ソルト&フォックス・5っ!?
ザチャーミン商会を出た僕らは、リンさんに紹介された宿へと向かっていた。懐はホクホク。成果も上々だ。
どうやら、リンさんもセン君も、僕らがアムハムラ王国を拠点に商売をするつもりだと思っていたらしいが、実際の所そもそも最初からアムハムラに拠点など無い僕らである。
リンさんには、アムハムラの商会を売却して、ダンジョン内に造られた無人の街に新たな商会の本部を作る事を告げた。
リンさんもセン君もすごく驚いていた。
当然か。
これまで魔王は、人間の敵として世界に存在していた。そんな魔王の膝元に居を構えようとしている僕たちは、ひどく異端な存在に見えたことだろう。
しかし、人間がいつまでもそんな第一印象に縛られては困るのだ。
僕のダンジョンから、定期的に汎用性の高いマジックアイテムが真大陸に流れる事は、僕の保身にも繋がるのだから。人間の生活に、僕のマジックアイテムや通貨が流通することで、僕を倒すメリットより、デメリットを多くすれば、自然と僕を殺そうとする人は減るはずだ。そして、もしそんな環境が整った後でも、そんな事を声高に言う人間には、用はない。勝手にダンジョンに入って、勝手に死んでくれ。
さて、そろそろ空も暗くなってきた。リンさんに紹介された宿はまだかな。
「しっかし、奴さん達、ちゃんとダンジョンまで来んのかね?」
馬車の荷台では、コーロンさんが退屈そうにそうぼやいていた。
因みに、フルフルとウェパルは、街で買ってあげたトランプのようなカードゲームで遊んでいた。
子守り、僕一人でも大丈夫だったかもしれん。
「大丈夫さ。ザチャーミン商会は、アムハムラ王国に拠点を置けば、すぐにでもダンジョンまで来る」
僕がそう言うと、コーロンさんは、不思議そうな顔だ。
「何でんな事が言えんだよ?」
「まず第1に、僕らがダンジョンに居着く以上、大商会とはいえ、伝手の無いザチャーミン商会は、僕らからダンジョンの品を買うことになる。だが、これはひどく不安定な状態だ。
もし僕らが、ザチャーミン商会より高額でマジックアイテムを買い取ってくれる顧客を、手に入れたとする。すると、ザチャーミン商会はマジックアイテム以外で商会を切り盛りしなくちゃならない。それではアムハムラに支店を出す意味がない。まぁ、僕たちはそこまで大々的に商売するつもりはないんだけどね。
第2に、その状態を維持する意味と利益がない。今はまだ、安全面を杞憂しているみたいだけど、僕は街に住む住人に危害を加えるつもりはないからね。むざむざ一番美味しい所を、他人に譲り渡したりはしないだろ」
よくわかんね、とコーロンさんは僕の説明を一蹴すると、荷台から御者台に出てきた。
「まぁ、できれば彼らには、僕の街で商人達の中心に立ってもらいたいと思ってるんだ。
僕は別に、これからも商人としてやっていくつもりはないからね」
「なんだよ、やりゃあ良いじゃねえか、商人。あの小僧やおっさんとのやり取り見る限りは、結構向いてると思うぜ?」
「いやー、だって商人を続けるって事は、僕はこれからも嘘を吐き続けなきゃならなくなるだろ?流石に良心が痛むよ」
「どの口が言ってンだよ!?この大ボラ吹きが!」
あれ、なんかひどい罵倒を受けた気がする。
「だってさー、嘘吐くのって結構疲れるんだよ。今日なんて、本当の事より、明らかに嘘の方を多く喋ってたよ、僕。もう疲労困憊さ。早く宿に行ってゴロゴロしたい」
「言ってる事に、良心の欠片も感じられねえよ、この嘘吐き魔王!」
て言うか、声を抑えてほしい。夕方とは言え、人通りはあるんだから。
まぁ、本当に僕が魔王だと思う人なんて、皆無だろうけど。
「しかし………」
僕は隣に座るコーロンさんを見る。正確には、コーロンさんの、銀色の狼の耳と尻尾を。
狼を連れて行商なんて、とある名作ライトノベルみたいだな。
一人そんな事を思っていたら、僕の視線に気付いたコーロンさんが、居心地悪そうに、
「な、なんだよ、そんなじっと見やがって………」
と抗議してきた。受け答えが、一々ラブコメっぽいんだよな、この人。でも僕は勘違いしない。
何度も言うが、現実で『勘違いしないでよねっ!』を言われるつもりはないのだ。
「いや、あの親子、見事な耳だったな、って」
あ、また嘘ついた。
いつか虚言癖でも付きそうで嫌だな。
「チッ、なんだよ、アタシの耳じゃなく、アイツ等の耳の話か。
まぁ、確かに似合ってたけどな。でもやっぱり、一番はあのヒゲだな。あれだけピンと張ったヒゲは、早々お目にかかれねえぜ?」
「そうなのか?いや、しかし、あの毛並みも一級品だろ。金色で、ふわふわで。尻尾を枕にしたら、最高に気持ち良いだろ?」
なんだか、期せずしてザチャーミン親子の話で盛り上がってしまった。
「お前、それ結構猟奇的な事言ってるからな。いや、まぁ毛並みに関しては、アタシも認めっけど」
「ふふふ。コーロンさんの毛並みだって負けてないけどね」
「ハン!言ってろ、バーカ」
うん。やっぱり気安く話せる相手って良いよね。パイモンじゃ、どう頑張ったって僕にはバカとは言わないだろ。いや、別に言われて嬉しいわけではないけど。
「それにしても、様になってたなぁ」
「ああ、まさに天職って感じだったぜ」
因みに余談だが、獣人には顔全体が獣の特徴を持つ者が、稀に居るらしい。
余談だが。