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戦場音楽・3

 滞空するベルベットとヒュリシーの間には、張り詰めた空気が漂っていた。ヒリヒリと肌を炙られるような緊張感だが、両者は微動だにしない。


「「…………」」


 両者ともに、これ以上の空中戦闘を継続する事は難しい。既に、かなり無理をしている現状を考えれば、こうして滞空し続けるのも限界に近い。だが、どちらも現状を動かそうとはしない。

 ヒュリシーとしては、空中戦闘での勝利が確定しているのだが、ベルベットの鱗粉を警戒しないわけにはいかない。下手に近付けない以上は、ベルベットに自ら敗北を認めてもらうのが一番なのだ。ベルベットはベルベットで、いまだ自らの敗北を認めていなかった。

 ゆえに、両者は動かない。


「……ッ!」


 だが、その均衡を保つ事ができなかったのは、ヒュリシーだった。彼女が咄嗟に身を躱すと、そこに一本の投げ矢(ダート)が飛来する。周囲への警戒を怠らなかった彼女は、視界外から放たれた武器にも対応してのけたのである。空中では強風に煽られるはずの小さな投げ矢は、しかし過たずに一瞬前にヒュリシーのいた地点を通過すると、まっすぐに彼方へと消えていった。


 ヒュリシーはその投げ矢の投手を警戒すると同時に、ベルベットに対する警戒も怠らなかった。正直なところ、これ以上空で戦うのは厳しかったが、ならば地上で戦えばいい。どうせ、ベルベットももう空で戦える程の体力は、残っていないのだからと、ヒュリシーはごく短い時間で結論を出していた。


 そして、ヒュリシーが視線を飛ばした先にいたのは、一人のラミアであった。


 あろう事か、そのラミアはヒュリシーの領分であるところの、空にいた。翼を持たぬ魔族のくせに、おかしな円盤の上で、次の矢を構えている。


「あじゅ——さ、かぺぁ……らべっ……」


 風が強いせいか、彼女の言葉は上手く聞き取れなかった。まぁ、戦場の習いに則って、恐らくは名乗りでもあげたのだろう。

 しかし誤算だったと、ヒュリシーは悔悟する。第十二魔王の懐刀、醜悪姫ベルベットは常に孤高の戦いをする。その先入観から、援軍の存在を考慮していなかった。ベルベット以外を相手にしていたら、まず犯さないであろう失態だ。

 しかし、後悔はしても、ヒュリシーに焦りはなかった。

 おかしな空飛ぶ円盤に乗っている事からも、彼女は第十三魔王軍の者だろう。友軍であるベルベットが危機に陥ったから、こうして駆けつけたのだろう。だが、それは軽挙という他ないと、ヒュリシーは彼女の判断を否定する。

 ベルベットがなぜ単独で戦うのかといえば、周囲に与える悪影響が大きすぎるからだ。だからこそ恐ろしいのだが、仲間とともに戦えないというのは、ベルベットの大きな弱点でもあった。

 あのラミアは援軍として駆けつけたのだろうが、もし彼女がベルベットのそばで戦おうとすれば、ベルベットは本領を発揮できない。仲間が周囲にいては、彼女の最大の脅威である鱗粉が使えないからだ。毒の鱗粉がないベルベットなど、恐るるに足らない。

 たしかに多少の時間稼ぎにはなるだろうが、結局目前の敵二人に、連携を取る事などできはしない。ならば、援軍があろうとなかろうと、自らの勝利は揺らがないとヒュリシーは確信する。

 そして、既にかなり消耗しているベルベットよりも先に、まずはラミアを潰しておこうと、ヒュリシーは空を翔ける。


 この状況に、最も動揺したのは、実はベルベットだった。あるはずがないと思っていた援軍が現れた事に、誰よりも驚愕し、恐怖していた。

 援軍殺しなどすれば、今でさえ恐れられている自分が、どれだけ忌避されるだろうかと。間違って死なせ、その遺体すら自分の能力で腐らせてしまっては、第十二魔王と第十三魔王との亀裂になりかねない。そうなれば、次はあの恐ろしい第十三魔王様と戦う事になるのだ……。それは、かなり怖い……。泣きそうだ……。

