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 モフモフ天国っ!?

 獣人の国、ズヴェーリ帝国。

 皇帝ヴェルブリュート・カルル・ゴトフリート・ズヴェーリ8世の治める、真大陸では割と新興の国家で、住民の7割が獣人であり、残りの3割が他種族で構成された国である。


 この国が建国された大元の理由は、実は人間にある。獣人は、今も昔も労働奴隷として重宝されていた。普通の債務奴隷もさることながら、昔は奴隷狩りの被害に遭う獣人があまりに多かったそうだ。

 そこで、奴隷狩りの被害から逃れるべく、初代の皇帝は真大陸本土から少し離れたこの地に国を建国したらしい。今でも、この国への出入国の際には、厳重な審査があり、もし、奴隷狩りを行えば、如何な種族であろうと、極刑に処されるそうだ。


 因みに、僕たちは入国審査を通っていないので、これはコーロンさんに聞いた話だ。


 その通り!密入国だ!




 僕がどこで、こんな事を考えているのかと言えば、ズヴェーリ帝国、帝都ゴーロト・カローナ、その城壁の外である。

 街に入るため、100人程度の獣人や人間が列を成している。恐らく、商人や旅人だろう。僕らもそこに並んでいるのだ。


 「次の者!」


 獣人の兵士が、大きな門の近くで、都市内に入る人間をチェックしている。

 みんな獣耳かと言えば、そうではなく、顔全てが獣の獣人や、上半身は人間でも、下半身全てが獣の者もいて、どこに獣の特徴が現れるのかは、人それぞれのようだ。

 列は、意外とスムーズに進むので、あまり待つということもないだろう。少なくとも、ここで旅と同じだけの時間を使うことはあるまい。

 僕らはここに来るまで、あまり堪能できなかった景色などを観賞して過ごす。緑溢れる平原と、城壁のミスマッチさが、異世界情緒溢れてて良い感じ。




 「次の者!」


 ようやく僕らが呼ばれ、門兵の居る所に進み出る。

 担当する兵士は、馬のような下半身に、頭の真ん中だけ、やけに頭髪の量が多い獣人だった。二足歩行のケンタウロスみたいだな。


 「商人か。積み荷は………、ふむ。武具と塩か。済まんが、本当に塩か検分させてもらう」


 そう言うと、兵士の人は1つ1つの壷から、1摘まみずつ塩を舐めて調べていく。

 うわーっ。多分麻薬なんかの密輸対策の検査なんだろうけど、大変だぁ。僕は絶対やりたくない。


 「確かに全て塩のようだな」


 「ええ。あ、よかったら水をどうぞ」


 塩ばっか舐めてたから、舌がビリビリしているはずだもんね。


 「おお!これはすまんな。武具も、うむ。なんの問題もない。良い武具のようだ。積み荷はなんの問題もない。

 ああ、それと、モーモは酒場近辺に連れていくなよ?

 入ってすぐの場所に、モーモを預ける場所がある。代わりに馬を貸してくれるから、移動もできる。国営だから安いしな。


 さて、身分証を見せてくれ。それが確認できれば通って良いぞ」


 よし。とうとう来たか。


 「あ、それが、実は魔獣の群れに襲われて、馬車1台ごと谷底へ………」


 「なんと!さらにもう1台馬車を持っていたのか。見た目によらず、やり手のようだな。

 しかし、それは不運だったな。馬車1台の損失は安くなかろう?」


 「いえ、護衛のこの人のお陰で、僕も妹も、使用人のこの子も、かすり傷1つありませんでしたからね。

 いやはや、命は金で買えない、ってつくづく思い知りましたよ。あはははは」


 「そうだな。命あっての物種と言うしな。なんにせよ、無事でよかったな。


 しかし、そうなると入市税が高くついてしまうぞ?持ち合わせはあるのか?」


 「所持金も全て魔獣の腹の中ですからねぇ。

 現物での納品はできますか?」


 「ああ。この塩なら、全員で壷3つと言ったところか」


 「武具でも良いんですよ、兵士さん?」


 「ハッハッハ!!

 下っぱ兵士に、こんな上等な武具が支給されるわけ無いだろ。それより塩の効いたうまい飯だ!」


 「さもありなん」


 楽しく話しながら、僕らは塩の壷を兵士の人達に渡す。いやー、嘘八百を並べ立ててるとは思えないほど、滑らかに舌が回る。


 「よし。これが入市許可証だ。無くすなよ。

 それと街を出る時は、改めて身分証を見せてくれ。わかっていると思うが、身分証の無い今の状態で犯罪を犯せば、弁明の機会すらなく牢屋行きだから気を付けろ」


 「ありがとう。まぁ、僕に犯罪を犯せるだけの度胸なんてありませんけどね」


 「ハッ!商人の見た目と言葉なんて、なんの保証にもならんっての。じゃあな、気ぃつけろよ」


 僕らは手を振り、その場を後にした。




 「いやー、気の良い兵士さんだったね?」


 「はい。とてもいい人のようでした!」


 ウェパルが元気に言うと、コーロンさんがそれに注釈を入れる。


 「普通は、もっと厳しい審査をやらされんぞ。1人1人個別に面談させられたり、出身地やどこで仕入れた品か、ってな。

 アレは単に、キアスがあの兵士に気に入られたお陰で、審査が弛かったんだろ。

 こんの人たらしめっ!」


 そうなのかな。いや、実際、僕やフルフルのような、得体の知れない生物が中に入っちゃってるからな。あの門兵さんは、職務怠慢の謗りは免れないか。


 「キアス、お水のみたいの」


 「あいよー」


 僕は水の入った皮袋を、フルフルに投げてやる。


 何はともあれ、ようやく僕は、人間の住む街に来れたわけだ。

 長かったな。初めて外出を決意してから、今まで約1ヶ月。

 そしてようやく今、僕の目の前には、人の住む町が広がっているのだ。




 あちこちモフモフな街だけど。





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