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 ラブコメは突然にっ!?

 城壁都市。


 長大な長城迷宮内部に存在し、3階層の都市である。ある程度の広さはあるが、壁の両側に商店を造っては手狭なので、片側に寄せた。もう片方の壁には、ガラスで出来た窓を嵌め込み、ダンジョンを一望できる。入り口は、長城迷宮入り口の、階段の中間地点。本当は踊り場のつもりで造った場所なのだが、トリシャ達が夜営できるほど広いので、ここに入り口を造った。搬入などには、別の入り口がある。


 商業区は、入り口の近くにあり、そこが長城迷宮の中間地点である。そこから両端に向け、商業区が延び、100km程が商業区である。そこから先は居住区。住宅の規模や、大きさに区別はなく、皆一様に同じ大きさ、同じ形だ。そして、長城の両端は浄水施設。そう、ここでも無限に塩を作るのだ。

 いや正直、ここで出来る塩は要らないので、水を取り出した後は、海に再放出している。

 あんまり取りすぎると、塩の値段が下がるのだ。


 その、城壁都市が真大陸と魔大陸、両方の長城に1つずつ造られた。


 商店は、これから増えてくれればいいが、とりあえず僕も、塩と武具、あと宿を経営しようと思っている。宿は、木賃宿程度の安い宿の予定だ。僕は商店を出すのにお金がかからないからね。

 おっと、商店を出す際はちゃんとお金をもらうよ。入り口に近いほど高く、遠いほど安い値段で、土地を貸す。1年に1度、決まった額納めてくれれば、税金は取らない。ぶっちゃけ、計上とか面倒臭い。それで商人が集まってくれるなら、なんの問題もないのだ。ただ、犯罪の取り締まり組織や、医療施設も格安で利用できるようにしたいとも思っているので、完全にロハというのも無理だ。


 今はまだ構想の段階であり、住人は1人も居ないので、先の話なんだけどね。



 『マスター、ズヴェーリ帝国に入りました。首都の場所はわからないので、ここから先は、コーロンに聞いてください』


 「と言われてもなぁ………」


 長かった空の旅も、そろそろ終点である。ずっとペダルを踏んでいた足が疲れた。

 後の方では、ウェパルも流石に飽きたのか、ちゃんと話し相手をしてくれた。コーロンさんは相変わらずで、フルフルは1度起きてから、また白目を剥いて気絶した。


 この様子では、1度地上に降りなければ、コーロンさんが使い物にならん。

 あまり人のいなそうな、深い森を見つけ、そこに着陸する。

 結構な高度を飛んでいたので、降りるのにも時間がかかった。


 「あー、やっぱ地に足がついてるっていいな。無重力は落ち着かないや!」


 地上に降りて、軽く伸びをする。固まった体を、少しずつ解すと、とても気持ちいい。


 「ふわふわしてて楽しかったです!」


 ウェパルは元気だね。


 他の2人も見習って欲しい。フルフルは気絶したままだが、コーロンさんはいち早く馬車から降りると、膝を抱えて落ち込んでしまった。自分が高所恐怖症だと知らず、あんな醜態を晒してしまったのなら、確かに落ち込むかもな。


 「コ、コーロンさん?」


 「キアス………、アタシはもうダメだ。アタシはてっきり、自分は怖いものなど無い、気骨のある女だと思っていた。………それが、あの体たらく。もうダメだ。アタシは、アタシが信じられねぇ。女子供みてえに震えて怯えるなんて、ははっ、昨日のアタシが、今のアタシを知ったら、スゲー軽蔑すんだろうな………。いや、今のアタシすらも、アタシを軽蔑するよ」


 こ、これは………。


 思った以上に重症そうだ。


 「コーロンさん」


 「キアスもアタシに幻滅しただろう?あんなみっともねえ姿を見せて、幻滅されねえわけがねえ。仲間にした事を後悔してんだろ?そりゃそうだ、こんな意気地無し―――」


 「コーロン!!」


 僕が張り上げた声に、コーロンさんと、ウェパルがビクリと肩を震わせる。


 「コーロン。

 僕は、君を軽蔑なんかしない。幻滅もしない。この先何があったって、君を仲間にした事を、後悔なんて欠片もしない。


 前に他の人に言ったことがあるんだけど、僕は僕の仲間を侮辱する者を許さない。それが例え本人であってもだ。


 自分を卑下するな。君は今でも、とってもカッコ良くて、とっても可愛いよ」


 僕がそう声をかけると、コーロンさんはようやく顔を上げた。

 自信無さげに下を向くオオカミの耳も、ぺたんと地を這う銀の尻尾も、涙に潤んだ瞳も、とっても可愛らしい。


 オオカミの耳のある頭を、優しく撫でる。


 「コーロンさん、元気を出して。これまでみたいに、元気に笑っているあなたが、僕は好きです」


 ふちゃふちゃの銀髪を、手ですくように撫でると、なんとも言えない気持ち良さだ。

 やや赤くなった目元や頬が、ここにきて一層色付く。やはり、僕のようなお子ちゃまに、頭を撫でられるなんて、恥ずかしいのだろう。

 僕は空気の読める男なので、すぐに頭から手を離す。


 「あ………」


 コーロンさんが、頭から離れた手に、なぜか未練がましい視線を送っていた。


 「キ、キアス………、その、ありがとな」


 そっぽを向きながら、そう言うコーロンさん。




 って何この空気!?ラブコメ!?ラブコメなのか!?


 いや。いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやい。

 こういうのは大抵、自意識過剰なんだ。考えても見ろ。僕は生まれたばかりで、コーロンさんは大人のお姉さんだ。恋愛対象になんかなるわけがない。つか、そもそも種族が違う。コレは、アレだ。ただ単に、高所恐怖症がバレてしまったことに対する、その、恥じらいだ。決して吊り橋効果なんかじゃない。

 勘違いすんなよー。現実の『勘違いしないでよねっ!』は、思った以上にクるんだぞ?『ハァ?勘違いしてんじゃねぇよ。キモいんですけど〜。マジウケる。ギャハハハハ〜』くらいに考えとけよ、僕。


 軽く戦慄を抱きながら、僕はコーロンさんに、手を貸して立ち上がらせる。


 「でさ、首都の位置なんだけど―――」




 この時、僕もコーロンさんも、忘れていた。


 この森には、一時的に着陸しただけなので、首都の場所がわかれば再び空の旅が再開されることを。




 5時間の予定だったフライトは、コーロンさんの心理的悪天候と重なり、6時間30分の旅となった。





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