イメージとしては金髪か、プラチナブロンドを想像していたが、彼女の髪色は、新緑を思わせるグリーンだ。

 しかし、神秘的な美貌や、腰に携えたショートボウは、まさしくエルフのイメージそのものである。


 「貴様、中々帰ってこないと思えば、こんな所で道草を食っていたのか!しかもなんだ!?家を売るだとっ!?バカも休み休み言え!!あの家は私や、他の仲間も住んでいるのだぞ!?」


 エルフの女性は、怒りの形相でシュタールに捲し立てる。

 どうでもいいけど、少し声を抑えてくれ。注目されたくないんだって!


 「ちょっ、ちょっと待てアニー!これスゲーんだって!俺にぴったりな武器だし!変形するし!業物だし!カッコいいし!変形するし!ここで買わなきゃもう二度と手に入らねーんだって!!」


 「だから何だと言うのだ!!」


 一言で一蹴である。

 このアニーと呼ばれた女性に、シュタールは大分尻に敷かれているようだ。


 しかしエルフか。

 やっぱりファンタジーだなぁ。

 確かトリシャに聞いた話では、エルフは魔法に長ける種族で、長命であり個体差はあれど平均で500年くらいは生きるとか。ただ、出生率が低く、一代で3人以上子供を残すエルフは少ないらしい。

 魔法に長ける反面、身体能力は低く、剣や槍などの武具を使うのは向かないんだとか。


 獣人の正反対みたいな種族である。


 争いを好まず、森や深い山などでひっそりと暮らすことを好む、僕としてもありがたい存在だ。


 30年前の魔大陸侵攻にも、ほとんど参加しなかったそうだ。いやはやありがたい。


 「そうだ!アニー、金貸してくれ!それで買えば家売らなくてすむ!」


 こいつ………、本当にバカだな。アニーさんの苦労が忍ばれる。


 「だいたい、お前とて金に困っていたわけではあるまい。この前のマンティコア討伐の報奨はどうした?」


 「使った。さっきこいつからマジックアイテム買うのに」


 おいおい、そこで僕に振るな。アニーさんが詐欺師でも見るような目でこっちを見てるじゃないか!


 アニーさんが1つため息を吐くと、こちらに向き直った。


 「すまないな、商人殿。こいつが色々と迷惑をかけたようだ。詫びついでに、その剣を買わせてくれ。いくらだ?」


 「え?あ、白金貨5枚です………」


 「むぅ………。やはり高いな。しかし確かにそれだけの逸品のようだ」


 アニーさんは言うが早いか、突然虚空に手を突っ込み中から白金貨5枚を取り出した。


 今のは時空間魔法か?初めて見た。


 さんざん利用してきた時空間魔法だが、まともに発動させた事は当然ながら一度もない。


 「これでいいか?」


 「はぁ………。い、いえ、はい」


 って、ああぁぁぁ!

 なんか流れで売ることになっちゃったよ!売るつもりなんか無かったのに!!


 エルフのインパクトはそれだけ凄まじかったのだ!だってエルフだぞ!?

 っていうか、散々文句言ってたのに、アニーさんもすんなり買うなよ!甘すぎだろ!?

 アレか?やっぱりシュタールのハーレムの1人なのか!?

 くそぅ。羨ましい!!


