彼女達の夜明け。
暗い。
でも明るい。
不思議な場所。
私は、お願いされたの。
その日は結局、ご主人様は、『じゅんび』が忙しいらしくて、おでかけはできなかった。
ちょっと残念。
オークさんも、ゴブリンさんも、皆見た目はこわいけど、とってもいい人。でも、ご主人様は生まれてから一度も『だんじょん』から出たことがないんだって。かわいそう。
だからおでかけしたかったけど、でも明日は獣人の国に行けるんだって。私も行ったことないから、すっごく楽しみなんだ。
私とコーロンさんは、一緒の寝室に入った。
コーロンさんは、ご主人様にもらった、『がくらん』を着てから、とってもご機嫌。なんでも、すごくいい服なんだって。確かに、つるつるして、全然チクチクしない。でも、コーロンさんはボタンを止めないで着てる。パイモンさんが注意したけど、ご主人様が、
「よく似合ってる」
と言ってからは、何も言わない。でもやっぱりだらしないよね。
寝室には、柔らかい光がふっていて、とっても気持ちいい。寝るときは『おふ』ってゆうと暗くなる。あと、毛皮があって、それにくるまって寝るんだ。コーロンさんと一緒だと、とっても暖かいと思う。昨日はフルフルと寝たけど、ちょっと冷たかった。
「お休み、ウェパル」
コーロンさんが、私の名前を呼んでくれる。
名前。
奴隷の子として生まれた私には、これまで名前なんてなかった。ご主人様が、私に名前を付けてくれてから、私は自分をウェパルと呼ぶようにした。
だって嬉しかったんだ。みんなが、持ってる名前が、これからは私にもあるんだ。
ご主人様のところにいると、とっても楽しい。
「お休みなさい、コーロンさん!」
だから私は、お休みなさいを、元気良く言ってしまった。普通は静かに言うものだよね。
コーロンさんは、苦笑いしてから、私を抱き寄せた。前はよくこうしてもらって、寝てた。私が前のご主人様に怒られて泣いてる時とか、叩かれて痛かったときとか。でも、いまは全然悲しくも痛くもない。だから、ちょっと恥ずかしかった。
「ウェパル」
コーロンさんが、静かに私の名前を言った。
「なぁに?」
「お前は何で、魔王の仲間になったんだ?」
暗くてわからないけど、コーロンさんは不思議そうな声で聞いてきた。
「お前だって、魔王の怖さは知っていただろう?
いや、死にかけていたお前を、キアス達が助けたのは聞いた。確かにキアスなら、信用するに値する。でもな、普通はそれでも魔王の仲間になんてならないぞ?
アタシだって、お前がキアスの仲間でなければ、どんな甘言を労されても、恐らく仲間になんてならなかった。まして気弱なお前ならなおさらだ」
うーん。コーロンさんは、ちょっと勘違いしてるみたい。私は、気付いたときにはご主人様の仲間になってたし、そうしなきゃ助けられなくて、強引にそうしたってご主人様はあやまってたっけ。
あやまらなくていいのに。だって、
「お願いされたから」
「お願い?」
「うん。
あのね、ご主人様がウェパルをよぶ前、ウェパル、お腹が空いてちょっと寝ちゃってたの。
そしたら、声が聞こえてきたの」
その声は言ったの。
『今から君を呼ぶ人を助けてやって欲しい。私のせいで、その人はとても苦労しているから。
きっと君にも、とっても優しくしてくれるから』
って。
あ、あとこんな事も言ってた。
『今は、君の魂がこっちに来そうになってるから話せるけど、その人が君を助けたら話せなくなっちゃうんだ。だから、私の代わりに謝っておいて欲しいんだ。大丈夫。ちゃんとすぐ治るから。
その人には、神様だって言えばわかるから、よろしくね』
そう言ってた。
でも神様って、魔王や魔族が嫌いなんだよね?
私が、ご主人様にそう伝えると、ご主人様は笑いながら上を向いて、
「結構楽しくやってるから、大丈夫ですよ」
だって。
ご主人様は、神様に会ったことがあるのかな?
私が、コーロンさんにそれを話すと、コーロンさんは凄く驚いていた。
「ほ、本当に神の声だったのか!?邪神とかではなく!?」
うーん、悪い人の声じゃなかったと思うけど。
「いや、確かにアタシも、本心からアヴィ教の神を信仰しているわけではないが、これは………。下手をすれば、世界がひっくり返る事実だな………。まぁ、誰も信じないだろうが」
「コーロンさん?」
「いや、なんでもない。お前は、キアスが好きか?」
「うん!コーロンさんは?」
「まだわからない、という所だな。確かに、いい奴なんだが………」
コーロンさんは、少し恐い声で、そう言って黙ってしまった。
「………コーロンさん?」
「おっと、大丈夫。キアスがいい魔王なら、アタシの心配も、ただの杞憂だ。」
「ご主人様はいい人だよ!だから大丈夫だよ!」
私は起き上がって、コーロンさんにそう言った。だって、コーロンさんにもご主人様を好きになって欲しいもん。
「ああ、そうだな。ホラ、ちゃんと中に入れ」
「………うん」
「悪かったって。だからもうお休み。明日は忙しくなるんだぞ?」
そうだった。
きっと大変な事になるからって、今日は早く寝ることになったんだった。
私は目をつむって、コーロンさんの側で丸くなる。
ウトウトしている私の耳に、
「アタシだって、アイツを裏切りたくはないよ」
という声が、聞こえた気がした。




