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 人間と魔族とワガママとっ!?

 勿論、解放すると言っても、借金奴隷だけである。犯罪奴隷が、刑罰として成り立っている以上、そこは触れない方がいいだろう。

 やっぱり、奴隷制なんて現代人としては気分が良くないからね。僕には、都合良く神様から貰ったものがあるし、これからのダンジョン経営には、人員が必要不可欠でもあるのだから。さらに、さっき思い付いた事にも、人間の協力者、取り分け一般庶民の協力者が居る方が望ましい。




 僕たちは、風呂から上がって、オーク達の用意してくれた夕飯を食べていた。


 「キアス様、奴隷の解放と仰いましたが、真大陸中の奴隷を全てキアス様が取ってしまえば、深刻な労働者不足に陥りかねません。それに、扶養する人口が増えすぎて、今の『魔王の血涙』の生産力では、すぐに食料危機が発生しますよ?」


 トリシャが、深刻そうに言う。そりゃあ、これだけじゃ僕が真大陸から人さらいをしているようなものだ。苦言を呈さずにはいられないだろう。


 「大丈夫だよ。僕は何も、今すぐ真大陸に居る全ての奴隷を解放すると言っているわけじゃない。まずは10人くらい呼び出してみて、上手く行きそうなら増やしていこうと思っているだけだ。将来的にも、10万か20万人くらい。それだの奴隷が居なくなれば、奴隷商の多くが首を吊らなきゃいけなくなるね。まぁ、他人の人生を食い物にしてたんだし、自業自得じゃない?」


 「し、しかし………」


 尚も言い募るトリシャ。まぁ、確かに真大陸側に不利益をもたらす、この計画は、僕とアムハムラ王国の友好関係を願うトリシャとしては、簡単には頷けない内容だろう。

 そこに、パイモンがもぐもぐと口を動かしながら、行儀悪く声を発する。


 「いい加減にしなさいトリシャ。キアス様が決めた事に、配下であるあなたが、キアス様のためにならぬ事で文句を言うのは間違っています。

 その程度の覚悟で、あなたは人間でありながら魔王の下についたのですか?」


 パイモンのように、僕らの事情だけを優先するのは、先々いろんな敵を作り、結果として僕らの為にはならないだろうけどね。


 パイモンの言葉に、黙って俯いてしまったトリシャに、僕は出来るだけ軽い調子で聞いてみる。


 「念のため、トリシャにさっき言った事以外に、何か懸念があるのなら聞かせてほしい。

 僕は、できれば人間とも友好的な関係を築きたい。でも、望まぬ環境で、命をすり減らして行く人たちが居る事を、僕はあまり良い状況だとは思わないんだ」


 僕の言葉に、トリシャは気まずげに俯いたまま、訥々と言葉を返してきた。


 「貧しい、………非常に貧しい村落では、身売りというのは一種の、り………臨時収入なのです。

 貧しく、子供を育てられなくなった家は、子供を奴隷にすることで、自分達と子供の命を繋ぐ、と聞いたことがあります。私は、幼い頃は寂れた漁村で育ったので………」


 話しづらそうにしていたのは、別に自分の生い立ちを話す事に躊躇したわけではないだろう。


 トリシャも違和感を感じているのだ。人を金銭で売り買いする歪さに。

 農村が貧しいのは行政の責任だし、彼等が居なくなっても、食べる口は減らない。いざとなっても、奴隷売買がなければ成り立たないようなら、それは既に、状況的に破綻しているのだ。


 「私に言わせれば、同胞を、平気で売り買いしている人間は、魔王よりよほど恐ろしい存在です。まして、自分の子供を売るなど」


 「パイモン、よせ」


 僕が、命令口調で諌めると、パイモンは渋々といった調子で口をつぐんだ。


 「パイモン、お前は人間が人間を売り買いする事を恐ろしいと言ったが、じゃあ魔族は、同じ魔族を使役し、その命を使い潰すような事はしないのか?


 今日死んだコションに引き連れられて来た奴等は、コションの命令でここまで来て死んでいったんだぞ?


 お前や、フルフル。トリシャだって、僕にある程度縛られ、言いようによっては自由のない、奴隷のような存在と言えなくないか?


 そして魔族だって、子供に対して、親が絶対に優しいとは限らない、だろ?」


 パイモンは、言い返すこともなく、ただ俯いてしまった。

 ただ、小さく、

 「キアス様は、私達を大事にしてくれます………」

 と言ってくれたのは、ちょっと嬉しかった。


 「奴隷制というのは、労働力という、1点だけ見れば、効率の良い手段と言えなくもない。ただ、奴隷になった者にとって、世界とは地獄と同義になってしまう。機械のように、要求された仕事をこなし、死ぬまで働かされ、誰かが楽をするために死んでいく。

 僕は、それをなんとかしたい。是正と言うつもりもないし、正しいと公言できるだけの自信もないけど、

 なんか嫌なんだ。


 だから、これは僕のワガママだ。パイモンもトリシャも、それを念頭において考えて、問題があればその都度注意してほしい。


 頼む。」


 頭を下げ、懇願するように言う僕に、俯いていたパイモンとトリシャが苦笑する。


 「キアス様に頭を下げられては、私は抗弁できませんよ」


 パイモンが言うと、トリシャも拗ねるように、


 「そうですね。ズルいですよ、それ」


 と返してくれた。


 本当は2人共、もっと言いたい事もあるかもしれないが、ひとまず僕に協力してくれるらしい。




 良い仲間を持った。


 僕は、こんな良い仲間に囲まれて、こんな幸せで良いんだろうか?





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