 しかしそんな事態が、自分が戦えばかなりの高確率で起こってしまう。どうすればいいのか、ベルベットが逡巡するうちに、ヒュリシーはラミアへと襲いかかる。


「愚かな! 自力で飛べぬような輩が空を制すなど、できようはずもなしッ!! その不遜、翼あるすべてのものに対する冒涜よッ!!」

「あが——ぶろばべぼばば——っ……ッ!!」


 よく響くヒュリシーの言葉とは裏腹に、円盤に乗るラミアの声は響く事なく、強風に吹き散らされて誰の耳にも聞き取れない。だが、明らかに空中戦闘に慣れていないラミアは、ヒュリシーの攻撃に狼狽している。手に持っていた得物である投げ矢を取り落としてしまう程の慌てぶりだ。

 そこで、ベルベットは我に返る。このままでは、どちらにしろ援軍の彼女は見殺しだ。明らかに空中戦闘に慣れていないあのラミアでは、ヒュリシー相手に三分と持つまい。

 そう判断したベルベットは、すぐさま彼女の元へと翔け付ける。わずかな躊躇の元、鱗粉の放出を抑えて。

 鱗粉がなければ、ベルベットはヒュリシーに対する攻撃手段を失う。そんな状態で戦闘を継続しても、ヒュリシーのような戦闘のエキスパートを前にして、まともに対抗できるとは思えない。

 だが、そうでなかったとしても、敗北は目前だったのだ。だとすれば、この状況を好機として活用するしかない。できなければ、待っているのは敗北だ。

 いざとなれば、自分の命を守る為に鱗粉を使うしかないだろう。第十三魔王との関係が悪くなる危惧もあるが、向こうに『私に援軍を送る』という手落ちがある以上は、本当に最悪の状況に陥る可能性は低い。そう思い、ベルベットは翔ける。


 状況は悪化の一途だった。

 ラミアの乗っていた魔道具は、ヒュリシーからの魔法攻撃により、黒煙を上げて高度を落としつつあった。十人は乗れそうな円盤だったが、そこにいるのはラミアの女性だけ。その事に微かな違和感を感じつつも、ベルベットはようやく戦闘の渦中へと舞い戻った。

 安定性を欠くその円盤の上で、ヒュリシーとラミアは鎬を削っていた。ヒュリシーとしては、落ちかけているとはいえ、この魔道具の上に足を乗せて翼を休めつつ、先にこのラミアを片付けてしまう腹づもりだろう。ベルベットとしては、自分に注意を向けてラミアの女性をフリーにするか、最悪連携して戦闘を行う必要がある。

 当然ながら、前者の方が望ましいのだが、ヒュリシーがそれを許すとは思えない。


「……ッ!!」


 これまで鞘に収まったままだった曲刀を抜き放ち、ベルベットはヒュリシーへと切りかかる。そこに、ラミアも畳み掛けるように飛叉ひさを放ちつつ、距離を取る。投げ矢や飛叉など、投擲武器を多用するところから、どうやら彼女は遠距離攻撃を使うようだ。ただ、そこまで強力な攻撃という印象は受けず、魔法を使う気配もない。

 ベルベットとしては、彼女が第十三魔王軍の幹部だと知っているが、今までの攻撃に、肩書き程の強さは感じられなかった。もしかしたら、新興の第十三魔王軍には、幹部でもこの程度の強さの者しかいないのかも知れない。

 もしそうなら、第十三魔王軍は本当に、アムドゥスキアス様ありきの烏合の衆でしかない。雑兵など、いくらいても仕方がないのだ。そんな事もあり得そうで、それはそれで恐ろしいと、ベルベットはブルリと背筋を震わせた。


