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 お金の話っ!?

 「そうだ」


 僕は、トリシャが仲間になったことで、ようやく聞きたかったことが聞けることを、思いだした。


 湯船の反対側で、今は大人しく湯に浸かっているトリシャに声をかける。


 「トリシャ、真大陸のお金ってどうなってるの?」


 「お金………ですか?」


 トリシャは不思議そうに首を傾げる。


 「いや、魔族の通貨に関しては、パイモンから教えてもらったけど、人間の通貨を知る機会って今まで無かったからさ」


 魔族は、価値のある宝石や、魔物から獲れる魔石を、原石のまま疑似通貨として利用しているらしい。ただ、魔道具などの需要が多く、純度の高いものが市場に流通するのは稀らしい。因みに、僕のダンジョンで採れる魔石は、ボス以外は大した価値はない。純度的には、僕らが魔力溜まりに手を加えてしまっているせいで、かなり落ち込んでしまったのだ。それでなくても、高品質の魔石は、たまたま魔力の溜まりすぎた魔力溜まりから偶発的に生まれた、強力な魔物からしか獲れないものらしい。


 しかし、魔族の経済観念はあまりに杜撰だ。人間も、本当に魔族を倒したかったのなら、物理攻撃より、経済的戦略をもっと模索すれば良かったのに。

 真大陸中の魔石を集めて、魔大陸の食料を買い漁れば、戦争なんかしなくても、多くの魔族が死ぬだろう。逆に、食料援助を口実に、食料生産を真大陸に依存させるとか。通貨を、宝石だけに限定すれば、流出する宝石は、無限に産出されるわけでも無いので、次第に魔大陸の宝石は採り尽くされ、真大陸に多くが流れる。食料はまた育てられるので、真大陸にとってはノーリスクと言っていい。何年、何十年、下手をすれば何百年という時間はかかるだろうが、その分確実に魔大陸を困窮させる事ができる。

 等々、方法は他にも色々あるだろうに。




 とは言え、今は真大陸の通貨の話だ。流通している通貨が複数あると厄介だな。通貨価値は、刻々と変化するナマモノだし、暴落も恐い。普段から使う機会が無いことも、この場合は痛い。


 「通貨ですか………、不思議な事に興味を持ちますね、キアス様は」


 トリシャはやっぱり不思議そうな顔だ。

 普通、王族なら経済における通貨の重要性を理解しているはずなのではないだろうか。


 「通貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨、天帝金貨ですね。銅貨100枚で銀貨1枚分の価値があり、銀貨100枚で金貨1枚となり、以降も同じ割合です。

 銀貨1枚で庶民の一般家庭が、一週間は飢えずに毎日食事を摂れるくらいでしょう」


 「流通している通貨は、それだけ?」


 「?ええ」


 やはり通貨は1つのようだ。しかし、そうなるとその通貨を発行している国は、絶大な影響力を有していることになる。言ってしまえば、通貨を通して真大陸全土を支配しているに等しいのである。


 「トリシャ、その通貨を発行している国ってどこだい?」


 「え?あ、はい。天帝国リュシュカ・バルドラです。真大陸でも随一の領土を有し、あのアヴィ教ですら迂闊な対応など取らないと言われるほどですから、影響力は絶大ですね」


 そりゃあ、通貨を押さえている相手を敵に回したくはないだろ。いくら神様が味方してくれたって、お金の雨を降らしてくれるわけではないのだから。見ろ、僕を。スカンピンの一文無しだ。

 まぁ、話に聞くアヴィ教が、あの神様の庇護を受けているわけがないけれど。


 「しかしそうなると、銀貨以上の通貨って、市場にはあまり流通しなさそうだな」


 「そうですね。庶民の中では、大棚の商人などが買付や、貴族との取引のために、2、3枚用意している程度でしょうか。


 ああ、それと奴隷商ですね。


 彼らの商品は、ほとんどか金貨でやり取りされますから」


 「…………」


 思わず絶句してしまった。


 『奴隷』という言葉を、トリシャがあまりに自然に、何の気なしに使ったことに。


 地球にだって奴隷の歴史はある。発展途上国では、今でも奴隷紛いの労働を強いる場所もあるらしい。だから、技術の発展していないこの世界に、労働力としての奴隷がいる事に、なんら不思議はないはずなのだ。


 だが、


 やはり、地球の知識を有する僕には、中々ヘビーな話題であった。


 誰かが、生まれて生きている誰かの命が、まるで所有物のように消費されていくことに、気分が重くなる。


 「………トリシャの国にも、その………、奴隷っているの?」


 「ええ、犯罪者は、その罪を奴隷になる事で償いますから。とはいえ、極めて重い罪を犯した者は、極刑に処されますし、殺人を犯せば殆どの者が、死ぬまで奴隷労役を課せられます」


 「成る程、刑罰の一種なわけだね」


 じゃあいい、と言うわけではないが、いくらか気分も軽くなる。


 「アレ?でもそうなると、奴隷って誰が買うの?」


 金貨で取引されるなら、一般庶民は手が出ない。貴族などの富貴層は、わざわざ奴隷を買うより、使用人を雇うだろう。


 「犯罪奴隷は殆どが国営の農場や炭鉱で働かされます。売買は借金等で奴隷身分に堕ちた者がされますね」

 「おぅ………」


 「大規模な畑や牧場を持つ大領主や、中には農民でも奴隷を買うだけの余裕がある豪農が、労働力として買うそうです。

 軽い罪を犯した程度の犯罪者奴隷は、短い期間の労役で解放されますが、借金奴隷が解放されることなど、ほとんどありません」


 結局ヘビーだよトリシャさん………。


 「我が国では、奴隷に堕ちてもほとんど買い手が付きませんので、奴隷売買は行われていませんが、他国では労働力のみならず、愛玩用としても売買され、中には貴族などの富裕層まで買い上げていくとか」


 流石にトリシャの表情も優れない。女性として、思うところがあるのだろう。


 いや、全く。

 野蛮この上ないな、この世界は。




 「………うん、わかった。よしっ!」


 「どうかされましたか?」


 トリシャが、再び不思議そうにこちらを見てくる。


 「2つ程、やりたい事ができた」


 僕はそれに、満面の笑みで答えた。


 「2つですか?それは一体………?」


 トリシャだけでなく、静かに湯船に浸かっていたパイモンも、興味深そうにこちらを見ている。


 そんな2人を前に、僕は高らかに宣言する。




 「真大陸中の、奴隷を解放するっ!!」




 僕の宣言に、トリシャだけでなく、パイモンまでもが、あんぐりと口を開いて絶句していた。





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