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 空の旅路と昼の月っ!?




 暇だ………。




 空の旅がここまで暇だとは思わなかった。

 結構な速さで移動しているので、数時間後には帝国の首都まで行けるはずなのだが、いかんせん乗組員達が、1人も口を聞かないんじゃ、普通の数十倍早い旅路も、長く感じてしまう。

 「アンドレ」


 『なんですか?』


 僕は、胸ポケットのアンドレに声をかける。


 「あとどのくらいだろうな?」


 『この速度を維持すれば、あと5時間と言ったところでしょうか』


 「長いなー」


 『普通の馬車であれば、1ヶ月以上かかる道程です。破格以上に破格な時間短縮と言えます』


 「そーなんだけどさー、話し相手がいないと、なんとも………」


 『では、今の内にやらなければならない事をやりましょう』


 「やらなきゃならない事?」


 僕が首を傾げると、胸ポケットからは呆れたような声が返ってくる。


 『やらなければならない事は山積しています。街造りと、その街と他の街とを繋ぐインフラ整備。住居、商店等の区画整理。食糧自給を支える穀倉地の整理。


 おまけにあなたは、奴隷解放を言い出した際に、もう1つ厄介な事を言い出したでしょう?』


 「あ。ああっ!そうだった!」


 ウェパルや、コーロンさんの一件ですっかり忘れていた。


 『全く。あなたが言い出したんですよ、今まで下準備をしていた私の身にもなって、反省したならそこから飛び降りてください。反省がないようなら突き落とします』


 「死にたくないよー、ごめんなさいアンドレさん!」


 『まぁ、街ができなければ、まだ価値の無い代物なので、良いですけど』


 「でも、一応見せてくれよ。どんなのか見たい!」


 『『製作』の欄に追加しておきました』


 僕はスマホで、素早くそれを造り出した。




 綺麗な銀色の板が出来上がる。




 半月のような、綺麗な半円の板。手に摘まめるような大きさで、表面にはあの天空迷宮が刻まれている。裏面には、『魔』の文字。こちらの世界の文字ではなく、漢字だ。


 「おぉー、いいじゃないか!」


 『まずは、価値に合わせて半円にしました。そして、ダンジョンを象徴するように天空迷宮を描き、裏面にはこちらの世界では、ただの模様であり、使う際には、普通の人でも忌避感を抱かないよう、しかしあなたを示すよう、『魔』の文字を刻みました』


 うーん、よく考えてある。確かに、普通の人が持つのに、意味がわかるように僕を表す文字が書いてあったら、駄目だな。その点、これなら意味不明な模様で済む。達筆な漢字なので偽造防止にも繋がる。まぁ、その心配はあまり無いんだけど。




 『しかし、通貨の発行とは、大胆な行動ですね』




 呆れているような、逆に驚いているようなアンドレの声に、僕も苦笑する。


 「いや、正直、他国の通貨に、市場を独占されるわけにはいかないんだよ。

 僕らは交流を目的としてるけど、それを面白く思わない人って、きっと出るから。その際、通貨を押さえられたら大変なんだ。二束三文で街の品を買い叩かれることも、逆に莫大な金額で物を買わされる事もあり得る」


 『ならば自分で通貨を発行し、牽制を行うと?』


 「ああ、僕らが発行するのは、天帝国の発行する、銀貨、金貨、白金貨、そして天帝金貨の、丁度半額の通貨だ。まぁ、あくまで現時点での、ね」


 通貨の値段は、僕がこれから作る街では、塩で決まる。銅貨50枚の価値がある塩が、僕の造る銀貨1枚で買える。くどいようだが現時点で、である。

 つまり、普通の銀貨の半分の価値、中間貨幣を造るのだ。


 だって、銅貨90枚とか払いづらいでしょ?銀貨1枚出して銅貨10枚貰えばいい事なんだけど、だったら50枚ならどうすんだって話よ。そこに中間貨幣として、僕の造った通貨が流通すれば、皆は買い物が楽チン。僕も通貨の信用度が得られてハッピー。

 もし、現行の通貨の価値を変えられても、僕は価値の変わらない自分の通貨を使うし、通貨価値の変動は民衆の信用度を著しく下げる。何より、今現在使い安いように発行するのに、その価値を変化させて、使いにくくされたら、貨幣の信用度以前に、民衆の支持を失ってしまう。


 つまりはそういう牽制である。




 まぁ、どの国も当然のように天帝国の発行する通貨を使用している、通貨の意識が低い世界なので、心配しすぎかもしれないが、しすぎて困ると言うこともないだろう。


 問題は、ダンジョン以外で現行通貨の半額という価値を保てるか、である。

 信用度の話になるが、僕のダンジョンで決まった量の塩と交換できるからといっても、離れた地域では意味がない。そもそも、交換に赴くことができないからだ。そこは、訪れる人々が、この通貨の有用性を知って、それが広まるのを待つしかない。もし信用度が得られなければ、僕の造る貨幣の価値が低くなり、結局僕の街の商品は、買い叩かれてしまう。

 とりあえず、アムハムラ王国と、できればズヴェーリ帝国で定着してくれれば嬉しい。


 「そうだな、やっぱり名前を付けるなら、『半銀貨』『半金貨』『半白金貨』『魔王金貨』ってところか?」


 『魔王金貨だけ、信用度が得られないかもしれませんね』


 「うわっ………!なんか嫌だなそれ」


 実際、あまり流通に乗らない魔王金貨を造る意味は、あまりない。信用度が得られなければ、廃止しても構わないんだけど、そうなると既に持ってる人は大損だな。今からでも取り止めようか。それとも、やっぱり名前変えようかな。でも、半天帝金貨とは、勝手に名乗れないよな。発行元が違うんだし。

 因みに、魔大陸にもこの通貨を浸透させようと思っている。今の、まともな通貨の無い現状に、僕が価値を保証する通貨を流せば、そこそこ浸透すると思う。魔族の殆どが、計算もできないおバカさんでないことを祈ろう。




 『インフレ、デフレには気を付けてくださいね。まぁ、急激に塩の価値が下がらない限り、恐らくは大丈夫でしょうが』


 僕のダンジョンでは、塩は無限に採れる。だが、だからといって際限なく売りに出せば、価値が下がる。まぁ、そこは通貨の発行枚数と合わせて、吟味していかなくてはならないので、僕ではない誰かに頑張ってもらおう。


 「よしっ!出来た」


 『話の最中に、街を造り上げるあたりは、ダンジョンマスターに相応しい所業ですが、些かぞんざい過ぎませんか?』


 「たってなぁ、別にトラップを造る必要はないし、上下水道だって今までの焼き直しだし、強いて言えば、『非殺傷結界』を全体に付与するのは、初めてだな。けど、実験はコションの時に済ませてるし」


 『まぁ、あなたの非常識さを、私が注意できた義理ではないのですけど。でも、これだけの街を、片手間で造ってしまうのは、やはりどうかと思いますね』


 「確かにな………」




 僕は苦笑しながら、セーブし、ものの数十分で、街を2つ造り上げた。




 暇だ………。





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