「あが——べっど——しゃんっ!! ぎょていぎゃんぎゃっ!!」


 しかし、それにしてもラミアの女性は相変わらず、なにを言っているのか不明瞭だった。魔法の新しい詠唱方法なのかもしれないが、その割には魔法を使う気配はない。それに、ヒュリシーの注意がそれて比較的余裕が生まれたというのに、相変わらず狼狽しっぱなしで、なにがしたいのかがわからない。

 援軍としてきてもらっておいてなんだが、これならいない方がマシである。

 ベルベットは足手まといでしかないラミアを無視し始め、ヒュリシーもベルベットへ注力し始めていた。哀れなるラミアは、手持ち無沙汰気味に擲箭てきせんを投じつつも、やはりなにかを喚いていた。


 時折飛んでくる投擲武器を短槍で弾きつつ、ヒュリシーはベルベットの曲刀と互角以上に切り結んでいた。第八魔王軍の歴戦の猛者たちに鍛えられたヒュリシーは、当然ながら空中戦闘以外の技能も磨かれている。対するベルベットの曲刀もまた、正確無比にヒュリシーの命を刈り取ろうと振るわれている。

 魔法戦闘を主とする二人であるが、武器を用いた近接戦闘でも、見事な立ち回りを見せていた。


「足りない! 足りない、足りない!!」


 ヒュリシーは自在に短槍を振るう。その技の鮮やかさは研鑽の賜物であり、並々ならぬ鋭さを体現していた。見事な槍技を披露するヒュリシーは、自分に対する死の剣尖に対して吠える。


「まったく足りない! そのような半端な腕で、勝敗を覆すことなど叶わないッ!!」


 たしかにベルベットの剣技も見事なものだったが、それにも増してヒュリシーの槍技は圧巻だった。不安定な足場にも動じる事なく、正確無比な刺突がベルベットを苛んだ。ベルベットも必死に刀を振るい、迫る槍撃を躱していたが、技量の差は歴然だった。

 そしてなにより、ベルベットには近接戦闘の経験が乏しすぎた。虚実入り混じるヒュリシーの技に翻弄されるまま、ジリジリと窮地へと追い立てられていた。

 勝敗は、やはり時間の問題に思われた。


「……ッ!!」

「取ったァ!!」


 そしてとうとう、ヒュリシーの槍の穂先が鮮血を舞わせるに至る。ベルベットの青白い細腕は宙を舞い、トサっと軽い音で魔道具の上へと落ちる。それこそ、彼等の勝敗が決まった瞬間に見えた。決して負けを認めようとしないベルベットすら、この状況からの逆転は不可能だと、心の隅で思ってしまった程だった。


 だが——


「——ッ!? な、ななんだ、こ、ここれはッ!?」


 ——ヒュリシーの戸惑いの声が、決着は未だ付いていない事を物語っていた。

 ヒュリシーは咄嗟に飛びすさり、ベルベットから距離を取る。だが、自身の体に起こった変調は、変わらず自分を苛んでいた。

 ベルベットの毒鱗粉を警戒しての行動ではあったが、しかしそれにしてはおかしいとヒュリシーは感じていた。ヒュリシーとしても、追い詰められたベルベットが鱗粉を放出する事は想定内だった。だから常に、ベルベットの翅と風向きには注意していたのだ。常に風上を取り続け、翅が鱗粉を放つ気配を見せれば、即座にある程度距離を取った。その警戒のおかげか、自分の体毛に、ベルベットの毒鱗粉に触れた際に起こるであろう、腐食は見られない。


 だが、だとすればこの体の痺れはなんだ?


