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 勇者と魔王の鐘は鳴るっ!?

 勇者。


 ファンタジーにおいて、絶対の主人公であり、邪悪な魔王を倒し、世界を平和に導く存在だ。


 なんやかんやとモテまくり、なんやかんやと偉業を成し、なんやかんやとハッピーエンドを迎える存在、それが勇者。


 そんな称号を持つ者が、今、僕という魔王の前で笑っている。







 シュタール・ゲレティヒカイト 《レベル92》

 ゆうしゃ きぶんや


 たいりょく 42520/42520

 まりょく 6700/6700

 けいけんち 74586/800679


 ちから 4467

 まもり 1210

 はやさ 5670

 まほう 3200


 わざ


 ひかりのかご

 さい・ひかりまほう

 けん レベル99 ▼


 そうび


 よろい

 けん

 ナイフ

 うでわ

 ペンダント




 勝てるわけがねえ………。


 戦闘になったら2秒で敗北する自信がある。


 ここまで勇者と魔王のパワーバランスが崩れている物語が、かつてあっただろうか?あ、逆はありそうな気がするな。


 とにかく!こんな『試しに装備無し、魔法無しで戦ってみようぜ』みたいな力量差で、この場で戦闘になるのはマズい。


 この、能天気そうで、わがままで、気分屋らしい勇者と、できるだけ早く関係を絶つことこそが、今の僕達には必要不可欠なのだ。


 『あなたといい勝負ですね』


 アンドレうるさい!




 「いや、つーか、なぜにそんな警戒してんだ?

 俺、これでも一応、お前等を助けたつもりなんだけどな」


 確かに助けたつもりなのだろう。事の原因を作ったのが、自分自身だと、全く気付いてないのだから。


 しかし、いつまでもこの状態でいるわけにはいかない。

 何より、またまた注目を集めてしまっている。人様の耳目を集めるのは、僕としてはかなりマズい。

 忘れてはいけない。ここは敵地のど真ん中なのだ。


 「警戒しているのは、この件の黒幕が、アンタじゃないかと疑ってるからだ」


 「はぁ!?」


 「決まっているだろう?僕はアンタに、大金で品物を売る事になってるんだぞ?

 僕から奪えば、出費は無くなり、アンタは品物の他にも、僕の持つ色々な商品を手に入れられるんだから。真っ先に疑われて当然だ。勇者だなんて言われても、今の僕達には確認する術もないんだから」


 本当は『鑑定』で確認済みだけど。


 この場合、伸びてる男達がバカだった事も要因の1つだ。そうでなくても、助けて値段を値切る、という策だったのかもしれないしな。


 まぁ、仮にも勇者がそんな事はしないだろうから、これは単なるいちゃもんに近い詭弁なんだけど。


 「え、あ、いや、………そうか。確かに、そう疑われても仕方ないか………」


 だから落ち込むな!なんかこっちが悪いことしている気になるじゃないか!?


 「あくまで、アンタが無関係だと言うなら、僕との商売をきちんと終わらせてくれ。この場に代金をきちんと持ってきていたなら、アンタを信じることにする」


 僕が、警戒心も露にそう言ったにも関わらず、シュタールは、暗い表情を180°変え、満面の笑みを浮かべた。

 くっ………。イケメンめ!


 「おう!金なら持ってきたぞ!」


 言うが早いか、懐に手を入れて、代金を支払おうとするこのバカ。


 「待て待て!この場で代金の受け渡しなんかしたら、また僕たちが狙われるだろうが!」


 もう既に手遅れかもしれないが、こんな往来のど真ん中で白金貨を数えて、懐に入れたくはない。


 またぞろさっきみたいな、バカを量産するのがオチだ。


 「う………っ、そ、そうか。じゃ、じゃあどうすっか?」


 シュタールは1度周りを見て、気まずそうにそう言った。もしかしたら、この騒動の原因が自分に有ることに気づいたのかもな。まぁ、自業自得だけど。


 「まずは男達を、当局に引き渡すのが先決だろうな。逃げられてまた狙われるのはごめんだ」


 「うし!じゃあとっとと縛り上げちまうか!

 あ、縄とか持ってる?」


 なぜか張り切り出したシュタール。本当に喜怒哀楽の激しい奴だ。気分屋ってのは、そういう事なのかもしれない。


 さっきの商会で仕入れた縄で、男達を縛り上げていると、そこに騎士達が到着した。僕が襲われてから、約15分ってとこか。まぁ、僕が殺されても、この男達はやっぱり逃げられなかったね。







 無事男達を引き渡した僕たちは、シュタールに連れられて、オープンカフェのような酒場に来ていた。


 わざわざここを選んだのは、シュタールなりの気遣いなのだろう。疑われている現状で、僕らを室内に連れ込むのを避けたのだと思う。


 通りを歩く人たちより、少し高くなっているこの場所なら、掲げ持ったりしなければお金も見えない。バカの癖に、気配りはできるようだ。


 「改めて、俺はシュタール・ゲレティヒカイト。シュタールって呼んでくれ。

 勇者なんて言われてっけど、勇者なんてただの使いっ走りだからな。気楽な冒険者にでもなって、ゆっくりと余生を送りたい、ただのナイスガイだ」


 いや、歯キラーンとか要らんから。なんだその親指、へし折るぞ。


 「僕はキアス。ただの行商人だ。こっちはウェパル。使用人だ」


 「………ょ、よろしくお願いします」


 ウェパルが小さくなって頭を下げた。


 この状況を、客観的に見れる第3者って、ウェパルだけだもんな。

 勇者と魔王が、酒場で談笑しているのを、彼女はどういった気分で見ているのだろう?


 「よろしくな、ウェパルちゃん!


 つーわけで、自己紹介も済んだところで、乾杯!」


 ………………。1人虚しく、木のジョッキを捧げ持つシュタール。ウェパルは、僕らを交互に見ながら、オロオロしている。


 「………俺って、そんなに信用ない?」


 半泣きなシュタールに、僕はため息をつきながら、ジョッキを持ち上げた。ウェパルも、ほっとしたように僕に倣う。


 「んん!改めまして、我らの出会いに、か―――」




 リンゴーン!ゴーン!ゴーン!




 まるで見計らったかのように、教会からは午後の鐘が鳴り響いた。





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