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 開会式っ!?

「見事な鬨の声だった。第十三の」


 静かにそう言って、頷くアベイユさん。一番上の鎌のような手と、二番目の腕を組んで、堂々と仁王立ちしている様は、本当に威風堂々とした言葉がぴったりだ。


「特段、油断していたつもりはない。慢心していたつもりも、敵を見下していたわけでもなかった。だがやはり、どこか気を抜いてしまっていたのだな。貴軍の鬨の声に、こちらも気合を入れ直した。礼を言う」

「いえいえ。敵に塩を送る、なんて諺もあります。お気になさらず。あ、なんなら、本当に塩差し上げましょうか? 定価の三倍くらいでお売りしますよ?」

「カカカ。たしかに小気味好い大声じゃったの。あれを聞いた我が軍の司令官は、我に恥をかかせたと自刃を願い出た。カッカッカ。まぁ、明らかに小勢のキアスの軍より、大軍の我が軍の方が声が小さいというのは、ある意味で恥じゃしの」


 うげっ……。なにそれ……。声出てなかったらからハラキリって、どんなブラック? いや、ブラックっていうかレッドだけど……。でも、自分から言い出したらしいし、社畜精神旺盛だな。

 そういうさぁ、僕の知らないとこで、勝手に僕のせいにして死なないでくれないかなぁ。すげぇ胸糞悪いから。


「まぁ、このクソ忙しい時分に、幹部の入れ替えなんぞ面倒じゃし、戦力的にも惜しいでな、自害は禁じて『戦場にて恥を雪げ』と言っておいた。じゃからアベイユ、覚悟せよ? 今回の我が軍は、少々殺気立っておるぞ?」

「あ、死んでないんだ。ならよし」

「うむ。こちらも気合を入れ直したところだ。存分にやり合いましょうぞ」


 さて、こうして戦場のど真ん中、三つの軍の頂点三人が顔を合わせたのだ。やる事は決まっている。……決まっているのだが、その前に――――


「アベイユさん、一つだけ、確認したい事があるんですが、いいですか?」

「ん? どうした、第十三?」


 草原に仁王立ちする昆虫版キメラのアベイユさんが、僕を見下ろす。これだけで、普通に肝の冷える光景なのだが、僕はこれから、この人と戦争をする事になっている。人生、どこをどう間違えたらこうなるんだろうね?


「いえ、今更な事で申し訳ないんですが、アベイユさんが、そして第五魔王軍が今回戦争に参加した目的ってのを、もう一回確認しておきたかったんです」

「ふむ……」

「端的に言うと、かつて戦に明け暮れた古兵たちが、昨今めっきり槍働きの機会がない。だというのに、自分たちとは全く関係のないところで戦が起こり、自分たちとは全く関係なく、一方的に収束してしまいそうになっていたのが、気に食わない。自分たちも混ぜろ、戦わせろ。面白いから劣勢の側に回ろう、という事でよかったですか?」

「……」


 押し黙るアベイユさん。あれ? これって、共通認識だったよね? それに対し、オールが――――


「カカカカカカカ!! その通りよ!! その通り過ぎて言葉もないの、アベイユ! じゃがのキアス、それは我とて同じよ。やはり戦ほど猛り、楽しきものはない。否。あるはある。じゃが、戦でしか得られぬ愉悦というのは、他で補えぬのよ」

「ふーん。まぁ、そういう戦士の考えについては、僕は全くわからないんだけど……。つまりは特に思想があるとか、特に第六魔王に肩入れする理由がある、とかじゃないんだよね?」

「そうだな。まぁ、強いてあげるなら、第六魔王とよしみを深められる、程度の利点はあろう」

「逆に言えば、それしかないと。了解です。それだけ聞ければ十分です」

「ほう……? なにか企んでおるのか?」

「え? もしかして、アベイユさんはなにも企んでないんですか?」

「フハハハハハハハハ!! その切り返しは想定していなかった!! そうよな! 戦ともなれば、策謀術数の坩堝。聞いた俺が馬鹿だった。許せな。無論、俺だって策の十や二十は用意してある。楽しみにしておけ」

「いえいえ。おそらく、楽しむ間もなく、僕の策の餌食ですから」

「吹くではないか。面白い。……ああ、やはり良いなぁ……。こういったやりとりこそ戦よ……」


 陶然とそう呟いたアベイユさんは、すぐにいつもの声音に戻ると、やはり堂々と宣言する。


「よかろう。だが、忘れるなよ第十三。俺もたしかに戦闘狂だが、我が軍は全員が戦闘狂だ。小賢しい策も、狡っからい策も、すべてを蹂躙するだけの力と、数がいる。数は力だ。いかなる策を用いようと、我が精強なる兵士どもが、貴様の寄せ集めの小勢に負ける道理などないと知れ」

「了解です。すみません、僕の確認に時間を取らせてしまって。じゃあ、そろそろ時間も押してます。始めましょうか?」


 僕はそう言って、他の二人を見回す。そう、僕等がここで顔を合わせているのには、理由がある。まずはじめにオールが頷く。


「よかろう。今より開戦じゃ。良き戦をしよう」


 続いてアベイユさん。


「戦となれば、命の奪い合い。お二方とも、油断召さらぬよう。開戦を宣言する」


 最後に僕。


「オッケー。じゃあ、アベイユさん。ついでにオール。正々堂々なんてクソ食らえのアリアリルールで、戦争しよっか」


 こうして、魔大陸大戦の火蓋は切って落とされた。



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