 槍を握るヒュリシーの手は、ブルブルと震えている。力を込めすぎているのだが、下手に力を抜けば、今にも取り落としてしまいそうだ。それ程までに、手の感覚が鈍っていた。いや、手だけではない。全身の感覚が、麻痺しつつあるのだ。舌もうまく動かず、呂律が回らない。

 それは即ち、自らが毒に侵されているという証。


 バカな……ッ!! ベルベットの使う毒は、腐食毒のみ。あの翅から放たれる、鱗粉のみだ。そんなものに触れれば、このような麻痺どころでなく、体の一部が灼け爛れてしまう。

 だがこの症状は、恐らくは麻痺毒の類。つまり、今自分に起こっている異変は、ベルベットによるものではないという事だ。

 やにわに焦燥が胸を駆け巡るも、ヒュリシーには状況の認識すらできていない。そして、突然ヒュリシーが見せた隙を、真剣に勝利を目指しているベルベットが見逃すはずもない。ヒュリシーが飛び退った分空いた距離を、一息に詰めたベルベットは曲刀を振るう。鋭い銀線が閃けば、ヒュリシーは大きく後退し、その肩には大きな赤い筋が走っていた。

 ここにきて、ようやくベルベットがヒュリシーに一矢報いたのだ。

 明らかに動きに精彩を欠くヒュリシーと、片腕で遮二無二刀を振るうベルベット。二人の攻防は、先程までの見事な攻防と比べれば、稚拙なそれだった。しかし、毒が体に回りつつあるヒュリシーと、腕からの出血が、さながら動けなくなるまでの時間を計る砂時計のごとく滴り続けているベルベットの二人の雰囲気は、鬼気迫るものがあった。戦闘は、坂を転げるように、結末へと向かっていた。


「……チッ!!」


 いよいよ体の痺れが酷くなり、足運びにも粗が出始めたヒュリシーは、舌打ちをする。

 そこでヒュリシーは、今までろくに意識もしていなかった、戦場の闖入者に目を向ける。先程は焦って思い至らなかったが、この状況は間違いなく彼女が仕組んだものだろう。


 嫌がらせ程度に投擲武器を放つだけだった、ラミアの女。そのラミアこそ、第十三魔王軍でも指折りの幹部である、ラミアのアルルであるという事を、ヒュリシーはまだ知らない。


 あいも変わらず狼狽を続け、あうあうと意味不明な声を発していたが、彼女の周囲からは白い煙が立ち上り始めていた。その白い煙が、上空の強風に煽られているというのに、どういうわけか魔道具の上にとどまっている。


 くそ、迂闊だった!

 このラミアの女を戦力外と見なしたのは早計だったと、ヒュリシーは悟る。そしてもう一つ、思い出した事があった。

 第十一魔王コションの配下には、稀代の毒使いがいると一時期噂になったのだ。山賊に襲われたからと、山一つを毒霧で覆い、そこに住む生物の悉くを、山賊ごと死滅させた恐るべき毒使い。そんな毒に覆われた山にコション自らが出向き、その毒使いを配下に加えたという噂。すわ、第二のベルベットの登場かと、一時期は魔大陸全土にその噂が広まったのである。


 ヒュリシーが、今ままでそんな毒使いの存在を忘れていたのには、わけがある。そもそもこの噂も、十年以上前に流れたものだった。それからしばらく、第十一魔王の元からは、その恐るべき毒使いの噂を聞く事はなく、実際にコションの主力戦力として名が連ねられる事もなかった。ゆえに、眉唾とされて風化してしまっていたのだ。実際にいたとしても、第十三魔王によって、コションと一緒に滅ぼされてしまったのだろう、と。

 その実態が、毒使いのあまりのコミュ障ぶりに、コション幕下の誰もが意思疎通を諦めてしまい、出世できなかったがゆえであり、一つの町の代官という閑職に回されていたからだ。そんな事情を、第十一魔王軍外の者には知られる事はなかった。

 その毒使いが実は、あの第十三魔王に皆殺しにされたコションの軍勢に轡を並べていなかった事も、閑職に追いやられていたからこそ、彼女は今現在第十三魔王軍の幹部、ラミアのアルルとして健在であるという事も、今まではほとんど知られる事がなかった。

 そんな事情を斟酌できるはずもなく、ヒュリシーは第十一魔王軍にいたはずの幻の毒使いが、今目の前にいる挙動不審なラミアの女性だとは、微塵も思わなかったのである。それを迂闊と断じるのは、いくらなんでも酷な話だろう。


