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 戦争と魔法っ!?

「おいおい、敵さんなにやってんだ? あれじゃ、すぐに全滅するぜ?」


 混乱半分、呆れ半分でシュタールが呟く。その視線の先、戦場の只中では、今まで矢の雨の中を果敢に猛進していた第五魔王軍の兵士が、その足を止めていた。

 今までバラバラに攻めていた兵士たちは、数人ずつ寄り集まり、それまでの勇猛果敢な進撃が嘘のように身を寄せながら、亀のように守りを固めて鏃の雨を凌いでいる。


「あのままなら、たしかに全滅するな。いくら防御力に秀でた種族でも、この攻勢の中をいつまでも安穏としていられるはずがない。矢を放っているのも魔族だからな」


 もし、弓矢が種族によって無用の長物と化すようなら、そんなものはとっくの昔に廃れているはずなのだ。おまけに、今は魔力を温存しているようだが、この世界には魔法がある。あのまま第五魔王軍の兵士たちが足を止めずに、第四魔王軍の前線に接近すれば、容赦無く魔法攻撃が彼等を襲っただろう。その威力は、矢などとは比較にもならない。


「じゃあ、あれはなにしてんだ?」

「おそらく、すぐに意味はわかる。って、言ってるそばから……――」


 僕がいうのとときを同じくして、戦場にそれまでなかった異物が出現する。


 壁。


 第五魔王軍の兵士たちが足を止めていた辺りから、背の高い壁が生えてきたのだ。地響きとともに、中級以上の土魔法を用いた防壁が、降り注ぐ矢を阻む。かなり強固に創造されたのか、その壁面は硬質な音とともに鏃を弾き、傷一つないままに聳え立つ。

 それが、戦場のあちこちで出現し、見える地形は一変する。トーチカというよりは、城壁に近いような背の高い壁。


「なるほど。矢を防ぎ、あそこまで安全に軍を進める為の壁か」

「それだけじゃねえ。第五魔王軍はあの壁を作る事によって、第四魔王軍の弓兵をほぼ無力化した」

「は?」


 いや、流石にそれは言いすぎじゃね? たしかに強固な壁だけど、あそこから出てきたらまたハリネズミにされんだから、そこまで大きな意味はないんじゃないの?

 だが、そんな僕の考えは、甘すぎたようだ。真剣な表情で戦場を見下ろしながら、シュタールはアベイユさんの戦略について説明する。


「あそこはもう、第四魔王軍の最前線に近すぎる。あんな場所から敵軍が出撃する事が可能になれば、弓兵の攻撃が成果を発揮する前に接近戦に突入する。接近戦における弓兵の脆弱性なんて、今さら説明するまでもねーだろ?」

「まぁ、それはな……」


 たしかにそれは、言うまでもなく、聞くまでもない事だろう。第五魔王軍の兵士たちが敢行した決死の進軍に、こんな意味があったとは。


「あの状況を是正するには、壁を壊すか、適切な距離をとる為に陣を下げる必要があるな」


 僕がそう言うと、シュタールは首を振る。


「それは難しい。どうやらあの壁は、かなり高度な魔法でできてるようだからな。流石、魔法適性の高い魔族だ。壊す為にも、それなりに高度な魔法を使う必要があるだろうぜ。生半可な攻撃で削るくらいじゃ、すぐに修復される。そしてなにより、高度な魔法でならたしかに壊せるだろうが、その為には魔法部隊を前面に晒さないとならない。攻撃してくれと言ってるようなものだ」


 魔法は、戦争における切り札だ。高威力、高防御、高射程、広範囲と、必要に応じて様々な魔法を使い分けられるうえ、その展開に必要なのは基本的に魔法使い一人だけであり、実にフレキシブルな運用が可能だ。

 だが、当然ながら弱点がないわけではない。魔法は使用魔力という回数制限があり、おまけに魔法使いというのは弓兵と同じく近接戦闘に向かない。壁の破壊の為だけにその切り札を危険には晒せない、という事だろう。最悪の場合、魔法部隊がその真価を発揮する前に蹂躙される。


「そして、退陣ってのはもっとねー話だ。こんな序盤の前哨戦で、退却なんてしてみろ。壁もなんも無視して、第五魔王軍が第四魔王軍の背中に襲いかかるぞ。戦争において最も被害がでるのは、撤退戦での追い討ちだからな。それになにより、士気も下がる。戦争における士気ってのは、数よりも大きな意味を持つからな」

「へぇ」


 珍しくシュタールの知識に関心する。やっぱり、勇者という事で、僕よりも戦争経験は豊富なのだろう。

しかし、せっかく僕が心の中で褒めてやったというのに、シュタールは僕の方に向き直り、呆れたように聞いたきた。


「『へぇ』って……。お前の軍だって、今この戦争に参加してんだよな?」

「そうだが、流石の僕も戦争は門外漢なんだよ」


 商戦なら得意分野なのだが、モノホンの戦争の勝手なんて見当もつかないのだ。

 戦争ばかりしてきた地球の歴史も、しかしこの世界ではほとんど役に立たない。なぜなら、見てわかる通り、この世界の戦争には、前提条件として魔法が存在しする。おまけに、魔大陸には空を飛べる種族、防御力に秀でた種族、その他様々な特技を持った魔族が存在する。真大陸に限っても、獣人、亜人、巨人と、バラエティに富んだ種族が犇めいている。

 とてもではないが、画一的な人間同士で争ってきた地球の戦法は、この世界ではほとんど役に立たないのである。


 ……まぁ、元々ほとんどそっち方面には詳しくないんだけどね。


「しっかし、これ第四魔王軍ピンチなんじゃねーの?弓兵だけとはいえ、軍の一部を無力化されたんだ。せっかくの数の利も、今回の壁でイーブンとは言わないまでも、結構埋められたと思うぜ?」

「まぁ、たしかに一本取られたのは覆せない事実だろうね。ただ、オールだって名にし負う三大魔王の一角。これで終わったりはしないさ」

「なんか知ってんのか?」

「まぁね」

「お、第四魔王軍が弓兵を退げたな――って、おいおいおいっ!! マジかよっ!?」



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