勇者と奇剣っ!?
「マジかよ!?マジで、これ、金貨2枚で買ったのか!?」
無事、とはとても言えなかったが、なんとかシュタールとの取引を終え、僕らは酒場で、世間話に花を咲かせていた。勿論、僕とウェパルはただのお茶だ。
金を受け取ったら、すぐさまこの場を辞してもよかったのだが、あまりすげなくするのも、僕の今後によろしくない。
情報収集もできそうだったし。
「ああ、いい剣だろ?形が一般的でなかったからか、あまり正当な評価は受けていなかったが、間違いなく名剣だ」
「ああ。俺ならこれに、白金貨5枚は出すぜ」
なんの話からだったか、話題は僕の愛剣、ショテルの話になり、僕はそれをシュタールに見せていた。どうでもいいけど、ショテルとシュタールって、響きが似すぎてないか?
「僕の護身用だ、金を積まれたって売らん」
「く………っ。確かに、そろそろ懐が寒いしな」
悔しそうにショテルを返すシュタール。
言いづらいな。ショテルの方に名前でも付けるか。
「んで、キアスとウェパルちゃんは、何で2人だけで行商を?お前ら2人じゃ、寄ってくる野盗とか、さっきみたいな強盗とかのいいカモだろ?」
「別に、いつも2人なわけじゃない。1人は別行動、もう1人はどっかに忘れてきただけだ」
「ふーん。まぁ、今まで結構稼いでたみたいだし、まともな護衛が雇えないわけねーもんな」
まぁ、商売を始めたのは昨日からなんだけどね。
「そんな事よりよぉ、キアス。お前、魔法の袋の他にも、何かマジックアイテム持ってんじゃねーの?
ホレホレ、おにーさんに見せてみなって?」
終始こんな感じで、まともな情報なんて全然聞き出せない。これをわざとやってるなら脱帽だけど、たぶんのべつまくなしに、ただただ無駄話しているだけだ。
マジックアイテムも、他の商人なら、情報の流布もかねて見せてやってもいいのだが、いかんせんコイツに興味を持たれると困る。既に時間の問題かもしれないが。
「マジックアイテムよりも、お前の気に入りそうな品ならあるぞ?」
だから僕は、そう言って話題を逸らした。勇者をダンジョンに呼び込むわけにはいかん。
「おいおい、なんだこりゃ?剣か?盾か?」
「その両方だ。マン・ゴーシュという、左手用の剣だ。盾として使える剣というコンセプトで、剣を2本持つときに、利き手ではない方に持つためのものだ」
僕が袋から取り出したのは、全長80cmほどの短剣だ。刃渡りは40cmほどと短く、幅広の諸刃である。残りの40cmはハンドガードになっており、盾としても使える。鞘はアルミとステンレスで、強度と軽さを両立させた。鉄で作っても良かったのだけど、重いしね。
この奇剣も、当然僕の造った剣である。
「んー、確かに取り回しはしやすそうだが、盾を持った方が良くないか?鍔もねーし、刃の向きも変だ」
シュタールの反応はやや鈍い。
まぁ、確かにこのままじゃ、ただハンドガードの大きな短剣だ。ハンドガードを拳側に柄を握った場合、刀身の腹が相手側に向くのも、確かに奇妙だろう。手の甲側に握れば、普通に使えるが、それではハンドガードの意味がない。ただの小さな盾だ。
だが、そんな顔を、これを見てからでも続けられるかな!?
僕はおもむろに、短剣を鞘から抜くと、親指で柄のボタンを押す。
カシャン。
と軽い音をたて、幅広の刃は3つに分離し、2つは鍔のように柄から垂直に左右へ伸び、残る1つの細い刃がそのまままっすぐにシュタールを向いていた。
「マン・ゴーシュは本来、剣を受け止めるための、長い鍔を持つんだが、いかんせん携帯に不便だからな。その点折り畳みなら、普段は邪魔にならんし、そのまま短剣としても使える。この、中に収納されてた刃は刺突用だな。刃の両側にソードブレイカーがあるから、相手の剣を受け止めて、へし折ることも可能だ。当然強度もあるから、斬ることも出来なくは無いが、ソードブレイカーの部分には刃がないから、おすすめできないな」
僕が、つらつらとマン・ゴーシュについて述べている間、シュタールの目はマン・ゴーシュに釘付けである。
ふふん。やはり変形は、異世界でだって男の子の心を鷲掴みだ。
因みに、開いた刃を戻すときは、柄尻をクルクル回さなければならず、ちょっと地味なのは仕方がない。全自動にするには、魔力か電力が必要だ。出来なくは無いが、なんだかこういうのはアナログな方が好きだ。
「キアス!!それ売ってくれ!!」
「断る!!」
言うと思った。だが断る!!
これは僕の奇剣の中でも、珠玉の逸品なのだ。主に変形が。
「そこをなんとか!!この通り!!」
シュタールは頭を下げ、両手を合わせて頼み込んでくる。しかし僕の気は変わらない。
「い・や・だ!これは商品じゃない。僕が趣味で集めてる物だ。それに、さっきのショテル並みの業物だぞ?金はあるのか?」
「家売ってでも作る!!だから頼む!!」
「「馬鹿かお前はっ!?」」
「え?」
いきなり誰かとハモったかと思ったら、シュタールは隣の席まで吹っ飛んでいった。
無人でよかった。すごい勢いで、きりもみしながら飛んでいったからな。
僕の隣には、いつの間にか1人の女性が佇んでいた。