「ぐ……、くそっ……!」


 だがしかし、そんな失態とも呼べないようなヒュリシーのミスが、彼女を追い詰めていく。ベルベットの振るう刀、周囲に漂う毒霧、悪い足場。すべてが、今のヒュリシーにとっては死神の鎌と同義であった。

 どれか一つにでも捉われれば、即座に落命につながる。先程までの余裕は、ヒュリシーの心にはなかった。そして、その焦りこそが命取りとなる。

 近接戦闘の経験が乏しいベルベットが、直接武器を交えた戦いに瑕疵があったのと同様、第八魔王軍が大切に育てあげた将軍、ヒュリシーにも経験が乏しい点があったのだ。


 ————それは、命の危機に際したときの、心構え。


 最後の最後で、ヒュリシーは毒でも技でもなく、焦りに足を掬われる事となる。

 追い詰められたヒュリシーの前に、ベルベットのがら空きの脇腹が目に入る。このタイミングなら、防御は間に合わない。毒に侵されたこの状態でも、一突きくらいはなんとかなる。見事攻撃が成功すれば、既に満身創痍なベルベットには、致命傷になる。もし、なんらかの防御手段が間に合ったところで、最悪身を躱す事は不可能じゃない。

 そんな、ひどく常識的な結論に、切羽詰まった思考は至る。その思考に至る道程が、敵に御膳立てされたものだと気付きもせず。その思考のまま、ヒュリシーは短槍を突き入れ、そしてその一撃は過たず醜悪姫の腹部を貫通した。

 鮮血が舞い、だらんとベルベットの手から曲刀が離れ、カランと転がる。その様に、ヒュリシーは勝利を確信した。


 ——ガシッと、ベルベットの腕に抱き絞められるまでは。


「なッ!?」


 驚愕の声を発するヒュリシーだが、ベルベットは無言。その表情は、初めから一貫しての無表情。まるで、死体のように、彼女の顔には表情というものが浮かばない。それはそうだろう。なにせ、それは()()()()死体・・なのだから。


 ——ずるり。


 ヒュリシーの目に、信じられないものが写る。それは——翅だ。

 ベルベットのトレードマークとでもいうべき、毒々しい蝶の翅。それが、ベルベットの背から離れ、肩を伝って自分へと向かってきているのだ。


「な、なんんなん、なんだ、こここれれは、はっ!?」


 毒によってまともに動かない舌で、それでも精一杯驚愕を伝えるヒュリシー。それはそうだろう。彼女にとっては、意味のわからない事態だ。ベルベットの背から離れた蝶の翅は、しかし虫のように胴体などなく、翅の根元からは無数の細い触手を生やしていた。その触手を、うぞうぞと蠢かせ、翅はヒュリシーへと迫る。

 それでも、もしヒュリシーが冷静であれば、対処法はあった。だが、この常軌を逸したおぞましい光景と、迫る死の気配に、ヒュリシーの心は常の状態を保つ事ができなかったのである。対するベルベットは、目前に迫る死の気配を感じつつも、常に勝利を目指し続けるだけの冷静さを有していた。

 その二人の意識の違いこそが、勝敗を分けたのである。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫をあげるヒュリシー。その背は、異様な状態になっていた。本来の猛禽の翼の上から、毒々しい蝶の翅が生えているような姿になってしまっている。翅から生えた触手が、翼の付け根から体内へと侵入し、ヒュリシーの脊椎と神経を侵していく。その激痛に、ヒュリシーの精神は焼き切れ、意図せず断末魔の叫びが口から放たれる。


 絶叫が途絶え流と同時、ヒュリシーは絶命した。


 ここに、第八魔王軍の歴戦の将軍たちが、手塩にかけて育て上げた空中戦闘のエキスパートであり、魔法と武術の両方に長けたエリート、ヒュリシー将軍の敗北が決したのであった。




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