快適な旅をお約束っ!?
コーロンさんの頼みで、奴隷狩り被害者を救済することとなった。
勿論、大変だし、問題も山積みなんだけど、僕的にも、気が進まないということもない。この世界で生きる以上、やはり楽しく、且つ気分良く生きたい。誰かが無理矢理奴隷にされていると知って、それをなんとかできるかもしれない機会を得ていながら、知らん顔で楽しくは生きてはいけないと思う。
さて、じゃあ山積している問題から片付けていこう。
まずは、解放した奴隷の受け入れ先である。
コーロンさんは、獣人の王国、ズヴェーリ帝国に伝手が有ると言っていたが、まずはそれを確認しなくてはならない。と言うか、本当に皇帝と交渉できるだけの伝手なのかどうかが、目下最大の懸念材料である。
もし本当なら、コーロンさん、一体何者?
とまぁ、とりとめもない事をつらつらと考えていても始まらない。とりあえず、とっととズヴェーリ帝国まで行かなくては、話にならないのだが、心配事が1つ。
僕、フルフルは勿論、奴隷だったウェパルやコーロンさんも、身分証を持っていないのだ。さすがに、身分証もなく、すんなりと町に入れるわけはない。入れたとしたら、逆に獣人の国が心配である。
そこで一計を案じる事にする。名付けて、
『商人だけど魔物に襲われて、馬車ごと身分証が無くなっちゃった作戦!!』
である。
ごく普通の商人キアスと、妹のフルフル。使用人のウェパルと、護衛のコーロンさん。
そういう作戦である。ちなみに商品は塩。水を生む過程で作られるため、余りに余っているので、むしろタダでだって引き取ってほしい。いや、ちゃんと換金するけどね。
他にも、僕の作った武器を少々。良い値で売れたら嬉しいけど、二束三文だったら泣く。あと、ダンジョンの宣伝用に、トリシャにもあげたアイテムもいくつか持って行く。これで市場調査もできる。
よし。準備はこれでいいかな?
オーク達の手を借りて、馬車の荷台には所狭しと塩の壷が並べられていた。時空間魔法を付与した、魔法の袋(鎖製)にも、かなりの量が積み込まれている。これでも、このダンジョンの備蓄は全然痛まない。というかもっと持っていきたいのだが、あまり多すぎれば買い叩かれるのがオチである。
さて、普通はここで大きな問題があるはずなのだ。
どうやって、遠く離れた、それこそ真大陸を横断するほど離れたズヴェーリ帝国まで行くのか。
である。
実はすでに解決策はあるのだ。というか、大分前からあった。なんとなれば、地下迷宮や困惑の迷宮を造る前には、既に移動手段だけはあったのである。
しかも2つ。
1つは船。
本来、『魔王の血涙』周辺海域は、航海に適さない、速い海流が縦横無尽に暴れまわる、魔の海域だ。
魔大陸だけに、なんて下らないことは言わない。思っても言わない。
さて、そんな海域で、なぜ船かと言えば、簡単な話だ。
確かに、海流は問題だ。この世界で一般的な木造船であれば。
いや、最新鋭の大型船でも、海流に流されることは有り得る。しかし、それでも何故問題にならないかといえば、動力があるからである。多少船が流されても、推進装置さえあれば修正が効く。帆船では無理でも、僕ならこの海を航行する船を造ることは可能なのだ。問題は、詳しい造船の知識が無いことだったのだが、それならばと、僕が造ったのは、
潜水艦である。
『いや、なんで船の知識も無いのに、いきなり潜水艦なんだよっ!?』
というツッコミはもっともである。
潜水艦を造るには、船の造船より遥かに詳細な知識と、技術が必要である。
ここが異世界で、僕が魔王でなければ。
簡単な話だ。
僕の造る迷宮は、その内部と外部を完全に隔絶する。つまり、この潜水艦は、水中を移動する、僕のダンジョンなのである。
だから水圧の影響は、この際一切無視できる。さらに、最大の問題である空気だが、時空間魔法で地上から持ってくる事が可能である。まぁ、転移陣では無理だったので、さらに上位の魔法で空間ごと繋げた。だから、この潜水艦の入り口は、地上にある。まぁ、ちゃんと出口もあるけど。無いと、どこに行こうと外に出れない事に気付いたのは、実はちょっと後だったりする。我ながらつくづくバカだと思った。
バラストは普通に海水。動力はスクリュー。魔法で動かすので、危ない動力炉など必要ないエコ仕様だ。僕は、無機物ならなんでも作れるけど、非核三原則は守るつもりだ。
えーと、『持たない』『作らない』『生み出さない』だっけ?
