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 危機と変化っ!?

 走る閃光と、轟く爆発音。少し遅れて、地面が揺れる。


「どうしたッ!?」


 パイモンやマルコに支えられ、フルフルやミュルの後ろから僕は大声で問いかける。


「右翼でなにかあったようですッ!!」


 さっきの兵士が、僕の問いに答えた。彼の指差す先には中央司令部のある丘があり、その奥からは黒煙が立ち上っている。その小高い丘のせいで向こうは見えないのだが、僕等の見ている前で、丘の向こうから天へ向けて、何度か閃光が走る。それに続き、爆発音まで聞こえてくるとなれば、たしかにあっちでなにかあったのは確実のようだ。


「レライエになにかあったのか?」


 さっき、レライエが右翼でなにか動きがあったと言っていたのを思い出し、僕はぽつりとこぼす。丘があるせいで、向こうでなにが起こっているのかが窺えない。もう一度、飛行機で飛び上がらないといけないようだ。――――と、思っていたら、その丘の向こうから、一頭の龍がその姿を覗かせた。

 黄昏と宵闇の中間のような、薄紫色の鱗を持つスリムな胴に、どこかの黄金の魔王を思い起こさせるような、金の巻角。恐らくは、龍の姿をとったレライエだろう。


「あれは、レライエか?」

「恐らくは。そういえば、彼女の龍の姿を見るのは初めてです」

「僕もだ」


 そういえば、今まで目にする機会がなかったな。距離があるので、どれくらい大きいのかはわからないが、丘を挟んでもあれだけハッキリのと見えるのだから、そうとうな大きさなのだろう。


「なんだって、レライエは龍の姿に?」

「レライエは、普段の姿でも十分強いですが、龍の姿になればもっと強いと、以前聞いた覚えがあります」

「って事は…………」


 もしかして、龍の姿にならなければ勝てないような、強敵が現れたって事かッ!!


「行くぞ!」

「お、お待ちください、キアス様ッ!」


 駆けだそうとした僕の手を、パイモンが掴んで引き留める。


「私が見てきますので、キアス様はここで――――」

「――――いく」

「ですが…………」

「いく」


 僕をこの場に留めようとするパイモンに、僕は有無を言わせずゴリ押しする。

 レライエがピンチかもしれない状況で、暢気に構えてられるかっての。


「心配なら、君が僕の側で、僕を守ってくれ。委細任せる」

「――――はい。…………必ずや」


 なにやら覚悟を決めたような、真剣な面持ちで頷くパイモン。

 そんな深刻そうな顔をしなくても大丈夫さ。どうせ、いつものように、レライエがちょっとやり過ぎているだけに決まってる。

 しかし、響き続ける轟音に、僕の焦燥は募っていった。


 ●○●


「そんな馬鹿なッ!?」


 飛行機を使って上昇し、戦場を俯瞰した僕等は、信じられない光景を目にする事になった。

 あのレライエが、圧されているだと?


 レライエに向けられた光魔法を、彼女は空を翔て躱す。その回避行動をとったレライエに向けて、さらに地上から魔法が放たれ、続けて二つの影も襲い掛かる。

 相手は四人。人型二人に、四足一人、六足一人だ。ただ、あれを四人というのはやや誤解が残るかもしれない。正確には、二人と二頭というべきか。


「あれは……、竜種ッ!? あの二人は、ドラゴンです! 流石のレライエでも、かなり厳しいはずですッ!」

「竜? あんなデカいのがかッ!?」


 真大陸の翡翠龍山で見たのは、もっと小さくてトカゲチックな竜だったぞッ!? ゲームとかだと、レッサードラゴンとかワイバーンとか呼ばれる感じのやつ等だっただろ!?


「それにりゅうは、ドラゴンよりも遥かに強いんじゃないのか!?」

「いえ、必ずしもそうではありません。龍と竜は互いに嫌いあい、蔑みあってはいますが、両者とも絶対的な強者です。それこそ、魔王様にも匹敵し得る程の……」

「な――――クソッ!」


 レライエの竜に対する酷評を、真に受けすぎた! おまけに、真大陸でたいして強くもない竜を見てたせいで、勘違いしてた!

 たしかに、目の前でレライエと二人の竜が繰り広げる怪獣バトルは、真大陸の竜狩りがお遊びに思えるような激しいものだ。あんなものが、レライエの言うように『蜥蜴の親戚』なわけがあるかッ!!


 四足の竜、ムシュフシュ種が襲い掛かると、レライエは尾で強かに打ち付け、地面へと叩きつける。馬の胴体には鱗、前脚は獅子で後ろ足は猛禽、蛇の頭と尾、羽毛ある翼、二本の角を持つ竜は、地面に打ち付けられてもめげず、再び空へと飛び上がる。

 もう一人は、翼がない。甲羅のような鱗に覆われた、六足の巨大なワニのようなドラゴン。タラスクス種。ドスドスと地鳴りを轟かせて走っては、空へ向けてブレスを吐く。さっき魔法に思えたのは、どうやらこのブレスらしい。

 この二人が竜種で、残り二人は魔族のようだ。さっきから魔法を放っているのがクヌムという魔族で、空を飛び回っているのがグザファンという魔族だ。

 羊の頭を持つ魔族、クヌムが杖を掲げて魔法を放てば、翼を持つグザファンはレライエに追い縋る。グザファンの姿は、額に一対の角を持ち、エルフのような尖った耳を持つ、翼人である。クヌムは水平な角を持つ羊の頭以外は、肌色も普通の人間っぽいが、身長が三m以上もある。


 えーっと…………。

 ムシュフシュはたしか、古代メソポタミアがルーツだったはずで、タラスクスは言わずと知れた、キリスト教で有名なローヌ河のドラゴンだ。で、クヌムはエジプトで信仰されていた創造神で、グザファンはルシファーと一緒になって、神に謀反を起こした堕天使だったはずだ。

 神話も善悪もごちゃまぜになった、怪物博覧会だ。そんな怪物たちに追い回されるレライエ。一応、魔法は全て避けているし、ムシュフシュもグザファンも打ち払っている。

 だが、その分攻撃は散発的だ。敵の猛攻を縫って、たまに地面に向けてブレスを放つ以外は、空を飛ぶ二人を叩いているくらいだ。それも、魔法に邪魔されて、全力で攻撃できているとは言い難い。


「すぐに救援に向かうッ! 然る後、転移による全軍の撤退だ!」

「でしたら、指示はキアス様が――――」

「いや、僕はやつ等を――――」

「私が向かいますッ!!」

「パイモン…………」


 あまりにも必死な叫びに、僕も、そしてマルコやミュル、フルフルまでもが、目を丸くする。

 たしかに、『委細任せる』と言っておいて、勝手に火中の栗を拾おうとするのは、前言を翻すようなものだ。でも、だからって…………。


「キアス様はどうか、皆に指示を……。キアス様は、皆の魔王様なのですから……」

「あ、ああ……」


 気圧される形で、僕は頷く。それを確認したパイモンは駆け出し、飛行機の翼からその身を空中に躍らせた。




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