ソルト&フォックス・3っ!?
セン君の、悔しそうな、しかし興味と好奇心の隠せない、年相応の子供っぽい表情に、僕はようやく、この子が外見相応の子供なんだと確信できた。
「………わかりました。
しかし、塩の値段はそのままに、後程情報についての商談をしませんか?」
「いいえ、情報なんて実体の無いものには、こうして形を与えませんと、流れる水のごとく、手のひらからこぼれてしまうんですよ。
確かに高い情報料かもしれませんが、納得していただける額だと思いますよ?」
「確かあなたは、お知り合いにその情報を届けるために、旅をしてきたのでは?それをここで、我が商会に売ってしまってもいいのですか?」
「情報は、生魚のように痛みやすく、時間が経てばタダ同然。しかし、鮮度と質、売る場所と相手さえ見極められれば、それは黄金と同じ価値を持つと心得ています。
それに、いい情報というのは、確かに秘すべきものですが、明かすべき相手に明かせば、さらに多くの利益に繋がるものです」
「我々が、あなた達の商会よりも利益をあげる可能性は考えないのですか?」
「それは仕方がありません。もしあなた方が、僕らの商会より得をしたからとて、それでもあなた達が、この情報を知らないよりは、知っていてもらった方が、最終的な利益に繋がるのですよ」
「はぁ………」
やはりよくわかっていないセン君。しかし、僕の本音を漏らせば、実は情報なんてタダであげてもいいのだ。
しかし、タダであげた情報、というのは、それはそれで疑わしい。最悪信じてもらえない可能性もある。
最終的に、この商会の支店を僕の街に呼びたいという目的がある以上、ここで下手を打って、ザチャーミン商会に疑心を抱かれてはたまらないのだ。
「しかし、塩壷1つにつき、銀貨2枚は法外でしょう?
銅貨80枚でお願いします」
だから、少しくらいまけてあげてもいい。
のだが!
「いえいえ。
こちらも安い商売をしに来たわけではありませんので、銀貨1枚と銅貨90枚でお願いします」
そこはやっぱりビジネス。できるだけ高く売りたい。というかお金がほしい。
「しかし、それが有用かどうかはわかりませんので、こちらとしても、銀貨1枚が限界ですよ」
「いえいえいえ。
この商会であれば、もたらす情報の価値は、無限にあります。ゆくゆくは天帝金貨も夢ではありませんよ?
銀貨1枚と銅貨80枚」
「まず銀貨1枚で商談してから、利益が出ればその1割。本当に有用でしたら、それで構わないのでは?」
「いえいえいえいえいえ。
確かにあなたの商才は認めましょう。そのお歳という事も考えれば、末恐ろしいほどだ。
しかし、この商会に属する全ての商人が、あなたと同じとは、とても思えません。勝手のわからぬ異国の地の情報を、上手く活用できるかは、そちら次第なんですよ」
「銀貨1枚と銅貨20枚!」
「銀貨1枚と銅貨75枚!これ以上はまかりません」
「銀貨1枚と銅貨30枚!こちらとしても、これが限界です」
「大まけにまけて、銀貨1枚と銅貨68枚!ああ………、会頭に怒られる………」
「そんなの、こっちだって同じですよ!!ウチの親父は凄く怖いんですからね!!銀貨1枚と銅貨37枚!」
「銀貨1枚と65枚!」
「銀貨1枚と40枚!」
「1枚と67枚!」
「増えてるじゃないですか!?1枚と42枚!」
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「これはいい武具ですね、この情報も、もちろん料金に含まれているんですよね?」
「敵いませんね、セン君には………。あながち無関係な品でもないのでいいですが」
僕とセン君は、丁々発止のやり取りを終え、お互いに握手を交わすと、品物の検分を始めた。とはいえ、やることは塩の計量と、武具の鑑定だけだ。
本当に一回一回量るようだ。
「いやぁ、それにしても、これだけの塩があれば、高騰も回避できますね。
ふふふ。買い占めた業つく張りどもの泣き顔が目に浮かぶようです」
僕の馬車には、最初に持ってきたより多くの塩が積載されている。さっき売った分も含め、他の商人が持ち込む分もあるので、この街の塩の備蓄は、かなり潤ったことだろう。
そこら辺も考えての、値上げ交渉だったのだから。ホントだぞ?
「塩28壷、剣12振り、槍7振り、盾2枚、しめて金貨15枚と銀貨8枚、飛んで銅貨82枚です」
おおっ!武具の代金は、やはり結構高い。
コーロンさんの言った通り、質のいい方を持って来なくてよかった。天帝金貨に届いたかもしれないことを思うと、少し惜しい気もするが。
セン君は、再び呼ばれた大人の人達に、テキパキと指示を出して、商品を運ばせていく。
ホントに、この子は末恐ろしいな。
将来、僕の街がセン君に占拠される未来に戦慄しながら、僕は営業スマイルで片手をあげた。
「いやぁ、いい取引ができました。
今後とも、我がパイモン商会をご贔屓に」
「ちょっと!まだ情報をもらってないですよ!」
「冗談ですよ」
まだ代金もらってないしね。
今はまだ、可愛いセン少年をからかっていられることに安心しつつ、僕は今日初めて、セン君の前で本気で笑った。