とまぁ、長々と説明したけど、今はどーでもいい。
だって、今回は潜水艦使わないし。
いや、潜水艦がいきなりザバー!「やぁ、僕は普通の商人だよ!塩買って」って、どう考えても不自然すぎるだろ?僕の知識では、地球でだって不自然なはずだ。いや、人間に対する知識は無いので、絶対とは言わないけど………。
さて、潜水艦で行かないのなら、何で行くか。
飛行機である。
あー、ダメだ。さっきから全然異世界らしくない。いや、僕のせいなんだけどさ。
こっちは、飛行機と言ったって、別に迷宮として造ったわけではない。言わば、学ランや、転移の指輪のようなアイテムとして造ったものである。
この2つの違いは、迷宮は維持さえしていれば、半永久的に不滅であるのに対し、アイテムは消耗し、磨耗し、壊れるという点である。
例えば、学ランは剣で突けば破れるし、指輪は金槌で叩けば粉々になるし、魔道具は、それに込めた魔力が尽きれば自然と壊れる。
さて、飛行機の話だ。
いや、飛行機と言っているが、別に翼はないし、あの流線型のボディもない。
大きな鉄の車輪に、頑丈な荷台。布さえあれば立派な幌を付けることもでき、御者台も、全金属の高級仕様。長旅でも壊れにくく、しかし金属でありながら、軽量化に成功した車体は、燃費を抑えつつ、走行距離を伸ばした、世界にただ1つの、
馬車である。
動力は、魔獣モーモ。温厚な性格で、人を襲わない数少ない魔獣だ。牛のような角、牛のような鳴き声、牛のような姿だが、走ると馬よりは遅いが、そこそこ速い。牛じゃん!と思うなかれ、乳が超不味い。1度飲んで、吐いた。でも、僕のダンジョンの貴重な労働力なのだ。あ、因みに、アルコールの臭いを嗅ぐと、急に暴れだして人を襲い出すので、モーモと旅をする時は禁酒だゾ!
別にモーモに飛行能力があるわけではない。飛行するのは、やはり馬車の方である。
ここでも、地球の知識を魔法を使ってぶっちぎるのだ。
重力魔法と風魔法を併用し、揺れない、速い、静か、と三拍子揃った逸品中の逸品である。
ただ、人に見られないようにしないと、後で大騒ぎになってしまうので、気を付けないといけない。
え?そんなしち面倒くさいことしなくても、時空間魔法で行けば良いって?
ちっちっち。大事な事を忘れてるよ。
僕、いまだに魔法、使えないからね。
ここまで、散々魔法を使って、常識とか物理法則とかぶっちぎってきたけど、それってあくまで、ダンジョン内の話だからね。ダンジョンから一歩出れば、僕はただの、ひ弱な子供でしかないんだよ。魔法は使えないし、力もない。もう、ただの一般人以下。
今まで会った人の中で、ステータスで勝ってるのなんてウェパルくらいのものだ。
泣いてないよ?
ちょっとしょっぱい夕食を食べて、早めに床に入る。明日はとうとう、念願の町へ行ける。
興奮と不安がない交ぜになり、僕はなかなか寝付けなかった。