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 ツワモノどもが前夜祭・2

 ギロリと、第五魔王が俺を見下ろす。キアスはともかく、俺が声を上げた事が意外だったのだろう。でもまぁ、声もあげようってもんだ。


「くっだらねぇぞ魔王! 戦なんてのはなぁ、他人に迷惑ばかりかけて、それで結局なぁーんも得るもののねぇ、為政者としちゃ下の下の、さらにも一つ下の行いだ。それを誇る? ちゃんちゃらおかしいぜ!」


 吐き捨てる俺の言葉に、しかし第五魔王は答えない。というか、顔も虫なので、なに考えてんのか見当もつかない。だからまぁ、言いたい事は一気に言ってしまおうと思う。


「そりゃあよ、戦に美学を求めんのも、哲学を持つのも、悪いとは言わねよ? 人を守り、国を守り、仲間を守る行いは正しい。その為に死んでいく戦士たちは尊いし、それこそ武人の本懐、あるべき理想の死に様なんだろう。それを悪いとは、口が裂けても言わねえし、そんな事したら俺ぁ、何人もの戦友の死を愚弄する事にもなる。

 だがよ、それでもぜってー忘れちゃなんねーのが、戦には死がつきまとうって事だ。民が死に、兵が死ぬ。踏み荒らされた田畑が死に、焼き払われた村が死に、敗北した国が死ぬ。

 武人の誇りってのは、なにかを守ってこそだ。戦がない事を憂いて、戦に焦がれ、無理に介入してまで戦に参加し、戦いたがるってのは、そりゃもう武人の行いじゃねえ。狂人だ。つまりお前は、戦闘狂であって、武人なんかじゃない」


 結局のところ、こういうやつ等はただ憧れてるだけなのだ。

 栄誉ある死に。

 戦って。戦って戦って。戦って戦って戦って。戦い抜いて死んだ戦友の姿に。戦場に憧れ、戦争を美化し、戦士たちを羨望しながら、自らもそうあらんと望む。

 しかし、自らの未来には、本当にそんな華々しい舞台が用意されているのかと、悲嘆し、不安に駆られる。食うに困って、病を患い、事故で、路地裏で、人里離れた山中で、はたまた罪を犯して、なんの意味もなく死ぬという、恐怖。最後まで武人であれないかもしれないという恐怖ゆえに、自他共に認める戦闘狂たちは今回の戦に参戦したのだろう。


「戦場があってこその武人だが、武人である為に戦場を望むなんてのは、本末転倒だ。何度でも言う。お前等が武人を名乗るな。それは、なにかを守る者の称号であり、お前等みたいな戦争ジャンキーが名乗っていいもんじゃねーんだよ」


 ふう。こんなもんか。言いたい事は一通り言い切ったな。スッキリだぜ。

 一息吐いた俺は、改めて第五魔王を仰ぎ見る。が、当の第五魔王は、既に俺を見てなかった。再び上空のキアスを睨みつけている。


「おい、アムドゥスキアス?」

『なんですか?』

「あれは、なにを言ってるんだ?」


 第五魔王が鎌のような腕で俺を指し示しながら、キアスに問う。その声音には、先程までの怒りは含まれず、ただ困惑が色濃く滲んでいた。


『いやまぁ、あれは一応、今現在は僕の麾下にあるけど、基本こっちの常識が通じない、頭の可哀想な子だから、あまり気にしないでください』

「あの男が先程のたまった御託は、貴様の意思とは違うと?」

『まさか。あんな事、僕は言えませんよ』


 なぬ? キアスは賛同してくれるものだと思ってたが、どうやら意見の相違があるらしい。


『そもそも、戦士がどうの、武人がどうのなんて事、僕が論じれるわけないじゃないですか。僕、武人じゃないし。だから、戦がどうの、美学だどうのと言われても、恐らくその本質はわかってないんでしょうね』

「ならば、踏み躙ってもよいと?」

『いえいえ、そんな事は言っていませんよ。ただ、シュタールの意見はシュタールの意見で、善悪、是非、正誤で判断するなら、秤はプラスに振れるのでしょう。やや自分勝手なもの言いでムカつくのは同意ですが……。しかし、シュタールが正しいからといって、それはあなたが間違っているという事にもならない。

 魔王が相争うこの戦争を、多くの魔族が望む以上、それは魔大陸の主流スタンダード。力を信奉する魔大陸における、魔王の力の序列をハッキリとさせる事。それは善でなくとも、是であり、正であるというのは疑いようがありません。

 とはいえ、僕がそれに付き合ってやる必要性ってのはないんですが、それでも民衆が熱望する以上、それを叶えてやるのは王の度量ってもんでしょう?』

「ならば貴様は、俺のなにを下らないとなじる?」


 もはや第五魔王の声に、怒気はなかった。それよりは、縋りつくような頼りなさすら感じられた。

 なぜそう感じたかはわからなかった。第五魔王は堂々とした口調でキアスに問いかけ、空中に堂々と身を晒すさまは、威風を漂わせている。

 しかし俺には、キアスに泣きついているように見えた。


『つまるところ、前提が違うんですよね。シュタールが〝徳〟を、アベイユさんが〝武〟を――――〝武〟でなくば〝覇〟を説いただけの事です。だからこそ、お互いの意見は嚙み合わない。それが、僕とアベイユさんの意見があっていない原因と、本質的には同じです。

 シュタールの道徳と、アベイユさんの武道、覇道が相容れないように、あなたのそれと、僕の王道・・は違う。そこには理解も和解もなく、正誤も是非もなく、理非も善悪もない。認識の不一致は、争って雌雄を決する事でしか、それを同一にはできないでしょう。それが闘争の本質であり、戦争がある一つの理由です。

 そして、だからこそ僕はあなたにこう言います。


 戦に美学があるというのなら、敗者にだって作法はあるでしょう?』


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