 羨ましいから、もっと金を搾り取ろう。


 「じゃあ次はこの、籠手と剣の一体化した、パタという剣を―――」


 「買ったあぁぁぁ!!」


 「いい加減にしろ!!」







 「どうやら魔大陸侵攻は延期になったようだぞ」


 アニーさんはさらに散財をしようとするシュタールを殴り付け、なんとか落ち着かせた。いい気味だ。


 そのまま夕食をとることとなり、僕らの前には沢山の料理が並んでいた。

 『黄金コウモリの姿焼き』とか、『ハイライトフロッグの唐揚げ』なんかは、僕としてはちょっと食指のそそられない一品だったが。


 そんな食事の最中、アニーさんは、聞き捨てならないことをサラッとこぼした。


 「なんでも天帝国が仲介に入ったとか。今の状態で教会が暴走するのを抑えたのだろうな。あの国はいつも賢明だ」


 「ああ、あそこの王は俺も好きだぞ。なにせ、俺をあまり使い走りにしねーからな。教会は嫌いだ。やれ魔王倒せだとか、信仰心が足りねえとか、口うるせえもんよ」


 「王ではない、天帝だ。敬称は天下だ。間違うな」


 「へーへー」


 アニーさんの言葉から察するに、どうやら教会はすでに真大陸において腫れ物のような扱いらしい。


 まぁ、まともな経済観念も危機意識もない国家機関など、その程度の認識で当然か。農業国だからなんとかなっているが、これがアムハムラ王国みたいな地理だったらこの国や教会も、今のような無茶ばかりを言ったりはしなかったんだろうな。


 「助かります。食料に高騰の兆しがありましたので、それが港間に伝われば人々も安泰でしょう」


 僕はなんとか平静を装いながらそう返した。

 心の中では狂喜乱舞だ。

 これでしばらくは安泰だ。神様にこの世界の命をできるだけ減らさないように頼まれている以上、僕が戦争で命を奪うわけにはいかないだろ、やっぱ。


 「だよなー。30年前もさ、俺はやめろっつったのに教会のバカどもが戦争始めちまってよ。そのせいでアムハムラ王国は酷い有り様だったぜ」


 「だからといって、漁師の真似事はないだろう?助けるにしても、他にいくらでもやり方はあっただろうに」


 シュタールとアニーさんは昔話に花を咲かせている。っていうか、2人とも今いくつなんだろう?


 「つーか、強硬派の連中は、マジで何考えてるんだろうな。第13魔王は今の所、何もしてきてねーんだろ?そんな奴にケンカ売って戦にでもなれば、戦うのは兵士と俺たち勇者だぜ?やってらんねーだろ?」


 「そうだな。ただ、件の第13魔王は、どうやら第11魔王を倒したらしいぞ?」


 「なっ!マジでかっ!?」


 口をつけていた酒を吹き出して、シュタールが狼狽している。アニーさんが参加してから、急に情報が入ってくるようになった。金にはならなかったけど、そういう意味では助かる。


 「コションなら俺も倒した事はあるけど、アイツ、すぐ復活してきたぞ!?」


 「何でも、1日に2度の死亡報告があったそうだ。星球院もその後の復活は確認していない。今度こそ完全に倒された、という見方が主流派だな。また復活すると言う輩もいるにはいるから太鼓判は押せないが」


 まぁ、今は迷宮に完全に取り込まれちゃってるし、コションの能力は、あくまで『仮死』だから本当に死んじゃえば復活もできないしね。心配性の方々の心労は、ただの杞憂だ。


 まぁ、あれを取り込んだと言っていいのかどうか………。


 「キアス殿も、行商をしているなら気を付けろ。この情報は近々世界中に伝わるぞ」


 「食料や塩はともかく、武具は値崩れしそうですね。食料も、買い占めた輩が一斉放出すれば、大分安くなりそうです。いい情報です。ありがとうございました」


 塩も安くなるだろうから、ズヴェーリに戻ったらザチャーミン商会に忠告しておくか。今あそこに損をされるとマズイ。


 「いや、なんの。こちらもシュタールが迷惑をかけたようなのでな」


 僕とアニーさんが朗らかに話しているところに、シュタールが暗い声を差し込んできた。




 「なんかさっきから、俺の事無視してねーか、キアス?」




 「アニーさん、他に何か情報はありますか?」


 「やっぱり!!」


 うるさい。ろくな情報も寄越さない、文無しの男などに用はない!!


 「他には、そうだな………」


 「アニーも乗ってんじゃねぇ!」


 「アニーさん、ここは僕の奢りです。デザートなどいかがですか?」


 「お、すまないな。実は甘いものには目がなくてな」


 「おいお前ら、いい加減にしないと泣くぞ!!いいのか!?」




 どんな脅しだよ………。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